プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

菅首相の施政方針演説    なぜ、日本の政治・社会の閉塞状況からの脱却が不可能なのか

2011-01-26 20:50:46 | 政治経済

24日、通常国会が開会し、菅直人首相の施政方針演説が行われた。首相は「平成の開国」「最小不幸社会の実現」「不条理を正す」などと主張したが、問題はその中身である。日本の政治・社会を閉塞状況に陥らせ、民主党政権になっても何も変わらないと国民を失望させている対米従属・財界本位の政治を正さない限り、国民に展望を示すことはできない。なぜ、自民も民主もその他オール与党の政治は、対米従属・財界本位になってしまうのか。
政治を買収する支配階級も、資本主義自身がその内部にもっている発展の法則から逃れることはできない。資本はどんな制限も乗り越えて無制限に生産を拡大することを宿命としている(走る自転車は走り続けなければならない。止まったら倒れる)。どこまでも無際限に生産を発展させようとする資本は、貿易と投資を自由化し、人もモノもマネーも好き勝手に動かせる市場原理まかせの「アメリカ型グローバリズム」を新興国も捲き込んで地球規模に拡大し、さらに今ある制限を越えて先に突き進もうと政治を買収している

 

菅首相は演説の要所で「現実を冷静に見つめ」とか、「現実主義を基調として」とかの主張をする。グローバル資本主義段階に達した多国籍大資本は、もはや福祉国家的国民経済を顧慮する余裕を失い、無制限な「財産権の自由」を主張し、暴走する――これが支配階級にとっての「現実」である。菅首相は、グローバル資本主義のもとでの多国籍大資本の「財産権の自由」が「現実」なので国民は甘受するほかないというわけだ。だから、輸入自由化を前提に、TPPに参加しなければ日本は「乗り遅れる」と危機感を煽り、社会保障と税の問題をめぐって「負担をお願いするのは避けられない」などと消費税増税を主張することになる。

しかし、これでは国民の閉塞感を打開することはできない。

多国籍大資本の運動をあたかも自然災害であるかのようにあるがままに是認するかぎり、政治・社会の閉塞状況からの脱却は資本主義がその限界に達するまで永久に不可能である。多国籍大企業の現代の新自由主義こそが全世界的に貧困と格差を生み、政治・社会の閉塞状況をもたらしているからだ

 

新自由主義とは、過去の自由主義国家の武器を使って新しく福祉国家を解体しようとする戦略である(二宮厚美・神戸大教授「新福祉国家ビジョンを語る現代的意義」『民医連医療』20112/No.462)。

過去の自由主義=古典的自由主義は封建的絶対王制に対し「財産権の自由」を要求し、この私的所有権の自由を武器にして、自由な財産権の王国=市場社会を解放した。自由な財産権と自由な市場原理――この二つが新自由主義のキーワードである

新自由主義は第一に自由な財産権を武器にして「小さな政府」をめざす。というのは、自由な財産権を守るためには、財産権を侵害する課税権を限定し、大きな政府に向かう根っこを断ち切らなければならない。新自由主義は、租税・社会的負担の圧縮に向かい、市場社会からみて効率的で安上がりな国家をめざす。第二に新自由主義は自由な市場原理に課せられた各種の公的規制やルールの廃止・縮小に向かい、自由な財産権の王国としての市場社会を開放しようとする。いわゆる民営化・営利市場化路線である。

 

新自由主義の路線は、グローバル化を背景にした多国籍大資本の論理に敷かれたものである。それは、グローバル化を贖うことのできない不動の前提として、個人・法人所得や金融資産への課税の強化は所得・資本の海外逃避を招くので、もはや選択できない道とする。「グローバル化→所得・資産税制の空洞化→福祉国家の圧縮」ということになる。これを雇用・賃金分野にあてはめると「グローバル化→労働市場の自由化→雇用・賃金の下方平準化」ということになる。所得・資産税制の空洞化は「所得・資産税制の空洞化→税収難による財政危機→医療・介護・年金などの圧縮」となり、「税収難による財政危機→国民皆なのわかち合い→消費税による福祉財源の確保」となる。

要するに強者の「財産権の無制限な自由」を自然現象のように認めるなら、弱者はすべて自己責任で水平的所得分配の罠に閉じ込められ、落ちるところまで落ちるほかない。古典的自由主義、古典的資本主義への逆戻りである。生存権は脅かされ、閉塞感からの脱却は永久に不可能である。落ちるのがいやならすべての人びとに生存権、社会権を保障する垂直的所得分配の構造を政治の力で取り戻すほかない。つまり、強者の「財産権の自由」に制限を加えることを避けることができない。それを実現できる政党はどの政党か。政党を見極める私たちの力が試されているのだ


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1 コメント

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Tje opening of Japan (noga)
2011-01-26 21:23:47
最初の開国は明治維新である。二番目の開国は戦後である。三番目の開国はこれからである。


考え方にはいろいろある。自分たちの考え方が理に合わないものであることを証明するのは難しいことである。だが、それが証明できなければ、おかしな考え方を改めることも難しい。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812
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