プロメテウスの政治経済コラム

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中国が麻薬密輸罪で日本人の死刑執行  改めて考える死刑制度

2010-04-06 18:48:43 | 政治経済
中国遼寧省高級人民法院(高裁)は6日午前9時半(日本時間同10時半)、麻薬密輸罪で死刑判決が確定した赤野光信死刑囚(65)=大阪府出身=の刑を大連市看守所で執行した。中国で日本人の死刑が執行されたのは1972年の日中国交正常化以降初めて。外務省によると、戦後、海外で刑事犯として日本人の死刑が執行された記録はないという(「毎日」 2010年4月6日 夕刊)。
第62回国連総会(2007)で、欧州連合(EU)諸国など87カ国が共同提案し、加盟国に死刑執行の一時停止を求める決議案が賛成104、反対54、棄権29で採択されたとき、日本、米国、中国、インド、北朝鮮などが反対した。死刑廃止が国際的な趨勢になりつつある中、日本、中国、米国などが頑なに拒否している。
東南アジアでは、DRUG犯罪の最高刑が死刑の国は結構多い。今回の死刑執行は、死刑制度を当然とする中国政府にすれば(この点では日本も同じ)、国内法に従った公正な措置をとったということになるのだろう。この機会に改めて死刑制度について考えてみよう

 私が、東南アジアに初めて出張したとき、会社の先輩から注意されたことの一つにどんな美人に“ちょっと荷物を預かって”と頼まれても絶対に断れということがあった。もしその荷物にDRUGが入っていたら大変なことになるというわけである。
日本では、覚せい剤を営利目的で密輸した場合でも、最高刑は無期懲役。だが、アムネスティによると、アジア地域には、薬物に関連する犯罪で最高刑に「死刑」を設けている国が多い。2009年8月現在、中国、タイ、マレーシア、シンガポールなどアジアの16か国が、薬物犯罪の最高刑を死刑としており、自国民だけでなく外国人でも死刑が執行されているケースも少なくない、という(「読売」4月6日15時51分配信)。
東南アジアの空港のあちこちで、“WARNING/DEATH FOR DRUG TRAFFICKERS UNDER XXX LAW”の表示を発見したとき、私は先輩の忠告の意味を理解した

 赤野さんのケースは、06年9月に大連の空港で、共犯の石田育敬受刑囚(同罪で懲役15年確定)と、約2・5キロの覚せい剤を日本に密輸しようとして警察に拘束され、1審判決を経て昨年4月に同法院で死刑が確定していたという。
さらに、名古屋市の武田輝夫(67)、岐阜県の鵜飼博徳(48)、福島県の森勝男(67)の3人も同罪で死刑が確定しており、中国政府は8日にも刑を執行すると日本政府に通告している。
日本政府は、いずれの刑執行にも「刑が重すぎる」と懸念を表明しているが、中国政府は麻薬犯罪には厳罰で臨むということであり、中国の国内法の規定に基づく以上、やむを得ない側面があると受け止めるほかない、としている
一方、中国政府は、赤野死刑囚と家族らの面会を執行前日に認め、執行を1日延期するなど配慮も示していた(「毎日」 同上)。

 中国は昨年12月にも麻薬密輸罪で死刑が確定した英国人死刑囚の刑を執行し、英政府や人権団体から厳しい批判を受けた。英国は動揺しながらも、現在、犯罪の如何を問わず死刑廃止を維持している国なので、道義的に中国を批判することができるだろう。しかし、日本では死刑制度存置派が支配層だけではなく、民衆の間でも圧倒的である。その意味では、中国の死刑を批判する道義的立場はない。

 死刑制度をどう考えるかは、難しい問題である。
よく言われるのは、いわゆる死刑による犯罪の「抑止効果」である。ところが、最近の凶悪犯の容疑者は犯行動機を聞かれて「死刑になりたかった」とよく口にする。しかし、「僕は、(供述を)額面通りに受け取らない方がいいんじゃないか、という気がしています。まったくウソではないでしょうし、そういう要素もあると思いますが、人の心は揺れますから。死刑制度があるから、死刑になりたいが故に罪を犯した、というふうに短絡的に考えない方がいいと思うんです」(森達也さん)。私も、人が事件を起こすとき、少なくとも犯罪の瞬間には、死刑制度の意識はないのではないかと思う。事実、死刑の犯罪予防効果には、有意差が認められないという

 私は、死刑制度を突き詰めて考えると、要するに被害者・遺族関係者に対し「死んで償え!」ということだと思う。一方、被害者・遺族関係者以外の社会の見物人には、これで「一件落着!」と何かすべて解決したかのような気持ちにさせる。
被害者・遺族関係者は気持ちの高ぶりから「死んで償え!」と叫び、実際に「死んで償ってもらって」、しかし、本当にすべて解決した気持ちになれるだろうか
死でもってすべて一件落着にする死刑制度は、間違っているといえるが、それ以上には、私には、よく分からない。

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