プロメテウスの政治経済コラム

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日本の財政危機と税制の空洞化(その1)

2011-01-28 21:14:29 | 政治経済

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が27日、日本の長期国債格付けを従来の「AA」から「AAマイナス」に一段階引き下げた。同社による日本国債の格下げは20024以来、約89カ月ぶりで、中国や台湾などと同じ格付けとなり、財政難で信用不安がくすぶるスペイン(AA)よりも下ということだ。米格付け会社は、ウォール街と結託して世界金融危機を惹き起こしたように、内実はいい加減なものである。したがって、そのようなものの格付けを気にする必要はまったくない(菅首相は「そういうことに疎い」と言って顰蹙をかっているが)。とは言え、菅首相が財界の期待に応え、消費税増税に“政治生命”をかけて、三顧の礼をもって迎えた与謝野馨経済財政担当相は、消費税増税による財政再建論者としてつとに有名である。

消費税増税について2009年の段階では、「絶対反対」が世論の大勢であったが、2010年に入って財源問題攻撃の中、福祉を充実させるためには財源が足りないから、消費税増税やむなしという声が、7割近くにのぼるという。確かに、福祉を充実させるためには財源をどうするかが避けて通れない。その意味で「税と社会保障の一体改革」という菅政権の問題提起それ自体は間違っていない。

日本の財政危機を解決するためには、そもそも日本の財政危機の実態はどうなっているのか。なぜ税制が空洞化したのか。財政再建のための税制はどうあるべきか。政府・財界・マスコミの世論操作に惑わされることなく国民が真相を掴むことがその第一歩となる

 

【日本の財政危機の現状】

財政問題には、1年ごとの予算編成の問題=「フロー」の問題と、長年にわたって蓄積された借金残高=「ストック」の問題がある。

2010年度の国の予算は、一般会計の総額923兆円、そのうち税収で賄えるのは、37・4兆円で、税外収入を考慮しても、「国債」という名の借金で賄うほかない分が443兆円、予算全体の半分近くになるという大変な状態である(昨年1224日に閣議決定した2011年度予算案も税収が若干伸びる見込みだが、状況は変わらない)。44兆円の国債発行のうち、過去に発行した国債の償還分が108兆円含まれているので、借金の純増は、33兆円ということになる(借りて返しながら、なお借金が累増するという状況である)。これは2010年度のGDP見込み483兆円の87%の赤字ということになる(EUは、財政健全化の基準として「単年度財政赤字3%以内」といっている)。

単年度の借金の純増の累積(発行された国債のうち、まだ償還されていない残高)は、2010年度末で637兆円に達する見込みで、国債や地方債などの地方の借金を含めた「国・地方の長期債務残高」は2010年度末で、約862兆円となる見込みである(2011年度末には892兆円)。これは、GDP18倍もの大きさである。

 

【なぜ財政再建が必要か】

政府の借金が増えると、その返済や利払い(国債費)に追われて、社会保障とか教育とか、政府が本来やらねばならない仕事に使える予算がどんどん減ってしまう。ただ、足下の状況は超低金利が続いているため、国債残高が巨額な割には、利払い費用が少ないため、ここ10年くらい歳出に占める国債費の割合は、横ばいですんでいる。

日本の国債は、よく言われるように郵便貯金(ゆうちょ銀行)、簡易保険(かんぽ生命)、公的年金、日本銀行、市中銀行など、国内金融機関、しかも公的機関中心に保有され、海外の非居住者による保有割合は5~6%にすぎない。ギリシャ国債は独仏が中心となって、非居住者が80%以上保有しているとのは、対照的である。とは言え、いつまでも国債が消化されると考えるわけにはいかない。日本の金融市場で金利が上昇に反転することが充分予想される(国債の価格が下がる)。また、国債残高が増えすぎて他に買ってくれるところがなくなれば、禁じ手の日銀による直接引受が必要となるかもしれない。そうなると、戦後のように悪性インフレによる政府借金の棒引きの悪夢が再びおきないとは限らない。政府、マスコミなどの消費税増税派による「財政危機」誇大宣伝に惑わされる必要はないが、財政危機をいつまでも放置できないことも確かである。【続く】


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