貧困・格差問題は資本主義経済の制御の問題 通用しない「資本主義」対「社会主義」の対立図式

資本主義のグローバル化の進展に伴って、日本の多国籍大企業にとっては日本型開発主義体制のもとでの高コスト構造の改革が焦眉の課題となった。不均等発展する世界資本主義のもとでは、グローバル化の進展は、先進資本主義国での高コスト構造の是正を強制する。原料価格が世界市場で大差ないとすれば、結局、製品の価格は労賃の高い安いに帰結する。労賃の高い地域での製品は労賃の安い地域での製品に勝てない。企業が最適生産地をもとめて流出すれば、産業の空洞化、失業を生む。こうして比較的生活水準の高かった先進資本主義国の国民の生活水準は低下せざるをえない。しかし、生活水準の低下は各人にとって一様でない。政治の力を使って競争力を回復した大企業経営者や管理職職員は従来以上の待遇を受ける。規制緩和によってビジネスチャンスを手にする者もいる。逆に、下請け中小企業や納入業者は高コスト構造の是正にともなって、契約単価を切り下げられ生き残ろうとすれば、労賃にしわ寄せするほかない。圧倒的多数の労働者の所得が低下したり、低位におかれると、小売業は厳しい環境におかれ、中小小売は淘汰され、そのしわ寄せは結局サービス労働者が被ることになる。日本は、非正規労働者を強制的（労働法の規制緩和）に拡大することによってアジア的低賃金労働者を一気につくりだした。

日本では高コスト構造の是正がバブル経済の後始末と重なり、金融の規制緩和と重なった。金融の規制緩和は利殖の元手を持つ者にますます豊かになる機会を与えた。こうして一様でない高コスト構造の是正と金融の規制緩和は貧困と格差をいっきょに拡大した。グローバル化の進展による先進資本主義国の労働者の生活水準低下は避けられない経済法則である。しかし、その程度を緩和し、とくに底辺におかれている人々に「健康で文化的な生活」を保障できるかどうかは一国の政治の問題である。強者をますます強くし、弱者を見捨てるのか、強者や恵まれた者に応分の負担をもとめ、弱者を踏み台にして強者が栄えているような仕組みには少し規制を加えるかどうかは政治のあり方そのものである。

安倍政権や自公与党はこれだけ大企業が業績を回復してもまだ、強者をますます強くし、弱者を見捨てる政策をとろうとしている。さらに問題なのは、『貧困』や『格差』を取り上げること自体を古臭い「社会主義」理論だと言い出していることである。塩崎恭久官房長官は最近の都内の講演で「格差を縮めることを目的にするのが安倍政策の向かうところではない。格差是正による結果平等というのは社会主義みたいなものだ」と語った。公明党も“格差論は古い階級対立図式”（公明新聞１月12日）と同調している。一見突っ込み鋭いテレビキャスター田原総一朗も12日の都内での講演で「格差がひどいという最近の本を読むと『危ないな』という気がする。結局最後まで読むと社会主義（がいい）ということになる。社会主義はよくない」（「しんぶん赤旗」21日）と体制派イデオローグの本性を剥きだしにしている。

貧困・格差の是正を「資本主義」対「社会主義」の対立図式に持ち込み、今なお世間に残る「社会主義」のマイナスイメージにすがって言い逃れようとすることほど時代遅れのことはない。一国の国民経済を資本の論理に１００％ゆだねる資本主義国など何処にも存在しない。資本の論理になにがしかの規制を加えることは、社会の安定のために必須なことであり、社会の安定は総資本の立場からも必要なことなのだ。「資本主義」対「社会主義」の議論はイデオロギーの世界はともかく、現実の世界ではまったく無意味な議論である。あるのは、資本主義経済をいかに制御するかの問題である。貧困・格差是正の問題は、構造改革で８０％以上資本の論理が横行するようになり、さらに８５％以上にしようとする安倍政策に歯止めをかけて、７０％台に戻そうという話なのだ。