プロメテウスの政治経済コラム

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クローン家畜は安全?   やっぱり気持ち悪い

2009-06-29 20:19:42 | 政治経済
体細胞クローン技術で生まれた牛や豚の食品としての安全性について、内閣府食品安全委員会(見上彪委員長)は6月25日、「従来の家畜と同様に安全だ」とする評価書をまとめ、厚生労働省に答申した。厚生労働省の安全規制の対象外というわけだ。もっとも、農林水産省は26日、「クローン牛は『安全』と思うが、生産率が極めて低く、コストが高くなるため、食用として市場に回すことは見込めない」として、当分の間は引き続きクローン牛生産を研究に限定することを明らかにしている。
アメリカでも体細胞クローン牛自体の出荷はまだ自粛されているが、クローン牛と普通の雌牛を交配させて生まれる後代が市場に出ている可能性があるという(植田武智「クローン牛なんて食べたくない」『週刊 金曜日』2009・5・15 750号)。
私たち人類は自然の摂理に従って、自然界の恵みを摂取しながら、類としての生命を保持してきた。体細胞クローンは、受精というプロセスを経ないで新たな生命を誕生させようとするものだ。哺乳類動物の場合、自然界で起きることはない。体細胞クローン技術で生まれた牛や豚が、自然の摂理に従って生まれた牛や豚と「同様に安全だ」というのは、無責任ではないか。

世界ではじめて体細胞を使ったクローン動物の誕生に成功したのが、1996年7月にイギリスで生まれた「ドリー」と名付けられたクローン羊であった。日本でも1 9 9 8年6月に国内で初めてクローン牛の一卵性六つ子の誕生に成功した。
哺乳類のクローンを生み出す方法には、受精後発生初期(胚)の細胞を使う方法と成体の体細胞を使う方法がある
(胚)の細胞を使う方法は、受精プロセスを含んでいる点では従来の繁殖法と同じであるが、同じ受精卵から生まれた子どもはすべて同一の遺伝子を持っている。まさに一卵性の双子、三つ子、四つ子を人為的に産出するものである。ただし、細胞分裂がある程度進んでしまった細胞では、クローンの産生ができないため、産生できるクローンの数には限りがある。

これに対して、成体の体細胞(皮膚や筋肉など体の一部の細胞)を使用する方法では、理論上新しく産生される個体が持つ遺伝子の構成は元の体細胞の遺伝子とほとんど同一になる。また、使用できる体細胞の数には制限がないため、理論上、クローンを無数に産生することができる。ただ技術的に不完全で不自然である(すでに皮膚や筋肉になってしまった細胞を受精卵のように全能性をもった細胞にリプログラミングする)ので、成功率はかなり低い。動物の種類にもよるがだいたい10%以下だという(植田武智 同上)。農林水産省が「生産率が極めて低く、コストが高くなる」といっているのはこのことだ。

実際にクローン動物を作り、それに関する研究をしている人は、次のように言っている。「どの種においても、クローン個体には、 奇形・過大・短命などなど、の問題があります。 それは、ゲノムインプリンティングとか、リプログラミングとかそういった生物的な現象がはっきりしないと解決しそうにありません。そういった意味でクローンは大変危険です。」
体細胞クローン技術は未熟なので、牛にとっては(腹を貸す雌牛にとっても)危険だが生き残ったクローン牛を食品として利用しても危険でないと食品安全委員会は言うのだろうか。仕組みが不明なまま、強制的に遺伝子の自然の摂理を操作すれば、なんらかの異常が体内に残ると考える方が自然ではなかろうか。
植田さんは、次のように問いかけている。「科学的な仕組みが不明な技術を導入して、わかっている範囲で普通の肉と同等だから食べても大丈夫という意見と、そんな不確かなもの食べたくないという意見と、どちらが科学的なのだろうか?」(植田武智 同上)

限られた優秀な遺伝子の牛から、優秀でおいしい牛を無限に複製し儲けたい。これは、科学の濫用でないのか。「クローン食品」と表示したうえでも、欲しいという人もおるかも知れない。私は、「やっぱり気持ち悪い」と思うだけである。

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