プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

教科書検定制度の「改善」は巧妙な「改悪」   新自由主義が国家主義と結びつく必然性

2008-12-27 20:20:28 | 政治経済
文科省役人の狡賢さは天下一品である。日本史教科書の沖縄戦「集団自決」の記述から「軍の強制」が削除された問題を通じて教科書検定制度の問題点があらためて天下公知となった。ところが文科省役人は、検定制度の抜本的改革や廃止を求める声を聞くどころか、教科用図書検定調査審議会に教科書検定の実質的「改悪」を答申させたのだ。転んでもただでは起きない霞が関の官僚は本当に諸悪の根源である
安倍元首相に見られるように、改悪教育基本法は、新自由主義と国家主義の結合がその特徴であった。新自由主義は必然的に国家主義を必要とする。なぜか

教科用図書検定調査審議会の総括部会が25日に出した報告書は、沖縄戦「集団自決」への検定意見をめぐり教科書検定制度の「改善」を要求してきた市民団体などの要求をまったく無視し、逆に「改悪」を推し進めるものだ。文科省役人が裏で糸を引いているしか思えない。子どもと教科書全国ネット21の俵義文事務局長は「『改善』に見せかけていっそうの改悪をすすめる狡猾(こうかつ)なやり方」と批判。「沖縄戦の歴史歪曲を許さず沖縄から平和教育をすすめる会」の高嶋伸欣琉球大名誉教授も「沖縄の人たちが求めていたことはなんら反映せず、それを逆手にとって改悪しようとしている」と批判している。

改定案で「透明化」のために公表するとされた議事概要や調査意見書などはすでに沖縄県民や市民、国会議員の追及で公開されたり、情報公開法で開示されているものである。それを検定後に公開するよう制度化したに過ぎない。審議会の議事録はあくまで秘密であり、議事の概要を公開するだけである。
透明化というなら、審議の段階で資料を公開し、審議会の傍聴を認め、国民の前で検定を行うべきである沖縄の人たちが、「すべての『審議過程の傍聴をふくむ公開』という私たちの要求とは程遠い」と批判するのは当然であるこれでは、文科省役人が密室で自分たちの都合に合わせた教科書をつくろうとする意図は明白である「読売」が彼らの邪まな思いを代弁している。「教科書の検定は、外部の圧力や干渉を排除することが何より重要だ。その作業の透明化は必要だが、あくまでこうした点に十分に配慮した仕組みであるべきだ。」(読売社説・12月7日付)。

申請本などが外部に流出した場合は部会や小委員会の判断で審議をストップできるとしている。ヨリ良い教科書を目指して広く意見を言うことは、「外部の圧力や干渉」だということだ。「民は由らしむべし知らしむべからず」―恐るべき霞が関官僚の体質ではないか。
情報統制を教科書執筆者にまで拡大しておいて、誤った検定意見を防止したり、是正する仕組みは一切拒否するつもりである。教科書調査官や審議会委員の選任にも一切口を挟ませない。こうして引き続き、「新しい歴史教科書をつくる会」の関係者の弟子が社会科教科書の検定で活躍することになる。


笑ってしまうのは、今回の審議会報告書が「教育基本法」という言葉を50回も使用していることである。これまで、検定審議会の建議や報告に「47年教育基本法」が出てきたことは一回もない。安倍「改悪基本法」が支配層にとってどんな意味をもったかこれほど端的に示すものはない。
報告案は教科書申請時に、教育基本法の「目的」や「目標」ごとに、それが教科書のどこに書かれているかを示す一覧表を提出させることになっている。報告案は、教育委員会が教科書を採択する際「教育基本法改正を踏まえ、適切な採択をしていくことが求められる」とも記載。なにがなんでも、教科書を改悪教育基本法や新学習指導要領に沿った内容に統制・強制するために、これまで以上に介入することを公然と宣言しているのだ。

競争・選別の新自由主義的「教育改革」をいっそう推し進めながら、「愛国心」、「伝統や文化の尊重」などの国家主義を押し付けるのはなぜか新自由主義的能力競争を徹底すればするほど、格差と分断が教育現場を荒廃させずにはおかない。新自由主義による教育現場や社会の格差と分断を取り繕うためには、社会的な安定化装置がどうしても必要である。それが、「愛国心」や「伝統や文化の尊重」というナショナリズムの強調となっているのだ。
新自由主義は、能力の差異にもとづく格差・不平等関係を呼び起こしそれが全体として今までになかった社会の不安感を高め、人びとを分断する。それゆえ、能力主義的支配の強化は、必ずナショナリズムによる精神の支配を不可欠とするのだ。「愛国心」教育の批判は、新自由主義と国家主義との結合がことの本質であるということを理解したうえでの批判でなければならない所以である

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。