プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

天安門事件から20年  各国によって違う開発独裁の政治システム カギをにぎるのは市民運動

2009-06-06 21:40:35 | 政治経済
1989年6月4日の(第二次)天安門事件(六四事件)から今年で20年を迎える。平和的な学生・市民の集会に対し、軍隊が突如として襲いかかり、流血の弾圧をしたのだから、世界が「民主主義への挑戦」、野蛮な「人権弾圧」として非難したのは当然であった。ただ、私たちが気をつけなければならないのは、各国の政治経済社会の歴史には、それぞれの国の独特の長い経過があり、自分たちの尺度を機械的にあてはめて批判することは自由だが、それだけでは、事件の歴史的意味の真相がつかめないことがあるということだ。日本の戦後民主主義制度は、戦前の天皇制国家のひどい状態の反動もあって、その後さまざまな逆流によって改悪されながらも、いまなお進んだものである。しかし、1955年からほぼ一貫して自由民主党による一党優位制が続いており、90年代までは事実上の一党開発独裁体制であった。その国の政治経済社会の民主化度は、法形式だけでは測れない。その内実を決めるのは、民主的意識を持った人びとの活発な市民運動が社会的ルールにどれだけ影響力をもっているかにかかっている

中国で「六・四」(リュー・シー)と言えば、1989年6月4日の(第二次)天安門事件のことを指す。当時青年だった多くの人びとは、今でも民主化運動が、武力によって弾圧され、多くの死傷者を出したイメージとともに、この日を痛恨の思いで回想する。この日から、下からの民主化運動も、上からの政治改革も頓挫したまま、改革開放政策による経済大国化が推し進められた。中国はめざましい経済発展を遂げ、いまや世界の大国に仲間入りしようとしている。
「六・四」は、中国では間接的にタブーとされてきた。国内におけるテキスト・書籍などに掲載される際にも「北京政治風波」などとぼやかされることが多い。「軍による武力鎮圧」という文脈も、当局は認めようとしない。国民に伝えることもしない(加藤嘉一「『六・四』――キャンパスに流れる“平穏” 北京大学生が感じる特別な時間」NBonline2009年6月4日)。

改革開放政策を導入した小平は、当初、積極的に思想の解放を呼びかけた。しかし、民主化の要求が共産党一党体制そのものに抵触するようになると弾圧・封じ込めに転じた。中国の歴史は、毛沢東の新民主主義論から始まって、反右派闘争、大躍進、文化大革命期の動乱など、人びとが否応なくその時々の政治動向に翻弄される歴史でもあった。下からの民主化へ進む動きがあるかと思えば、それが時の権力者批判にまで及びそうになれば、弾圧される――これの繰り返しであった。

文革の動乱のなか、小平は、周恩来とともに経済、文化、教育、科学技術などの建て直しを図ろうとしたが、「留党観察」に置かれ、75年前後には周恩来後継者の第一候補として一度復活するが、76年1月、周恩来が死去すると再び、文革「4人組」によって、権力の座から引きずり下ろされた。経済再建に手腕を発揮した小平が再び復活するのは、76年9月の毛沢東の死の後、77年の中共第10期3中全会においてであった。

小平は、政治権力闘争による社会動乱が、経済建設にとってどれほどマイナスになるかを身をもっていやというほど体験した。こうして、経済建設を進めていくためには政治的安定が不可欠であり、中国では党の指導、核心思想の安定が基本であるというのが、小平の信念となった。経済体制の改革のためには、政治体制の改革・合理化も必要と言う「両輪論」は、中国の歴史に再び政治動乱をもたらすものとして、強圧的に弾圧された。リベラル派であった胡耀邦を追悼し、業績をたたえる学生市民の民主化運動は、「反革命騒乱に変わった」として、1989年6月4日、人民解放軍によって武力鎮圧された。

私は、共産党の一党独裁下で市場経済を導入し、著しい経済成長を達成した小平の改革開放体制を開発独裁の1種と考える。フィリピンのマルコス政権やインドネシアのスハルト政権、タイのサリット政権といった「開発独裁」国家では、開発政策を推進する上で、軍部出身者や国家官僚などの少数のエリートが権力を独占して国家運営を行なった。民主化を棚上げにして、指導者に権力を集中させ、政治的安定の下に強力に経済近代化を推進するというものである
1955年以降の日本型開発国家では、自民党一党支配の安定のもと経済官僚が、財界と一体となって、高度経済成長を達成した。秘密警察・治安警察による社会の監視体制は表には出なかったが、大企業の中では、思想表現の自由は完全に奪われた。いまでも、大企業の昼休みの職場で、「しんぶん赤旗」を読む自由がどれだけ保障されているか、体験者に聞いてみるとよい

現在の中国の共産党指導部は、欧米型民主や複数政党制、三権分立の導入、「共産党指導の弊害」などを十分に認識している。しかし、権力闘争と動乱の連続であった歴史のトラウマから逃れられない。開発独裁が崩壊する過程は各国によって違う。日本の自民党独裁は、総選挙によって倒されるだろう。カギをにぎるのは、どこの国でも自覚的な市民運動の高揚である。

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