プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

自民・民主だけの国会でいいか  支配階級による政治支配と選挙 国家の階級的性格

2009-06-08 16:48:12 | 政治経済
衆議院の比例代表議席数を狙い撃ちにした、議員定数削減の動きが総選挙マニフェストをめぐって、自民、民主の両党から相次いでいる。自民党は古賀誠選挙対策委員長や菅義偉同副委員長らが50人程度の定数削減を次の総選挙政策に盛り込むよう主張し、民主党は鳩山由紀夫氏が先の代表選挙で、比例定数80削減を公約した。支配階級の狙いは、国会は自民党と民主党だけでいいということだ。
国家は歴史的に、氏族社会の原始共同体が崩壊し、社会が諸階級に分裂するようになって、相互の衝突を緩和・抑制し、秩序を維持するために、社会の中から生み出されながら社会のうえに立ち人民に向かって権力を行使するものとして、誕生した。国家は、近代民主主義の発展による代議制国家になるまでは、諸階級の衝突のただなかで生まれたものであるから、それは通例、もっとも勢力のある、経済的に支配する階級の階級国家であった。
資本主義国家では、代議制の議会が国政の重要な機関となってからも、初期の段階では、財産によって選挙資格を差別(女性も排除)し、それによって議会を有産階級の手中にすることが普通であった。国家は、支配階級による政治支配の道具であるということが、ある意味、誰の目にもわかりやすかった。しかし、普通選挙権が確立されると、有産階級の政治支配は間接的となった
どこの資本主義国でも、労働者階級が人口の多数を占める。労働者階級の1票の力は、「労働者階級の政治的制覇」をもたらす可能性を秘めている。ブルジョアジーは、普通選挙権にもとづく代議制度のもとで、その政治的安定を確実に行使する手立てを講じることに尽力する。

自民党や民主党は議員定数の削減を、消費税をお願いする前に、ムダをなくすため身を削るというが、その本当の狙いは、比例代表削減にある。削るのはムダではなく、比例代表なら議席に反映される多様な民意そのものだ。身を切るというなら、毎年320億円もの政党助成金を即刻やめるべきだろう。
国会定数削減の名による“民意の削減”は、ブルジョアジーが、普通選挙権にもとづく代議制度のもとで、その政治的安定を確実に行使する手立てのひとつであることは、明らかである。“民意削減”によって、消費税の増税でも憲法の改悪でも、国会のなかでは国民の反対を気にしないで、思いのままにやれるようにしようということだ

マルクス、エンゲルスは、最初のうちは、ブルジョアジーの政治的支配と普通選挙権とは、両立しがたいものと考えたようだ。普通選挙権の実施は、プロレタリアートが人口の大多数を占めているイギリスでは、不可避の結果として、「労働者階級の政治的制覇」をもたらし、「ブルジョア執権」と両立しないというわけだ。しかし、政治の現実は、マルクス、エンゲルスの当初の予想とは、違った形で展開した。普通選挙権の実施は、イギリスでもドイツでも、労働者階級の政治的制覇を直線的にもたらさなかった
「民主的共和制のもとでは、富はその権力を間接に、しかしそれだけいっそう確実に行使する」(エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』)こととなった。

代議制の資本主義国家では、旧来の階級国家のように、経済的に支配する階級の指導層が直接に国政を握るわけではなく、多くの場合日常の国政を直接担当しているのは、政党の幹部や高級官僚など、政治や行政の専門家であり、国家権力の執行機関である政府は、これらの人びとによって構成される(アメリカは、経済的に支配する階級の指導層と政府高官との人事交流は日本より盛んなようだ)。そこで、ブルジョアジーは、その権力を、政府や官吏を通じて「確実に行使」するために、「一方では、これは直接に官吏を買収するというかたちでなされる・・・他方では、これを政府と取引所の同盟というかたちでなされる」(エンゲルス 同上)。「買収」とは、現代日本では、個々の企業の贈賄的献金から財界・大企業からの政治資金の流入すべてである。「同盟」とは、当時の取引所は現在の財界であり、政府・与党幹部と財界代表の協議や懇談はひっきりなしに行われている。また財界代表委員は、各種審議会で中心的役割を果たしている。「買収」と「同盟」は、現代の代議制国家のもとでも、経済的な支配勢力である財界・大企業が、政府とその監督下の官僚機構を自分の手中の道具として握り続け、その権力を「確実に行使」する主要手段である

しかし、「買収」と「同盟」によって政府をしっかり握っても、この政府を代議制のもとで維持するためには、支配階級は、選挙での多数をたえず確保しなければならない。そのためには、人民の政治的意識を現体制擁護のわく内にとじこめて、富の権力の陣営につなぎとめる人民統治が必要となる。各種の政治団体、地域・職能などの大衆団体、宗教団体、教育・マスコミから御用学者などあらゆる“組織と文化”が総動員される。日本では、歴史的、理論的に影響力があり、労働者階級の「自己解放」の党である日本共産党を大衆から切り離すことが決定的に重要となる。こうして、労働者をはじめ被抑圧階級が人口の大多数をしめていても、普通選挙権は、ただちに「労働者階級の政治的制覇」をもたらさず、選挙でも議会でも支配階級の代表が多数者を形成することが可能なのだ

普通選挙権は、人民の政治意識の成熟度を示す計測器である。人民が自分たちの代表である政党を選ぶように成長するまでは、支配階級の政治支配は安泰である。比例代表削減は、その計測器を破壊しようとする支配者階級の直接的攻撃である。

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