プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

派遣切り・期間工切り  会社とは何か 経営者の社会的責任

2008-12-07 21:09:47 | 政治経済
御手洗冨士夫・日本経団連会長が経営するキヤノンは、麻生首相から雇用の確保を要請されていたにもかかわらず、その数日後に大量の請負・派遣労働者解雇の計画を打ち出した。一国の首相も軽く見られたものだ。なぜ御手洗氏はそんな不遜な行動をとるのか。いまこそ会社とはなにか、経営者の社会的責任とはなにかが問われなければならないだろう。それは、その社会の経済の在り方とも深くかかわっている。

現在、大企業による大量の「派遣切り」、期間社員の「雇い止め」により、かつてない大量失業者が広まろうとしている。選挙を前にして政府与党も構造「改革」の継続などといっておれなくなって慌てて失業対策、雇用対策を考え始めた。ところが政府与党の対策は、失業者をドンドン吐き出す大企業に直接行政指導して排出を辞めさせるのではなく、その後始末に予算をつぎ込もうとするものだ。水道の蛇口を開けっぱなしにして、一杯になったバケツを持って右往左往しているようだ

御手洗氏が麻生首相に「(経団連として)雇用の安定に努力する」と言った舌の先も乾かないうちに、キヤノンの100%子会社である大分キヤノンと大分キヤノンマテリアル(いずれも大分県)あわせて約1200人の派遣・請負の非正規社員の解雇、同じく100%子会社のキヤノンプレシジョン(青森県)では約500人の「非正規切り」の計画が発表された。しかし、彼らを解雇しないと経営が苦しいというわけではない。キヤノンの剰余金残高は9月末で3兆3千億円超。この一年間で増加した利益剰余金は、約2800億円である。解雇予定の非正規社員約1700人の雇用を維持する人件費は年収200万円/人として、約34億円である。剰余金の一年の増加分のわずか1・2%にすぎないのだ。一方で、株主への配当は、中間配当(八月、一株当たり55円)だけで約715億円である(「しんぶん赤旗」2008年12月7日)。

会社が減益になるとすぐリストラ(首切り)が行われるのはなぜか。その背景には、経営者が自社の株価の変動ばかりを気にし、なによりも株主への配当を優先することがある。まるでリストラ(首切り)をしない経営者は、経営者ではないかのようである。これが、いわゆるアメリカ型の「株主資本主義」といわれる会社の姿である。キャノンの海外投資家比率は50%を超える。日本の若者の生き血を吸って肥え太った剰余価値は利益配当として50%以上が外国人株主の手に渡るのだ。御手洗氏が経団連会長になる際に政治資金規正法を改正させ、外資系企業にも政治献金を可能とさせたことは記憶に新しい。

「株主資本主義」を加速させたのは、アメリカ的企業買収である。経営者はモタモタしているといつ買収の憂き目に遭うかもしれない。長期的観点から企業基盤を強化するために労働者を大事にするというようなことをしていておれないというわけだ。アメリカの株主はそのような経営者を叱咤激励するために経営者報酬を株式オプションで支払う制度を導入した。こうして短期的にきちっと利益をあげて株価を上昇させてくれる経営者がりっぱな経営者であり、それがまた自己の報酬を増やす道となったのだ(粉飾決算で株価を上げる悪徳経営者も現われた)。

日本の大会社がアメリカ型の「株主資本主義」に染まりだしたのは90年代以降のことである。それまで日本の大会社はメインバンクをもち、主としてそのメインバンクごとの企業集団グループに属していたそしてグループ内の会社が相互に株式を持ち合うのが通例であった。12社で相互に5%ずつ持ち合えば11社で55%確保できる。経営者は、他集団による買収の畏れや株主の短期的な要求を気にしないで、長期的な観点から会社の経営に取り組むことができたものづくりをじっくり育てようとすれば、技術開発や現場労働者を大事にしなければならない。米ビッグスリーの凋落はそのことを象徴している。そしていま、日本の製造大企業も同じ凋落の道を辿ろうとしているのだ。

アメリカ的に会社は株主のものだとよくいわれる。しかし、それは正しくない。株主が会社を所有していないことは、もし株主が会社の製品倉庫から製品を持ち出せば、窃盗になることからも明らかだ。また、経営者は委任契約に基づく株主の代理人でもない。株主の意向に拘りなく、会社には経営者をおかなくてはならない。
「株主資本主義」は、今や失敗が明らかになったアメリカ型の資本主義であり、御手洗経団連の大企業経営者たちはアメリカかぶれでリストラに狂奔している点だけを指摘して今日の議論を終わることにしたい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。