プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

輸入米食管会計赤字―ここでも対米従属の影

2006-03-20 19:07:12 | 政治経済
ミニマム・アクセス(最低輸入機会の保証)にもとづいた輸入米(MA米)が食管会計を圧迫しています。現在の在庫量は170万トンにもなり、それにかかわる食管会計の累積赤字は1374億円。国民の重い負担となっています。MAは最低輸入義務ではなく、正しくは『輸入機会を与える』ことであり、日本側の交渉次第で輸入数量をある程度コントロールできるものです。なぜ農水省が弱腰になるのか。ここでも対米従属の影が見え隠れします。

日本は1994に世界貿易機関(WTO)の農業協定(ウルグアイ・ラウンド農業合意)を批准し、コメの最低輸入機会(ミニマムアクセス)提供義務を受け入れました。最低輸入機会は毎年拡大され2000年には76万7千トンに達しました。ウルグアイ合意の実施期間は2000年で終わり、2001年からはWTOの農業交渉として引き継がれており、現在も交渉が続いています。

MA米は、主に加工用(25万トン)や食料援助用(20万トン)、主食用(10万トン)に使われています。いずれも輸入米が押しつけられる前は国産米で対応していたものです。

外国産輸入米の在庫量は、2005年10月の統計では170万トンとなっています。ここ数年、20万トン程度が在庫として積み増しされています。輸入外国産米の在庫のうち三分の二にあたる108万トンがアメリカ産です(タイ19万トン、ベトナム16万トン、中国14万トン、豪州13万トン)。
これら外国産米の保管経費などで食管会計の赤字は、累計で1374億円にのぼっています。アメリカの米が国民への重い負担となっています。

アメリカ産米の市場評価は中国産に比べて低いのに大量に輸入されています。
2004年度実績では、全体のMA米(精米)の五割近くの32万トンがアメリカ産となっています。二番は中国で17万トン、タイ9万トンなどとなっています。
一方、商社と米穀卸売り会社が同時に入札する方式をとり市場の動向を比較的反映するとされるSBS(売買同時入札)制度での輸入米(77万トンの内数)では、中国産米のシェアが圧倒的に多く、アメリカ産米は一割程度でしかありません。
市場の評価が低いのに輸入する実態は、アメリカへの奉仕ぶりを示しています。アメリカは最近のWTO農業交渉で日本のMA米輸入を六百万トン程度まで大幅に増やす内容の提案をして圧力をかけています。ここでも対米従属の日本政府の姿勢は変わりません。

2004年、オーストラリア産米が不作のため10万トンから2万トンに輸入が落ち込みました。本来なら8万トン輸入が減っても問題ないの、ミニマムアクセス米の輸入総量は77万トンで変わっていません。台湾はMA米の約束量を十四万トン以上としながら国家貿易によって十万トン程度しか輸入していない、韓国のトウガラシも約束量を守っていないなどの具体例があります。
何としても総量を守ろうとした背景には輸入の五割を占めるアメリカの圧力があったことは想像に難くありません。

MA米を削減することは不可能なのでしょうか。
ミニマムアクセスは「コメ」といった分類のほか、ムギやトウモロコシなども含む「穀物」のような広い分類も考えられます。たとえば畜産が農家経営の中で重要な位置を占める欧州連合(EU)は「食肉」という大分類で最低輸入機会を設けています。この分類はEUが交渉で認めさせたもので、食肉のうちEU内で影響の大きい豚肉の輸入は抑え、影響の少ない羊肉輸入で対応しています。
これは協定上、品目の単位の統一ルールはなく、各国間の交渉に委ねられているからです。日本も「穀物」などの大分類でくくれば、トウモロコシなどは飼料用も含め大量輸入しており、わざわざコメを輸入する必要もないはずです。政府もかつて日本共産党・松本善明衆院議員の質問に、最低輸入機会を「穀物」などで交渉することは「理論上といいますか、それは可能でございます」と認めています(02年9月24日、衆院農水委)。
外交交渉には困難もありますが粘り強く交渉したEUと比べ、要求さえしない日本政府の姿勢は弱々しいものです。

次期WTOの農業交渉は長期化しています。アメリカなどのアグリビジネスの利益を優先した協定の矛盾の現れです。協定の枠内でもできる大分類の提起など、国内農業を守るためMA米削減の姿勢を鮮明にすべき重要な時期です。




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