プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

新教育基本法  新聞が報道しない大人への統制の危険な構造

2006-11-29 20:55:54 | 政治経済
新教育基本法は現行法の「第二条 教育の方針」を全面削除し、「第二条 教育の目標」に置き換えた。これは、国家が教育内容と目標を定めその目標を国民に義務づけ、求めることを意味する。重大なのは、この「教育の目標」は学校教育だけでなく、すべての教育の目標とされるように仕組まれていることである。新教育基本法の第三条「生涯学習」、第七条「大学」、第八条「私立学校」、第十条「家庭教育」、第十一条「幼児期の教育」、第十二条「社会教育」など、教育と名のつくものはすべてこの国定の「目標」の達成が義務付けられる構造である。子ども、学校、教員だけでなく、日本でなんらかの教育にかかわるすべての者がこの国家が定めた教育目標に縛られることになる。規範を法制化するということは、強制力ももって従わせるということである

強制力ももって従わせる仕組みは第十三条に用意されている。第十三条「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。」
すべての日本に住む人々は、国定の「教育目標」(第二条)の体制のもとで、「役割と責任を自覚」することが義務付けられる。つまり、すべての国民は、国定の「教育目標」=国定の道徳規範の達成を指向しなければならない。逆にいうと国定の「教育目標」と矛盾する教育・学習活動は、相互の連携及び協力によって、監視され、廃止・禁止される危険性がある。
新教育基本法前文の「我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、・・・」は改憲後の日本国憲法によって、国民精神を統一することを企んでいるのだ。

第十三条の相互の連携及び協力する関係者には、学校、家庭及び地域住民だけでなく、「その他の関係者」が巧妙に仕組まれている。この関係者には、警察とNGOが含まれることは、馳浩文科副大臣(当時)がすでに公言している。この関係者には、警察、市民組織だけでなく、労働組合や研究団体、マスメディアなどが含まれる可能性が高い(俵義文「安倍内閣の教育政策と教基法『改正』の問題点」『安倍晋三の本性』金曜日2006所収)。
つまり、この規定によって、警察が教育基本法に基づいて、自由に教育に介入できるようになる。教育基本法改正の名で、大人の思想を統一していくことをも狙っているのだ。 国定の「教育目標」に反する報道は「役割と責任を自覚」しない妨害行為として指導を受けることになるだろう。「社会教育」は、国定の「目標」の達成が義務付けられるので、自由に開催することができなくなる。イラク戦争反対や「日の丸・君が代」強制反対の学習会を公共施設で開催しようとしても会場使用が不許可になることも予想される。

護憲を言わなくなった大新聞は、憲法改正の露払いでもある教育基本法の改定反対にも及び腰である。法案のとんでもない危険性を告発するどころか、いつ法案が成立するかに国民の注意を向けている。現代日本で「普通の顔をした右翼」(評論家・佐高信さん)が国民の気がつかないところで憲法に対する下克上を次々と進めている。私たちは、気がついたときに、こんなはずではなかったという後悔のないように一つ一つの事態をしっかりと見極め、反対の声を上げていかねばならない。

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