プロメテウスの政治経済コラム

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トヨタ米公聴会  新自由主義に毒された落日トヨタは、没落日本社会の象徴

2010-02-26 20:38:20 | 政治経済
トヨタ自動車の急加速、大量リコール(無料の回収・修理)問題で、同社の豊田章男社長が米下院で証言した。かねてより、アメリカ企業の経営は、株主の気に入られるように短期的な利益のみを追求し、経営者は、金融や財務には明るいが生産現場を知らず、長期的な開発、生産能力の強化で日本企業に遅れをとったといわれたものである。そのアメリカで、日本の製造業を代表するトヨタの社長が、「トヨタには、消費者の安全より、もうけに関心を払っている明白な証拠がある」といわれてしまった。トヨタはアメリカ新自由主義に毒され、効率を優先し株主を優遇して、「現場」を粗末に扱ってきた。そのなれの果てが今の姿である。国の政治は、弱肉強食の新自由主義を導入し大企業を優遇し米国に隷属し、まじめに働く国民を粗末にしてきた。落日トヨタと没落日本社会は、みごとに重なる

 証言の中で豊田社長は、トヨタ車の不具合で死傷したユーザーに謝罪。大規模リコールに至った理由に関しては、ここ数年の急速な事業拡大の中で、品質管理がおろそかになっていたことを率直に認めた。トヨタに対して厳しいバッシングが目立っていた米メディアを宥めるには、一定の効果があったようだ。しかし、トヨタに対する不信感がこれで一掃されたわけではない。「トヨタは最初はドライバーを責め、次はフロアマットの不備にし、3番目にはアクセルペダルにした」と、その「もうけ優先」「欠陥隠し」の体質への批判が相次いだ
「意図せぬ急加速」問題について、トヨタ車で急加速を経験したという女性が、トヨタの対応を痛烈に批判。委員からは電子制御システムの不具合を追及する声が相次いだ。これに対して豊田社長は「設計上の問題はないと確信している」と述べ、論証抜きで、システムの欠陥を否定した

 リコールの引き金は、2009年8月にカリフォルニア州サンディエゴで起きた悲惨な事故である。トヨタの高級車レクサスが突然暴走し始め、道路わきの柵を突き破って大破・炎上し、乗っていた家族4人全員が死亡した。「レクサスに乗っているんだが、アクセルペダルが戻らなくなってしまって。非常に困った状況に陥っている。ああブレーキが全く利かないんだ!交差点近づいてくる!つかまって!つかまるんだ!神に祈るしかない、祈ろう!」――日本の110番に当たる911に衝撃音とともに途切れたドライバーの悲痛な叫び声が残されていた(小椋浩史「トヨタバッシングの悪夢」『週刊金曜日』2010・2・19)。
トヨタは当時「原因を調べたうえで対応する」とコメント。別の車種用のフロアマットを使い、しき方も適切でなかったために、アクセルペダルが戻らなくなったと結論付ける。車体の欠陥ではなくフロアマットがアクセルペダルに引っかかる不具合としてリコールを実施することとした。しかし、結局、アクセルペダルの欠陥を否定しきれず、今年1月、アクセルペダルを補修する新たなリコールに追い込まれたのだ

 実は、トヨタは07年に別の車種で、同様のペダル不具合を把握していた。豊田社長はアクセル問題を知ったのは「昨年末あたり」だと答えているが、ウソである。07年のリコールの際、当局と交渉してリコールを小規模にとどめた結果、「1億ドル以上を節約できた」とする内部文書が暴露され、社長が知っていたのでは、困るからである
資本主義のもとでは、レーニンの昔から金融資本の寄生性、腐朽性について、つとに強調されてきたところであるが、メーカーの代表であるトヨタまで、製品の品質より、何が何でも利益優先に陥っている姿は、日本資本主義の未来をいっそう暗くする。豊田社長は、「ものづくりを実践するための最大の鍵は人づくりである」と一応、語っている。トヨタは「基本理念」として、下請けとの「共存共栄」を掲げてきたのではないか。いま、反省すべきは、これらの根本が大きく揺らいでいることだ

 トヨタの生産方式は、いくつもの仕事をこなせる多能工の「熟練」とそのチームワークに支えられているシステムである。しかし、今、トヨタの現場では多能工の絶対数が不足している。海外生産の拡大戦略のもと多くの多能工は、海外工場へ出張、出向させられることになり、期間従業員、派遣労働者などの非正規労働者が30%から40%占めるまでになっているという。開発・設計部門では、期間従業員などの非正規労働者が半数近くになっている。車全体のシステムを見ることができる熟練労働者はもとより、設計労働者が不足し、連日連夜、仕事に追われてる状況が続いている(丸山惠也・立教大名誉教授「トヨタ大量リコール問題の背景」「しんぶん赤旗」2010年2月25日)。

車はハイテク化し、鉄から”コンピューターのソフトウエアのかたまり”になったといわれ、車一台に使われるプログラムは約1千万ステップといわれる現場が疲弊し、空洞化しても、ただ利益追求のために生産を拡大する。これで、製品の品質が保証されるわけがない。「米国自動車殿堂」入りした、豊田章一郎名誉会長は、戦後不況期に、自動車以外に雇用の場をつくろうとかまぼこ作りを修業したという。品質を高めるために現場の作業員に一番の発言権を与え、会社の都合で解雇しないことはトヨタ創業期の経営理念でもあった。だが、いまや、目先の利益を優先して安全も技術の蓄積もないがしろにする新自由主義に毒されてしまった。落日トヨタと没落日本社会とが、みごとに重なる。

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