プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

普天間「移設」問題  グアム移転後の海兵隊を日本に残すことが本当に必要か?

2009-11-25 21:31:20 | 政治経済
鳩山由紀夫首相は普天間「移設」問題について一体いつ最終判断をするつもりなのだろうか。官邸周辺からは「早めに結論を出す」という声も聞こえてくる。来年1月24日に投開票される沖縄県名護市長選で、「新基地建設反対」の統一候補に稲嶺進氏が決まるなかで、民主党県連も推薦する基地反対派の稲嶺氏が勝つと、政権の意向と矛盾する可能性もあるからである。
「地政学上の理由から、基地は沖縄になければならない」と「解説」する人がよくいるが、間違いである。日本政府が、米軍に対して巨額の金を払って、わざわざ日本に駐留していただいていると思っているから、米軍側も、60年以上にもわたって慣れ親しんできた日本の基地を、お陰で安上がりに維持できるメリットを手放したくはないと思っているだけである。日本の外務・防衛官僚は、米軍が冷戦後の戦略環境変化や米国の財政事情によって在日兵力を削減・撤退させようとするのをなぜか極度に恐れていて、日米同盟には手をつけられないという観念論に未だに支配されている。日本総合研究所会長の寺島実郎氏が言うとおり、「敗戦後の一時期に外国軍隊が駐留するのは珍しくないけれど、独立後も外国の軍隊が駐留し続けることは不自然」なのだ。

 沖縄は、米軍の3つの海兵隊遠征軍の1つである第3遠征軍の本拠地である(第1と第2は米本土に本拠地がある)。在沖の第3遠征軍は、海外に駐留する唯一の前方展開・有事即応の海兵隊部隊で、第3海兵師団、第1航空団、第3後方群のワンセットと、それとは相対的に独立している第31海兵遠征隊とを持っている。兵員総数は、定員も編成も常に流動していて、米軍当局も詳細を発表するわけではないので、よく分からないが、日本政府はSACOや2+2での米軍再編協議を通じて「1万8000」と言っており、米軍当局の08年3月末の発表では「1万3200」である。
06年5月に策定された「再編実施のための日米のロードマップ」によれば、このうち約8000名の第3遠征軍の要員と、その家族約9000名は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する。移転する部隊は、第3遠征軍の指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群司令部、第1海兵航空団司令部及び第12海兵連隊司令部を含む。
沖縄には第31海兵遠征隊が残る。また、第1海兵航空団の司令部はグアムに移るが、普天間(の代替基地)の第36海兵航空群(ヘリ3中隊、C-130輸送機など)は当然残り、岩国の第12海兵航空群(有翼戦闘機、普天間から移った空中給油機KC-135など、約3000人)と一体的にグアムの司令部から指揮される。そのほか基地支援部隊などが必要で、それを加えると合計5000人程度が残ることになるようだ。在沖海兵隊の現有勢力が1万3000人だとすると、8000人を差し引いてちょうど5000人で、勘定が合う。

 問題は、この残る5000人は何が何でも沖縄にいなければならないのかどうか、ということである。台湾有事にも、朝鮮有事にも在沖海兵師団が要らなくなったから、海兵はグアムまで引くことになったのではないのか
日米両政府は、1971年の沖縄返還直前、駆け込み的に日本本土の米軍海兵隊のほとんどを沖縄に移動させる戦略をとったが、この時から普天間飛行場は本格的に海兵隊の基地になった。日本本土では、ベトナム反戦運動の影響で各地の米軍基地で海兵隊など戦闘要員の駐留に反対が強まったので、日本政府は、沖縄が米軍の占領下にある間に、本土の海兵隊を沖縄に移駐してもらい、本土復帰時に「沖縄は米軍基地の島」という既成事実ができているように仕組んだのだ(田中宇の国際ニュース解説「日本の官僚支配と沖縄米軍」2009年11月15日)。
海兵隊は、戦争が起こりそうな地域での恒久駐留が必要な軍隊ではない。海兵隊は、日本に金を出してもらえて、米国にいるよりも安上がりなので、沖縄にいるだけなのだ。米軍の現在の技術力からすれば、中国を仮想敵とみなす場合でも、沖縄に必要なのは、有事の際に使える港と滑走路だけであり、軍隊が常駐している必要はない。米国はここ数年、中国を戦略的パートナーとみなす傾向を強め、日本以上に中国を重視している。日本も、財界自身が中国との東アジア共同体を作る方向を提言しているように将来の生き残りを考えたら、もはや中国を敵としているような場合ではない。これは地政学的な大転換である。「地政学上の理由から、基地は沖縄になければならない」と「解説」する人は、国際情勢の変化が目に入らず、日米同盟には手をつけられないという観念論に支配されているだけなのだ

 鳩山首相は沖縄の米軍・普天間基地問題をめぐり、「(日米閣僚級作業部会で)結論がまとまれば、一番重い決断として受け止める」などと言っている。日米の閣僚級協議会で議論するのは当然だが、議論になるのだろうか。アメリカ側は、辺野古移転で一致しているし、日本側のメンバーは、辺野古案の防衛大臣と嘉手納案の外務大臣。これでは、県外・国外移設など、合意しようがない。全員が沖縄県内に基地を押し付ける立場の人物ではないか首相が、ここでの結論を「一番重い」ということは、結局沖縄県内に基地を押し付ける結果にしかならない。一番重いのは作業部会の結論ではない。沖縄県民の意思だろう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。