プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

『私は貝になりたい』 戦争に正義はあるか ドイツの「良心的兵役拒否」 

2008-12-26 22:42:35 | 政治経済
映画『私は貝になりたい』が上映中である。前作は1959年、フランキー堺主演で上演され国民的関心を呼び起こした。今回も、あらためて日本が引き起こした戦争の野蛮さと悲劇性、庶民にとって、戦争がいかに理不尽なものであるかを強く語りかけている。ともすれば、東京裁判のA級戦犯がなにかと注目されがちであるが、BC級裁判は、軍隊組織のなかで一庶民が良心に反する、あるいは違法な上官の命令を受けた場合に、どこまで抵抗することができるのかを私たちに鋭く問いかけている。徴兵制の軍隊を持っているという意味で「戦争国家」であるドイツが同時に「良心的兵役拒否」を法制度化していることは、日本国憲法の「平和主義」につながるものだ。

清水豊松は高知の漁港町で、理髪店を開業していた。家族は、女房の房江と一人息子の健一である。戦争が激しさを加え、赤紙が豊松にも来た。・・・ある日、撃墜されたB29の搭乗員が大北山山中にパラシュートで降下した。「搭乗員を逮捕、適当に処分せよ」矢野軍司令官の命令が尾上大隊に伝達され、豊松の属する日高中隊が行動を開始した。日高大尉は処分を足立小隊長に命令、さらに命令は木村軍曹の率いる立石上等兵に伝えられた。立石が選び出したのは豊松と滝田の二名だ。立木に縛られた米兵に向って、豊松は歯をくいしばりながら突進した。・・・-戦争が終って、豊松は再び家族と一緒に平和な生活に戻った。が、それも束の間、大北山事件の戦犯として豊松は逮捕された。豊松は、右の腕を突き刺したにすぎない自分は裁判を受けるのさえおかしいと抗議したが、絞首刑の判決を受けた。

軍隊を構成する兵士同士の「戦争犯罪」は、戦争における敵味方の一種の“なれあい”といってもよいだろう。戦争のない、平和な世界で人を「殺す」ことはたいへんな犯罪である。人間は、「市民」が殺せば、途方もない悪、犯罪だが軍隊を構成する「兵士」が敵の「兵士」を殺すことは、当然の行為として許容される、いや、それどころかなすべき善として賞揚される。敵方がこちら側を殺しても、その犯罪は不問にしよう、ときには「敵ながらあっぱれ」ということになる。なぜか。自分の側の「殺す」をもっとも見事にやった兵士は「英雄」なのだから、敵方は「敵ながらあっぱれ」でないと困るのだ。「皇軍兵士」は、「戦陣訓」によって捕虜になってはならない、そのときは死ぬべきだということであった。自分の生命さえ保ってはいけないわけだから、「皇軍兵士」が敵の捕虜の生命など眼中になかったことは、自然の成行きであった。しかし、これは敵の側からみれば、「ジュネーブ条約」、戦争の掟、ルールに反した犯罪―「戦争犯罪」であった。しかし、私はこれも戦争における敵味方の一種の“なれあい”にもとづく「戦争犯罪」だと思う。なぜなら、いまのいままで互いに憎みあい、殺しあっていたのだから。

良心的兵役拒否とは国家組織の暴力、とりわけあらゆる形態ないしは特定の状況下の戦争に参加することや兵役義務を強制されることを望まないことをいう。「西」ドイツは「東西」対決の「冷戦構造」のなかで1948年、再軍備に踏み切ったが、新しい軍隊の創設にさいして「良心的兵役拒否」を個人の権利として憲法的に認めるという画期的なことをやった。
「現代の民主義国家」の軍隊の基本原理の前提としてあるのは、戦争は好ましくない、やらないのにこしたことはない。しかし、やるべき戦争、正しい戦争、正義の戦争はあるということだ。そのために軍隊は必要だということだ。
これに対して、「良心的兵役拒否」は、戦争は問題の根本的解決にならない。これまでの歴史で、あまた、「正義の戦争」の大義名分の下に戦争は戦争を生み、破壊と殺戮は繰り返されてきた。根本的な問題の解決はあくまで非暴力で行わなければならない。人類はもうこうした破壊と殺戮の繰り返しをとめるべき「文明」の段階にさしかかっている―という「平和主義」を基本の原理とする人間の行為なのだ。

ドイツでは兵役を拒否する代わり13ヶ月間の社会福祉活動が義務づけられる。同国では、「良心的兵役拒否者」数がいまでは兵役につく者の数を上まわり、老人介護等の社会福祉事業は、これらの「民間奉仕義務」なしには成立し得ないということだ。
「死ぬまで陛下の命令を守ったのになぜ私を助けてくれなかったのですか。もうだまされません。あなたに借りはありません。こんど生まれかわるならば、私は日本人になりたくありません。人間になりたくありません。私は貝になりたい。」という清水豊松の加害責任を私たちが再び繰り返さない道は、いまや「良心的兵役拒否」の道しかないと考えるが、どうだろうか。

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