プロメテウスの政治経済コラム

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米大統領一般教書 中東では軍事戦略に固執 北朝鮮政策では圧力より対話 このちがいは何故?

2007-01-26 19:01:39 | 政治経済
ブッシュ米大統領は今年の施政方針をしめす一般教書演説で、イラクに米軍を増派する「新戦略」に支持をよびかけた。対テロ戦争は「武力衝突を超えた、決定的なイデオロギー闘争だ」などと主張。バグダッドへの米軍の増派がなければ「イラク政府はすべての過激主義者に圧倒される」とし、「イランに支援されたシーア派過激主義者と、(国際テロ組織)アルカイダと旧政権に助けられるスンニ派過激主義者の大闘争」は「イラク全土」だけでなく「中東全域」に広がると述べた(「しんぶん赤旗」2007年1月25日)。
一方、北朝鮮については6か国協議を通じた「集中的な外交」に期待感を表明し、圧力より対話を重視する姿勢を明確にした。「核兵器のない朝鮮半島を実現するために中国、日本、ロシア、韓国のパートナーとともに集中的な外交を展開している」と述べただけで、核実験や国連安全保障理事会による制裁決議採択などへの言及もなかった(「読売新聞」1月24日21時33分配信)。

アメリカのヒル国務次官補と北朝鮮の金桂冠外務次官は、1月16日から18日までの3日間、ドイツの首都ベルリンで会談した。ブッシュ政権が北朝鮮側と2国間の直接対話をしたのは、これが初めてだった。協議が終わった翌日の1月19日、北朝鮮の外務省は国営通信社を通じ、ベルリン協議について「協議は、前向きで誠実な雰囲気の中で進められ、一定の合意を得ることができた。米朝は、核問題を解決するため、もつれている問題に決着をつけた」と発表した。「前向きで誠実」という言い方からすると北朝鮮にとってそれなりに成果あったものと思われる。6カ国協議が2月初旬に再開される見通しとなった(田中宇の国際ニュース解説「北朝鮮問題の解決が近い」2007年1月23日)。

5年前の一般教書演説では、イラク、イランと並んで北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししたブッシュ大統領だが、アメリカの先制攻撃の優先順位は中東と北朝鮮では明らかにちがう。それは、ブッシュ政権を背後で動かす勢力の関心のちがいに基づいている。ブッシュ政権に多大な影響力を行使するユダヤ系社会やキリスト教右派、それらの勢力と産軍複合体(軍部と軍需産業の結合体)の連帯を考えるネオコンは、「イスラエル国家の解体」を唱えるイランを「きわめて危険な国」と見ている。イラクのフセイン政権崩壊後、あからさまにイスラエルと敵対するのは、イランとシリアである。ブッシュ・ドクトリンはアメリカに対する脅威に対して先制攻撃を行うというものだが、イラクに適用された先制攻撃を北朝鮮に用いる気配は今のところない。それは、北朝鮮がイスラエルの直接の脅威でないからである(宮田律『軍産複合体のアメリカ』青灯社2006)。

また経済的に貧困で、麻薬や偽札にまで手を染める北朝鮮に対して、イランには豊饒な石油資源がある。1953年のイランのモサッデク政権打倒のクーデター介入がアメリカが石油利権獲得のために露骨に中東に干渉した最初である。79年のイラン革命で石油利権を喪失したアメリカの石油企業は、現在の宗教体制に基づく政権を打倒することによって、イラン石油の獲得を望んでいる。ヨーロッパ諸国もイラン問題に強い関心を寄せるのは、イランに石油やガスなどの資源があるからだ。それに対して、北朝鮮にはアメリカやヨーロッパ諸国など先進工業国が関心をもつべき経済資源はほとんどない。イランと北朝鮮のちがいは、根本的には、経済資源があるかないかのちがいであり、イスラエルに対する脅威であるかどうかのちがいである(宮田律 同上)。

戦争はなぜ起きるか。それは、戦争でもうける者がいるからである。国家のためにと駆り出される兵士は、実は戦争でもうける者たちの傭兵なのだ。アメリカ国民は早くそれに気づかなければならない。

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