民主新代表に野田氏 「大連立」「大増税」の野田政権は、3回目の退陣劇の始まり

民主党は２９日の両院議員総会で、菅首相（党代表）の後継の新代表に野田佳彦財務相を選出した。党所属国会議員による投票は１回目で過半数を超える候補者がおらず、１位の海江田万里経済産業相と２位の野田氏の決選投票となり、２１５票を獲得した野田氏が１７７票の海江田氏を破り新代表となった。国会は３０日午後、衆参両院本会議で首相指名選挙を行い、野田氏を第９５代、６２人目の首相に指名した。立候補した５氏のおもな政策に対する態度は、次表の通りである（「BLOGOS」 2011年08月29日14時44分より）。

 

 

野田氏は、松下政経塾の１期生で、筋金入りの「構造改革」派であり、２０１０年代半ばまでに税率を１０％に引き上げる「社会保障と税の一体改革」を断行する構えである。今回の代表選では「やむをえない、負担しよう、と世論を誘導するのが政権与党の役割だ」（２７日）と語っている。消費税増税亡者である与謝野馨経済財政担当相は、３０日朝の閣議後会見で、「政策の連続性が担保できた。ほっとしている」と思わず感想を述べている。

また野田氏の時代認識は、“Ａ級戦犯は戦争犯罪人ではない”とする質問主意書を提出し、代表選直前にも「考え方は基本的に変わりない」と発言。“戦犯は濡れ衣”とする靖国神社と同じ歴史認識を持つ時代錯誤ぶりである。そして、戦後右翼の特徴である対米従属の面では、「日米同盟の深化を基軸とした外交」を政見に掲げ、日米同盟を「世界の安定と繁栄のための『国際公共財』」（『文芸春秋』９月号）とまで持ち上げている。

 

現在のシステムでは、いくら公約違反を行っても、国民が国会解散の総行動を起こし、解散に追い込まない限り、一度衆院選で多数を得た政党から、内閣が組成されることになる。

今回の民主党代表選で民主党が野田氏を選んだということは、「自民・公明両党との事実上の大連立」と「消費税の大増税」という道を選んだということである。しかし、その道は、国民多数の「政治を変えてほしい」という願い―「政権交代」の意義を真っ向から否定するし、２年前の総選挙で掲げた公約とも真っ向から矛盾するものだ。菅政権が野党と談合して結んだ三党合意も、野田氏が主張している消費税大増税方針も、2009年8月総選挙での民主党と主権者国民との契約（マニフェスト）に照らせば、明らかな契約違反である。野田政権が発足して、主権者国民との契約に反する政策を進めようとするなら、速やかに総選挙で国民の信を問うのが筋である。それが、民主主義のルールだ。野田政権が3回目の退陣劇の始まりとなることは明らかだ。

 

２００９年８月総選挙の最大の争点のひとつが消費税増税問題だった。麻生自民党は所得税法附則１０４条を定めて、２０１２年度消費税増税を政権公約に掲げた。これに対して、鳩山民主党は２０１３年の衆議院任期満了までは消費税増税を行わないことを政権公約とした。昨年６月の参院選マニフェストで、消費税率１０％への引き上げ方針を掲げ、大敗北を喫した菅首相が１４ヵ月も首相官邸を不法占拠した（植草一秀の『知られざる真実』2011年8月30日）のは、民主党の反国民性を端的に物語るものだ。菅政権が野党と談合して結んだ三党合意も、総選挙マニフェストをことごとく投げ捨てるものであり、国民の民意を徹底的に踏みにじるものだ。政権政党が主権者国民に約束した政策を、主権者国民に了解を取ることなく変更してしまったら、これは「詐欺」である。野田民主党は政策詐欺集団だということになる。代表選で小沢一郎氏グループ、鳩山由紀夫氏グループが権力闘争の一環とは言え、民主党の原点復帰を強く指摘したのは正論である。

 

震災、原発、社会保障、税金、基地とたくさんの問題が山積しているにもかかわらず、今度の選挙ほど、この日本をどうするのかという政策論議が貧しかった選挙はない。そこまで日本の二大政党が劣化しているにもかかわらず、大手マスコミ（植草さんはいつも“マスゴミ”と呼んでる）は、問題の本質をどこまで適確に報道したか。国民が、野田新体制に対して真正面から異議申し立ての声をあげていくほかない。