プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

イラク新政権 米軍占領下でのイラク国民の統一は難しい

2006-05-23 17:34:32 | 政治経済
イラクに新政権が発足しました。マリキ新首相は「国民間の対話と和解」の促進、「イラクの主権、統一と独立」を優先課題にあげています。しかし、米軍と有志連合軍が占領を続けるもとで、これらの課題を実現することは、大変厳しいといわざるを得ません。

04年6月に連合国暫定行政当局(CPA)からイラク暫定政府に行政が移譲され、05年1月に同政府のもとで、憲法制定を主任務とする暫定国民議会選挙が実施されました。スンニ派の多くがボイコットし、投票率は58・3%でした。10月には国民投票によって新憲法が承認され、これに基づく12月の国民議会選挙(投票率70%)にはスンニ派も加わり、イラク国民の手による議会が成立しました。しかし、正式首相のポストをめぐる国民議会での宗派間の争いで、4カ月近い政治空白が続きました。この間に爆弾テロ、宗派間の暴力がエスカレートし、二万人近くが犠牲となりました。そして20日、憲法で決められた期限(21日)目前ぎりぎりのところで、マリキ首相を首班とする新政権が発足したのです。宗派間、民族間対立の焦点となっている内務相や国防相、治安担当国務相は依然暫定のままです。
当面、イスラム教・シーア派のマリキ首相が内務相を兼任し、ザウバエイ副首相(イラク合意戦線)が暫定国防相、サレハ副首相(クルド人)が暫定治安担当国務相に就きます。

イラクでの「対話と和解」の実現には、昨年12月の議会選挙から今回の組閣まで5カ月を要した過程に現れているように、大きな困難があります。
米英軍のイラク攻撃によるフセイン政権打倒は、「地獄の門」を開きました。イラクの主権を侵犯することは、抵抗勢力を呼び起こすとともに、「テロ」をはびこらせ、占領統治のための分断政策は、諸勢力間の対立を引き起こすことになりました。

それだけに、イラクの諸勢力が対立を克服し、真に主権を行使できるようにしていくためには、占領外国軍という災いの大本を取り除いて団結することが必要です
しかし、アメリカは中東支配の拠点としてイラク支配を続ける意図を明確にしています。ブッシュ米大統領はイラクの新政権発足にあたり、「自由なイラクは対テロ戦争で重要な同盟者であり、テロリストとアルカイダに壊滅的な打撃を与えることに貢献するだろう」とのべ、新政権がアメリカの傀儡であることを隠していません。米軍はイラクに居座り続け、数10億ドルを投じて、14の永続的基地をはじめ約100カ所の米軍基地を建設中です。

イラク新政権は「国民間の対話と和解」の促進とともに、「イラクの主権、統一と独立」を優先課題にあげています。しかし、米軍に占領されたままでの治安の回復も主権の行使も大変厳しい課題だといわざるを得ません。
戦後60年以上米軍に占領され、いまだに主権を回復できていない日本がその端的な事例です(条約上主権回復の道が保障されているにもかかわらず支配層が国民の多数を抱き込むことに成功しています)。


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