プロメテウスの政治経済コラム

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NHK「従軍慰安婦」番組改変訴訟  必要以上に政治家の意図を忖度し修正を繰り返した

2007-01-30 18:55:02 | 政治経済
今回の判決は、総理大臣安倍晋三がかかわっている事件だけに、東京高裁が、政治介入について、どこまで言及するかが注目されていた。判決が出された1月29日は、くしくも6年前、NHK幹部が首相官邸に向かい、安倍晋三官房副長官(当時)に面会した日。判決は「政治家が一般論としてのべた以上に…具体的な話や示唆をしたことまでは、認めるに足りない」と直接的介入を認定しなかった。当然に密室の会談なので、幹部が告白するか、スパイ盗聴でもない限り、実証は不可能である。そこで、判決は「NHKの予算担当者や幹部は神経をとがらせていたところ、番組が予算編成などに影響を与えることがないようにしたいとの思惑から、説明のために松尾総局長や野島局長が国会議員などとの接触を図った。その際、相手方から番組作りは公正・中立であるようにとの発言がなされたというもので、時期や発言内容に照らすと松尾総局長らが相手方の発言を必要以上に重く受けとめ、その意図を忖度(そんたく)してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、直接指示、修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。」とNHKの「自律的改編」という主張を否定し、事実上の政治介入を認定した。

旧日本軍の性暴力を民間人が裁く『女性国際戦犯法廷』は00年12月に開催された。NHK教育テレビで01年1月30日に放送された「ETV2001 問われる戦時性暴力」が「法廷」を取り上げることになった。放送直前の同月29日に松尾武・放送総局長(当時)らが安倍晋三官房副長官(当時)と面会。安倍氏から「公正・中立の立場で報道すべきではないか」との発言があり、急遽、NHKのいう「自律的改編」が放送直前まで繰り返されたのだ。
安倍首相はいまでは、93年の「従軍慰安婦」問題に関する河野官房長官談話をそのまま認めるといっているが、談話の根拠が崩れた、修正すべきというのが安倍氏の当時からの主張であった。裁判では、29日~30日のNHKでの様子が明らかになった。放送前日の01年1月29日、安倍晋三官房副長官のところから帰った、野島直樹国会担当局長と松尾武放送総局長の指示で29日と30日、二回にわたって番組の作り直し作業が続けられた。放送当日(30日)の夕方、松尾総局長にカットを指示された長井氏は、永田浩三チーフプロデューサーに次のようにいう。「そんなことをしたら大問題になる。松尾総局長になんとか再考を促してほしい」といってくれと頼んだ。永田氏は松尾総局長に掛け合った。「なぜ、いちばん大事な『慰安婦』の証言部分を切るのですか。人間としてやっていいことと、悪いことがある」。抵抗する永田氏に、松尾氏は「責任は僕がとる」と譲らなかった(「しんぶん赤旗」2006年10月26日)。
その後、NHKの報復人事によって、長井、永田氏は現在、製作現場をはずされたままである。

判決は、NHKは政治家の意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないように番組を改変したのだから、取材に協力した市民団体へ慰謝料200万円を支払うよう命じた。NHKは放送の直前に番組を大幅に変えたことは否定できないので、修正は「あくまで自主的に編集した」ものと言い張っている。そこで、東京高裁は(1)NHKは市民団体(バウネット)が抱いた番組内容に対する期待権を侵害した(2)NHKは、事前説明とは異なる番組となったにもかかわらず、その変更について放送前に説明しなかった――の2点において不法行為責任を認めた。「期待権の侵害」という概念は、今回は、市民団体(バウネット)とNHKの間の関係であったが、これが政治家とマスコミとの関係では、「期待権」が拡大されると政治家の期待と違うといわれ、報道・編集に制約を加える虞れがないとはいえない。

大手マスコミは現在、ただでさえ財界スポンサーや権力の意図を過度に忖度(そんたく)した報道を自主自立の名の下で続けている。「編集の自由や報道の自由は民主主義社会の基本だ。取材される側の期待権の拡大解釈を避けるためにも、メディア側の権力からの自立が求められる」(「朝日」社説 2007年01月30日)。 この諌めはNHKだけでなく、大手マスコミ全体に向けられたものと受けとめてもらいたいものだ。

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1 コメント

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うーむ (ソムリエ)
2007-02-01 15:16:26
協賛国家の手先ですね
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