プロメテウスの政治経済コラム

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ユーロ危機  「国家の信用」をも儲けの対象にするウォール街  バクチの規制を

2010-05-12 16:24:09 | 政治経済
外為市場で投機マネーがユーロ相場に集中砲火を浴びせている。主要国では低金利・低成長が続き、そこで生み出された過剰流動性をもとに、運用難に苦しむ多くのヘッジファンドやウォール街のバクチ打ちは、ユーロ相場が「今年最大の収益源に」と息巻いているという(「ロイター」2010年 04月 28日)。
ユーロ危機を煽っているのは、ゴールドマンサックスやJPモルガンといった米国のバクチ打ち勢力と、スタンダード&プアーズ(S&P)など米英の格付け機関である。4月27日、債券格付け会社のS&Pがギリシャ国債を3段階格下げし、リスクが高い「ジャンク債」相当の「BB+」にした。ギリシャの次はポルトガルが危ない、その次はスペインも危ないという噂が広がり、S&Pはポルトガルとスペインの国債も格下げした。危機はイタリアやアイルランドにまで拡大するとか、米国の投資家がユーロから大量の資金を引き上げているとか報じられ、ギリシャ危機はユーロ危機拡大に最大限利用されている(田中宇「ユーロ危機はギリシャでなくドイツの問題」2010年4月30日)。
「国家の信用」をも売買し、儲けの対象にする投機マネーの規制強化に向けた議論をいまこそ本格化させる必要がある。

ゴールドマンサックスやJPモルガンなどのウォール街のバクチ打ちは、リーマン・ショックによる政府の金融支援を悪用して投機的取引を強めている。リーマン・ショック後の金融危機に対応するため、各国政府は、前例のない規模で金融機関に公的資金を注入した支援策や金融緩和措置をとった。投機マネーの原資にはこと欠かない。「見渡す限りこれといった運用先がない。最近まで円安シナリオに賭ける向きもいたが、成績はいまいち。ようやく見つけた(ユーロ売りやギリシャ国債売り)シナリオを何とか生かそうと、ヘッジファンドはヒートアップして売りを徹底させている」という(「ロイター」同上)。

欧州単一通貨ユーロの信用不安が世界の金融市場を揺るがすなか、ユーロ圏は7日夜(日本時間8日未明)、ブリュッセルで緊急首脳会議を開き、やっと混乱収拾に踏み出した。ギリシャの赤字問題は最近始まったことではなく、悪化が近年特にひどくなったわけでもない。ギリシャのGDPはユーロ圏全体の2・5%と小さい。ドイツを筆頭とするユーロ圏の大国群が適切な危機回避策をとっていれば、ギリシャ危機が今のようにユーロ危機に発展することはなかった。なぜ、EUは混乱に追い込まれ、米国の圧力を受ける前に、連帯の立場でギリシャを支援できなかったのだろうか。危機が大きくなって以来の1カ月間、ドイツ政府はギリシャ危機の拡大を防止する有効策をとれなかった。ドイツ国民は、ギリシャへの財政援助をするくらいなら、自国民の社会的格差の是正に努めよ、という立場である。重要な地方選挙を控え、メルケル独首相は、国民に不評のギリシャ支援に乗り出せなかった。

ユーロ圏首脳会議は、ギリシャ向けに、国際通貨基金(IMF)との協調融資に踏み出すこと、また、ユーロ圏諸国の資金難に対処するため、最大7500億ユーロ(約89兆円)の「欧州安定基金」を創設するなどの措置を決めた。
ギリシャ政府は「国家破産を回避する」(パパンドレウ首相)ため、IMFとの交渉を通じて、公務員給与や年金などの引き下げや付加価値税率の引き上げなどの超緊縮政策を受け入れた。
国家が投機マネーの食い物にされ、国民にその被害を押し付ける構図である。
IMFの処方箋は、労働市場「改革」による経済競争力の「強化」といった構造調整政策も含んでいる。財政不安を抱える国はほかにもあり、同様の政策を求める圧力が強まることが予想される。それが、欧州で長年にわたって培われてきた労働者と国民の権利をまもるルールを崩すことになるなら、大問題である。

やっと混乱収拾に踏み出したEUであるが、今回の決定が市場の混乱に追い込まれた結果だったことからも、それに終止符が打てるかどうかは不透明である。
投機筋は、債務不履行になった場合に、債権を保証するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を使って一儲けするために、財政不安を煽っているとも言われている。
1990年代後半のアジア通貨危機や2007年からの世界金融危機と同じく、ウォール街のバクチ打ちによって世界の金融市場が乱されている。カジノと化した市場に、世界の経済と国民生活が振り回されてよいのか。
先進国の政府債務はどこも膨大である。日本の財政赤字比率はギリシャよりも高い。ドルつまり米国金融も、ユーロに劣らずひどい状況にある。
ウォール街のバクチ打ちの投機規制を強化する必要は、いまや十分に明らかだ。今こそ実行に踏み出すべきだ。

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