プロメテウスの政治経済コラム

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チュニジア革命が中東に伝播   アラブの反米反イスラエルの傾向が強まるか?

2011-01-27 18:42:06 | 政治経済

チュニジアで23年にわたり続いてきたベンアリ政権が崩壊した背景には、食料価格高騰と高失業率に加え、政権内部の腐敗と近年の経済停滞、民主主義抑圧に対する中間層からの不満などが指摘されている。今回の事態は、他のアラブ諸国にも衝撃を与えている。UAE紙ガルフニューズは「チュニジアの暴動は孤立した現象とみてはならない」と述べ、「治安部隊と民衆との衝突は、開発の遅れと高失業率に悩む、どのアラブ諸国にも起こりうることだ」と警戒を呼びかけた(「しんぶん赤旗」2011116日)。
田中宇さんは、<アラブ諸国の独裁政権が物価高騰に反発する市民によって次々と倒れていきそうな事態になり、欧米マスコミは独裁を批判する論調を流している。だがアラブの独裁が倒れた後にできる政権は、今よりもっと欧米敵視を掲げたイスラム主義の政権になるだろう。従来のアラブの独裁政権は、欧米に対して従順だったが、今後はそうはいかない>だろうと予測する(田中宇の国際ニュース解説「チュニジアから中東に広がる革命」
2011121日)。

 

チュニジアの革命がエジプトに飛び火しそうだ。125日、祝日のカイロで1万人(一説には10万人)を超える市民が集まり、政府の腐敗や貧困対策不足に怒る反政府集会を開いた。ムバラク大統領に対する批判が許されていないエジプトの首都カイロやアレクサンドリアなど各地で25日から26日にかけ、物価高騰や政治腐敗に抗議し、ムバラク政権の退陣、非常事態令の撤廃などを求めるデモが相次いで行われた。これほどの反政府デモは30年間続くムバラク政権下では初めてで、1977年の物価高騰抗議デモ以来最大規模となった(「しんぶん赤旗」2011127日)。チュニジアで反政府暴動が起きた時、北アフリカではアルジェリアでも物価高騰や失業に怒った市民の暴動が起こり、エジプトでも国民の不満が強くなっていた。

 

チュニジアで革命後にできた暫定政権は、ベンアリの元側近が主要閣僚を占めていたため世論の支持を得られず、政権に招き入れられた野党や労働組合の代表が、すぐに相次いで閣僚を辞任し、発足から1日で危機に陥った。<チュニジアは今後、混乱が長引くことになりそうだが、混乱が長期化するほど、行政が機能不全に陥る。役所の代わりにモスクのイスラム教勢力が困窮する貧しい人々の生活を支援する傾向が強まり、イスラム主義を支持する国民が増える>というのが田中さんの予測である。

 

米国の右派(親イスラエル・反イラン)の間では、チュニジアの独裁政権を打倒した今回の革命がイランやシリアに波及して、「イスラム独裁」を打倒する動きにつながるとの予測が出ている。しかし、田中さんは、<米イスラエル連合から常に政権転覆の策動を受けているイランやシリアの現政権は、試練をくぐり抜けているだけに意外と強靱だろう。チュニジアの「民主化革命」がイランに飛び火するのではなく、イランの「イスラム革命」がチュニジアに飛び火する可能性の方が高い>という。革命前のイランは、今のチュニジアと似て、欧風化された非宗教的な政治体制を持っており、国王(シャー)を追い出すまでのイラン革命の前半を主導したのはイスラム主義者ではなく、イラン共産党や労組など左翼だった。革命の途中でパリ亡命中のホメイニ師が帰国し、革命はホメイニに主導され、イランはイスラム主義の色彩を強めていった。

 

チュニジア革命が飛び火しそうな先は、反米系のイランやシリアではなく、親米系のエジプトやヨルダンの可能性が高い。エジプトでは、非合法団体だが実質的な最大野党であるイスラム同胞団が「経済難の責任を取って議会は解散し、出直し総選挙を行え」と要求し始めた。ヨルダンでもイスラム同胞団が、アブドラ国王に対し、国王の首相任命権を放棄して議会の第一党の党首が首相になる制度に転換せよと求め始めた。アラブ諸国は、チュニジア革命が自国に伝播せぬよう、緊急の物価抑制策を相次いで打っている。ヨルダンは、軽油やガソリンに対して予定していた増税を延期するとともに、国営企業が販売する砂糖、米、鶏肉などの価格を引き下げた。エジプトでは、財政緊縮の一環として、GDPの7%を占めてきた食料や燃料に対する補助金の削減が議論されていたが、削減は無理になっている(田中宇 同上)。

 

今回のチュニジア革命が、エジプトやヨルダンなどに伝播して、エジプトやヨルダンが、イスラム同胞団主導の反米イスラム主義の国に転換すると、中東が米英から支配される構図が崩れていく可能性がある。米軍撤退後のイラクがイランの傘下に入り、トルコやシリアもイランと親密になっており、これらの全体が反米反イスラエルのイスラム主義の強い地域になっている。米仏イスラエルの傀儡国だったはずのレバノンも、今や親イランのヒズボラが主導権をもつ国になっている。パレスチナ問題でイスラエルに対してアラブ諸国が不甲斐ない態度をとる時代も終わるかもしれない。イスラエルのパレスチナ占領とアパルトヘイトは、中東の最大の不正義である。

 

 

 


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