プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

非正規の均衡処遇  安倍「再チャレンジ政策」の内実

2006-11-21 20:16:37 | 政治経済
厚生労働省は4日、正社員と非正社員の格差是正のため、企業に正社員とパート社員のバランスのとれた処遇(均衡処遇)をとることや、正社員への転換を促進するようパート労働法に明記する方針を固めた(「産經新聞」2006年11月5日)。
「バランスのとれた処遇」とは“正社員は正社員なりに非正社員は非正社員なりに”ということだからこれで格差是正になるのか不明である。労働基準法は「均等待遇」のタイトルで「第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定している。同一労働同一賃金・労働条件の原則を定めたものである。短時間労働者であっても時間当たり賃金は同じというのが「均等待遇」である。
「均衡処遇」は違う。正規、非正規労働者間の処遇を同一にしたのでは、財界にとって非正規労働者を雇う意味がない。
要するに非正規労働者が増えて賃金格差を問題にする人間が多いので均衡確保に努めるというポーズをとろうというものである。正社員の待遇を下げてバランスをとるのも均衡処遇である。現在、労働政策審議会では、残業代ゼロ・過労死の合法化や解雇の金銭解決等が検討されている。

小泉構造改革で進行した社会の亀裂をどう再統合するかは支配階級にとって無視できない課題である。「再チャレンジ政策」は、教育基本法改定とともにこの課題にこたえるための安倍政権の中心政策に据えられている。経済界では競争に負けた人間が再挑戦することはごく当たり前であって、社会保障とは何の関係もない。
「再チャレンジ政策」も貧困・格差を意識して出てきたものだが、庶民の暮らしを守る、どのような役割を果たすものとはなっていない。安倍首相自身も「『再チャレンジ』というのは、セーフティネットではない」「弱者を保護することではなく、人材を眠らせない(こと)」(『安倍晋三の経済政策を読む』)だと語っている。
では「再チャレンジ政策」は何をしようとしているのか。ひとことで言えば、労働市場への出入りを円滑に(雇用を流動化)し、上層・中層のやる気のある労働者が自力で這い上がって中途採用されやすい状況をつくること、および各種の「起業」型自立を支援するというものである(後藤道夫・都留文科大教授「しんぶん赤旗」2006年11月21日)。

人材活用策の一環としての「再チャレンジ」であるから、非正規(負け組)を減らすという発想はない。つまりそれが目指すのは正規(勝ち組)、非正規(負け組)がクルクル入れ代わることのできる社会ということである。誰かが正規、誰かが非正規と格差が固定するのではなく、正規、非正規の間を流動化し、結局は労働者たちの総貧困化を満遍なく、なだらかに実現しようとするものである。それは、働く者のあいだに“自発的”労働強化の新たな競争をつくるものとなろう(石川康宏・神戸女学院大教授「しんぶん赤旗」2006年11月9日)。

貧困、低所得、失業への対策が、労働力の流動化政策と労働者の能力向上のためのわずかな支援策だけで、解雇規制を緩め低賃金規制を無視する「再チャレンジ政策」はまじめに働けば誰もが安心して暮らせる社会の実現とはあまりにもかけ離れたものである。社会が分裂したまま放置しておいてなにが「美しい国」か。誰もこの国を愛する気にはなれないだろう。

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