プロメテウスの政治経済コラム

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「近未来通信」詐欺事件――事前チェックから事後チェックへのウソ

2006-12-24 18:26:41 | 政治経済
通信事業を所管する総務省で、電気通信の届け出事業者の監督を担当するのは、総務省データ通信課。「『事後チェック』にあたる業務は何か」という「赤旗」記者の問い合わせに、総務省は「届け出を受け付けること。以上です」と回答。「問題があったら対応する」というが、検査に入ったのは今回の「近未来通信」が初めてとのことである(「しんぶん赤旗」2006年12月24日)。
「産經新聞」(2006/12/22 09:22)も次のように伝える。
 《「4年ほど前、知人から相談を受け、近未来通信を調べたが、怪しい話と感じて絶対に乗らないよう忠告した」。多摩大学の井上伸雄教授(通信工学)は振り返る。当時からネット上にも近未来通信の事業への疑問の声はあふれていた。最低1100万円の出資金で「中継局」と名付けたサーバーのオーナーを募り、「利用者の通話料から出る配当金で出資金は2~3年で回収できる」と投資家に説明。サーバーの設置台数は2466台とされていた。そもそも、この数字が「怪しい話」だった。「近未来通信の通話回数ならばサーバーは1~2台もあれば十分だったはず」(井上教授)。ところが、総務省はマスコミの疑惑報道が始まった今夏まで問題に気付かなかったという。大橋秀行データ通信課長は「『投資対象として大丈夫か』との問い合わせは何度かあった。ただ、『そのような問いに答える立場にありません』と返答して終わり」とそっけない。》

「当社はNTTと同じ電気通信事業者です」。近未来はこう説明し、投資家も「国のお墨付きを得た業者と思って信用してしまった」と話す。同社は99年、当時の電気通信事業法に基づく「一般第2種電気通信事業者」になった。NTTのような自社回線を有する大手は総務省の許可が必要な第1種。一般第2種は届け出制で同省の経営審査もない。こうした届け出のみの業者は約1万4000社もある。書類さえ提出すれば登録業者になれるからだ。「無届け運営」での摘発から逃れるために申請している「出会い系サイト」を営む業者も含まれ、法律的には電気通信事業者となっている(「産經新聞」同上)。

通信事業「規制緩和」の導入に際して、業者の事前チェックから「事後チェック」体制がとられた筈であるが、通信利用者保護に対する規制はあっても事業者を監督することは事実上、何も行われていなかった。データ通信課の人員は「十数人」で、業者の監督だけを専任する職員はいない。何か「問題があったら対応する」ということだが、「問題」を把握するための日常業務は「特に何も行っていない」ということである。データ通信課課長は「トラブルの直接の対応は地方局(総合通信局)の仕事」というが、総合通信局側は「検査などは本庁主導。業者の状況を細かく見るのは無理な話。数が多いので検査はされていなかった」(関東総合通信局電気通信事業課の担当者)と説明。本庁でも全国に11ある地方局でも、日常の監督業務はなにも機能していなかった(「しんぶん赤旗」同上)。

起業振興策として徹底的に容認された規制の緩和、自由化のなかで、日本の経営者は、会社や事業の公益性、規範意識を忘れてしまったようだ。よく言われるように、 最大自由を肯定するアメリカ資本主義社会は、失敗を重ねながら、その都度厳しい事後規制システムをつくってきた。日本のように市民社会の規範意識が乏しく、必要な訓練を受けていない経営者(政治家も同類だが)に対して規制緩和することは、社会を無法状態に戻すことを意味する。よく資本主義社会は、契約自由の社会だといわれる。しかし、その「自由」は無制限の「自由」ではない。「確かに、自由意思を前提とした契約自由の原則は、人間が自由意思人である、人間は無限の存在であり、自分ひとりで生きて行ける、と思えた頃なら、存在したかもしれない。しかし、人間の有限性と個々人全ての生のかけがえなさが自覚認識されるようになった現代社会では、それは、度を越した勝利者意識と物欲がこうじた結果の、病者の妄想でしかない」(自然法研究家岩崎秀政)。公序良俗すなわち多様な自立した個々人の共生をぶち壊すような輩には、徹底した法規制が必要なのだ。

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