プロメテウスの政治経済コラム

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経団連春闘方針 「給与アップ」の内実 「買い手」としての労働者と「売り手」としての労働者

2008-01-16 16:26:26 | 政治経済
春闘の時期を迎えて、財界から自民、公明の与党にいたるまで、このところ「給与アップ」をめぐる発言が目立つ。総資本=資本家階級を代表する日本経団連が08年春闘に臨む方針として経営労働政策委員会報告「日本型雇用システムの新展開と課題」を発表。「企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」として“家計”に初めて言及した。資本とは、労働者から剰余価値を搾り取って(搾取して)自己増殖する価値である。資本家階級が搾取の対象であるはずの労働者の賃上げを口にするのはなぜか。

「十年以内に主要国で最高水準の所得を実現するよう政府に求めたい」日本経団連の御手洗冨士夫会長が年頭所感でこう述べた。人口一千万人以上の国でみると、一人あたりの国民所得が日本は4位(05年)と落ち込んでいるとして、「国民一人ひとりが豊かな生活を享受できる」社会をめざすとぶちあげたのだ。さっそく尻馬に乗った公明党の太田昭宏代表。2日の街頭演説で、「2010年までの3年間で給与所得を過去最高の水準に持っていく」と打ち出した。太田氏の主張に自民党の伊吹文明幹事長も「労賃の配分を高めていくことは、的を射た発言である」と応じた(「しんぶん赤旗」2008年1月14日)。

このような背景には、大企業が史上最高の収益を謳歌する一方で、年収二百万円以下の低所得者が一千万人を超えるなど貧困と格差を拡大させた責任を国民から問われ、参院選で与党が惨敗したことがあることは明らかである。現在の支配体制を揺るがすほどではないにしても階級支配の翳りを感じているのだろう。
自民・公明政権はこれまで、景気の先行きについて、企業部門の好調さが「家計部門へ波及(する)」(月例経済報告)と繰り返し、弱肉強食、大企業応援の「構造改革」を続ける口実としてきた。ところが、昨年12月の月例経済報告では、05年8月以来続けた「家計部門へ波及」という表現をとうとう削除せざるをえなくなった。企業部門は引き続き「底堅く推移」しても、雇用は「改善に足踏み」、消費は「おおむね横ばい」、物価は「購入頻度の高い品目で上昇」―多国籍大企業の国際競争力強化のために国民経済を犠牲にする「構造改革」の帰結に目を背けることができなくなったのだ(「しんぶん赤旗」2008年1月10日)。

グローバル市場で競争する資本は、剰余労働を、過剰生産性、過剰消費等を際限なく追い求める。競争は、資本にたいして他人の資本によって加えられる強制として、たえず進め、進め!と資本を駆り立てる。生産の無制限的拡大の傾向と制限された消費との矛盾は資本主義的生産様式の根本矛盾である(不破哲三『マルクスと資本論』上第二篇第六章)。
グローバル資本主義は、一国内での生産と消費との矛盾を世界大に拡大した。海外で儲ける多国籍企業は、海外市場で生産し売りさばくので、国内の労働者の賃金水準は東南アジア労働者並みでなんとも思わない。正規労働者を非正規労働者に置き換えることによって強引に低賃金労働者の貯水池をつくったのだ。

マルクスは、生産物の消費と過剰生産の関係の考察を始めるに当たって労働者の二つの側面を指摘する。「買い手」としての労働者と「売り手」としての労働者である生産過程で労働力を売る労働者は、もっぱら資本の搾取の対象だが、流通過程では労働者は、資本の商品を買うお客さん(消費者)である。
ここから、資本家の願望も、同じ労働者が相手であっても、自分の労働者にたいする場合と、他の労働者にたいする場合とでは、まったく違ってくる。資本主義的搾取者としての立場とは矛盾する「願望」が生まれるのだ「どの資本家も、自分の労働者については、その労働者にたいする自己の関係が消費者にたいする生産者の関係でないことを知っており、またその労働者の消費を、すなわちその交換能力、その賃金をできるだけ制限したいと望んでいる。(ところが)どの資本家も、他の資本家の労働者が自分の商品のできるだけ大きな消費者であることを望んでいる」(『資本論草稿集2』―不破 同上より孫引き)。

資本は、自分の生産過程では、労働者を資本対労働という本質的関係における労働者として扱い、その賃金(したがってその交換能力と消費力)をできるだけ制限しようとするが、他の資本家のもとでの労働者、結局労働者全体は、自分の商品を購買してくれる消費者として扱い、できるだけ大きな消費力(したがってより高い賃金)を望むという資本主義的搾取者としての立場とは矛盾する「願望」を持つことになる。

総資本=資本家階級を代表する日本経団連の春闘方針が揺れたのは、資本主義的搾取者としての立場と矛盾する「願望」のせいである。労働者階級は、賃上げをそんな資本家の「幻想」に頼るわけにはいかない。資本対労働という本質的関係においてたたかいによって勝ち取るほかないのである。

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