プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

自衛隊が国民の生命、財産を守るというのは誤解――元自衛隊幹部が明言

2007-06-15 19:09:40 | 政治経済
先日、東大総合文化研究科の高橋哲哉教授の講演を聞く機会があった。「国を守るということ」について、自衛隊の幹部がどのように考えているか、幹部自身の著書をいくつか紹介された。
栗栖弘臣『日本国防軍を創設せよ』(小学館文庫2000年)のなかで、第10代統合幕僚会議議長(自衛隊制服組トップ)の栗栖氏は次のように明言している。「今でも自衛隊は国民の生命、財産を守るものだと誤解している人が多い。政治家やマスコミも往々この言葉を使う。しかし、国民の生命、身体、財産を守るのは警察の使命(警察法)であって、武装集団たる自衛隊の任務でない。自衛隊は『国の独立と平和を守る』(自衛隊法)のである。  この場合の『国』とは、決して個々の国民を意味しない」。そして「現代の戦争は国民全部の戦いであって、決して自衛隊のみが『守る』のではない。自衛隊は最前線の最も苛烈(かれつ)な局面を担当するが、国民すべてが強固な抵抗意志を持たなければならない」。
守るのは、個々の国民ではなく、「国」であると正直に書いている。「国」とはなにか。栗栖氏は元帝国海軍の軍人だから、彼の言っていることは、要するに天皇制国家の國体である。社会科学的には、唯一最高の権力者である天皇が軍部・官僚をひきいて、資本家・地主階級の利益を擁護する体制である。さしずめ、現代ではアメリカ帝国主義と日本独占資本の利益ということになろうか。
さらに、自分たちは前線に出るが、国民すべてが戦えとういうことを言っている。抵抗意識が弱い者、反対する者は非国民であり、日ごろから監視し、考えの改まらない者は投獄しなければならい。

元三等空佐の潮匡人『常識としての軍事学』(中公新書ラクレ2005年)もほぼ同じ趣旨のことを書いている。
「軍隊は何を守るのかといえば、その答えは国民の生命・財産ではありません。それらを守るのは警察や消防の仕事であって、軍隊の『本来任務』ではないのです」「ならば、軍隊が守るものとは何なのか。  国家目的という言葉がしっくりこなければ、国家にとって『至上の価値』と言い換えてもよいでしょう。国家にとっての至上の価値とはなにか―それは國体である。國体というと眉を顰(ひそ)める向きもあろうから、『伝統文化』と言い直してもよいでしょう」。
安倍首相が盛んに言う「国柄」「美しい国 日本」である。支配階級・特権階級にとって「美しい国」は、搾取され、収奪される人びとにとっては、過酷で暮らしにくい日本である。そんなことは、少し現実を見ればすぐにわかる。そこで、わが国の歴史、伝統に基づく固有の文化、民族意識、家族意識という抽象的な概念で国民を統合しようというわけだ。

志方俊之『自衛隊に誇りを』(小学館文庫2001年)は、自衛隊は日本を守ることが任務だが、実際に日本が攻撃された場合、自衛隊だけで日本を守るのは無理だ、国民全体が立ち上がり、戦わねばならない。自衛隊は、国民が立ち上がるまで戦うだけだ、と端的に述べている。志方氏は元陸将、北部方面総監のエリートである。
自衛隊が守るのは、國体(その内実は支配階級・特権階級の利益)であり、戦争には、必ず国民を動員する、しなければならない―これが、自衛隊幹部の結論である。だからこそ、国民監視活動が必要であり、沖縄戦での軍官民の共生共死一体化にこだわるのだ。

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