プロメテウスの政治経済コラム

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介護認定基準 半年で再修正へ  本来の社会保障を取り戻せ

2009-07-30 18:53:08 | 政治経済
介護保険サービスをどれだけ受けられるかを決める「要介護認定」の基準が、大幅に修正されることになった(「朝日」2009年7月29日1時18分)。新基準は、4月に導入されたが、世論の批判を浴びて半年で再修正に追い込まれた。社会保障の「ほころび」と人びとの惨状は、「構造改革」政治の現在の帰結そのものである
社会保障の「機能強化」は、いまや誰もが認めるところである。問題は、それを営利企業的市場化の方向で進めるのか、それとも「負担は能力に応じて、必要な給付は平等に」という社会保障本来のあり方を取り戻す方向で進めるのか、である。「構造改革」路線は行き詰っているが、財界・大企業と国民大衆との階級対立を反映するものである限り、推進勢力が自ら旗を降ろすことはない。国民の手で決着をつけるほかない。

 4月に導入され世論の批判を浴びて検証中の新しい要介護認定制度について、厚生労働省は28日に開かれた検討会で「非該当者および軽度者の割合は増加した」と述べ、新制度の認定が軽度化の結果を招く事実を認め、43項目の基準を見直す案を提示し、了承された。厚労省が全国1489自治体の4月、5月の要介護認定の状況について調査した結果、新基準で認定を受けた約28万人のうち、介護の必要なしとして「非該当」と認定され、介護サービスを受けられない人の割合は2.4%で、前年同期(0.9%)の3倍近い。非該当と、軽度(要支援1.2、要介護1)と認定された人を合わせた割合は全体の53.6%と、前年同期より4.1ポイント増えた。
要介護度が軽くなると、受けられるサービスが減る。例えば、要介護3が2になると30分以上1時間未満の訪問介護の利用は、半分程度に減る。厚労省が4月から、いっそうの利用を制限する制度改悪をめざしたことは、明らかであった。

 今回、厚労省が異例の「大幅見直し」に追い込まれたのは、関係者の運動や日本共産党・小池晃参院議員らの国会での追及の成果である。旧基準は、利用者の身体状況を調べる担当者の主観に左右されやすいなどと介護の現場を無視し、コンピューターソフトによる機械的判定を大きく広げたが、その真の目的は、介護費用の抑制であった。小池晃参院議員が社会保障費2200億円削減の一環として要介護認定見直しによる介護費用の抑制を検討した「内部資料」を突きつけたことが、厚労省を追い詰める決定打となった
4月改定を前提に自治体は、担当者の研修や介護保険のシステム切り替えを進めたが、半年たらずの間に基準が2度変わることになる。実施前から多くの介護関係者の懸念・批判の声が寄せられていたのに強行した政府・厚労省の責任は重大だ。国民の批判の前にフラツキながら、「構造改革」路線をあきらめない自公政権の醜態そのものだ。

 2000年の制度開始から今年4月に10年目を迎えた介護保険制度。うたい文句であった「介護の社会化」と「安心」とは裏腹に、社会保障切り捨ての「構造改革」のもとで負担増や「介護とりあげ」が進み、家族介護の負担はいまも重く、1年間に14万人が家族の介護などのために仕事をやめざるを得ない状況である。公的責任を放棄し、給付費を抑制しようとすると、結局、現在の介護保険制度は「在宅重視」とならざるを得ない。ところが、コンピューターによる判定が中心の要介護認定は高齢者に必要な介護を正しく反映できず、また、要介護度ごとに低い利用限度額があるために、介護保険だけで在宅生活を維持することは困難なのだ保険料・利用料が高いために、介護保険制度があっても、経済的理由で介護を受けられない人びとは、老老介護で耐えて死を待つだけである。
介護をもっとも必要とする所得の少ない人たちが介護を利用できないのでは、公的介護制度の意味がない。所得の少ない高齢者には、原則として介護保険料・利用料を免除して、金の心配をせずに介護が受けられるしくみを緊急につくるべきだろう

介護保険制度で不幸なのは、利用者だけではない。お世話をする介護労働者の処遇は悲惨である。重労働と低賃金に悩む介護労働者の離職率は20%を超える。現在の介護保険は、利用が増えたり、労働条件を改善すれば、ただちに低所得者までふくめて保険料・利用料が連動して値上げされるという根本矛盾を抱えている
保険料をおさえながら、誰もが安心して利用できる介護制度に改善するためには、公費の投入以外にない。給付水準が下がり、介護労働者の処遇が劣悪化し、それでも保険料は高くなるのは、介護保険制度がはじまったときに、それまで介護費用の50%だった国庫負担割合が25%とされ、「三位一体改革」により22・8%(09年度予算)まで引き下げられているからである。

 「社会保障構造改革」は、制度改変のたびに公費投入を削減し、規制緩和による民間参入拡大=市場化として進められてきた。福祉サービスを一般商品と同じように、事業者と利用者の売買に委ね、国・自治体は直接責任を取らない仕組みに変えることを意図するものだ。いま財界は、財政投入を抑制しすぎると、需要があっても、利用が広がらないという矛盾に直面している。消費税増税で、社会保障の「機能強化」などと言い出しているのは、営利のチャンスを広げようという彼らの黒いたくらみなのだ。社会保障の営利企業的市場化のワナに陥ってはならない

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