教科書採択 今年は二つの「あぶない教科書」 全国各地で攻防がはじまった

侵略戦争を美化する「新しい歴史教科書をつくる会」の中学歴史と公民の教科書を採択する動きが各地で起きる中、「つくる会」教科書採択を阻止する東京ネットワークは２３日、緊急決起集会を開いた（「しんぶん赤旗」2009年7月24日）。４年に一度の中学校教科書採択の時期がやってきた。４年前、扶桑社版「歴史」教科書や、同「公民」教科書について、日本のかつての植民地支配や侵略戦争を美化・正当化しているとして大問題となり、全国各地で採択反対運動が盛り上がった。今年は、歴史教科書をつくる会が2006年に分裂したため、従来からの扶桑社版と新しく自由社版の「あぶない教科書」が二つ出揃うことになった。「つくる会」が、分裂しながらも教科書攻撃にあくなき執念をみせたということだ。

扶桑社版は『新しい歴史教科書　改訂版』、自由社版は『新編　新しい歴史教科書』である。自由社版は昨年12月にいったん不合格となっていたが、4月9日年度末すれすれで検定合格した。不合格となったのは、内容が文科省の気に入らなかったわけではない。「欠陥箇所」の大半が「思想」の問題ではなく、単純な誤記・誤植の類という文字通りの欠陥品であったからである。内容は章立ても項目も８割は、扶桑社版と同じであり、独自の問題点はほとんどない。問題があるとすれば、扶桑社版と概ね共通である。自由社版は、扶桑社版のコピー教科書といってよい（俵義文「『あぶない教科書』が二種類！？」『週刊金曜日』2009・7・10）。

中学教科書の検定と採択は基本的に４年に一度おこなわれる。そして教科書は、４年間使用される。しかし、学習指導要領が改訂される場合には、このサイクルが崩れることが起きる。今年（08年検定、09年採択）は、2012年からの新学習指導要領の全面実施が決まっているので、現行指導要領準拠教科書は、2010、2011年の２年間だけの使用となる。そこで、他の教科書会社は４年前の検定合格教科書を継続することとし、あえて新版を発行せず６年間使用とした。

自由社だけが、２年間しか使用期間がないにもかかわらず、あえて扶桑社版のコピー教科書といわれる無残な本の発行に拘ったのは、なぜか。
「つくる会」の分裂で、執筆者の多くが「八木（秀次）派」ともいうべき「教科書改善の会」＝扶桑社・育鵬社側についてしまい、「つくる会」として独自に新たな記述を行うだけの陣容を揃えられなかった。「つくる会」の組織は衰退を続け、いまや藤岡信勝氏の私的組織としての性格を強めているという。
藤岡氏は扶桑社に対して、著作権者の一人である自分が扶桑社の執筆者を降りた以上、扶桑社は『新しい歴史教科書』を発行できないと主張し訴訟をおこしている。藤岡氏は、自己の正当性を主張するためにも、コピー教科書を新たにつくるほかなかったのだ（吉田典裕「分裂し迷走しながらも教科書攻撃にあくなき執念」『月刊憲法運動』2009・6　381号）。

子どもと教科書全国ネット２１の俵義文事務局長は、＜自由社版も扶桑社版も代表執筆者は、藤岡氏である。同じ代表執筆者で内容もほとんど同じ教科書が採択用の見本として出されるわけだから、教育委員会が混乱することは避けられないと思われる。　歴史を歪曲し、戦争を賛美し、憲法「改正」・「戦争をする国」をめざし、国際社会での孤立化の道に踏み込む自由社版及び扶桑社版の『あぶない教科書』が、子どもたちの手に渡されることを、私たちは許すことはできない＞と述べている（『前衛』2009.7　No.844）。
４年前、扶桑社版が採択された、栃木県大田原市教育委員会は今回、すでに採択を決めている。同じく東京杉並区でも、山田宏区長のもとで、再び採択されるようだ。滋賀、埼玉、横浜市なども危ない。

近年、わが国では他民族に対する日本の侵略・植民地的統治の歴史を伝えること、語ることを「反日」というレッテルを貼って攻撃する「自虐」史観なるイデオロギ－が大規模に流布されている。最近では、NHKスペシャル「アジアの“一等国”」に対して一部国会議員や右翼グループが大衆動員をして大掛かりな攻撃を仕掛けている。しかし、どのような「歴史観」もそれによって歴史の事実を勝手に改編することはできない。どのような「歴史観」も歴史の事実に依拠しなければ、一方的なデマゴギーである。
一方的なデマゴギーを基につくられた教科書が採択されてよいわけがない。