プロメテウスの政治経済コラム

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G8/G20サミット  先進資本主義国経済は慢性的過剰生産 なんらかの不況対策が不可欠

2010-06-29 22:01:17 | 政治経済
カナダで開かれた主要8カ国(G8)と20カ国・地域(G20)の両首脳会議(サミット)は、米国発の金融危機に対処するために各国が行ってきた財政刺激を見直す「出口戦略」などをめぐって、一致した方針を示すことができなかった。むしろ、G20サミットの首脳宣言は、メンバー間の不一致を認めることで合意したといえる。
一定人口の生活を支える物的生産基盤の整備、再生産構造の構築が終わった先進資本主義国では、新産業の台頭・技術革新を別にすれば、更新需要を除いて生産手段需要は停滞せざるをえない。資本過剰、過剰生産が慢性的となり、相対的過剰人口(失業)も慢性化し、それにともなう所得の不足が一般的となる。
基調としての不況の拡大を防ぐためには、先進資本主義国では、政府による常に何らかの不況対策を必要としている。そして、財政の膨張と政府債務の累積等が一般的特徴となる。今次の世界経済危機では、各国政府と中央銀行は、巨額の資金を投入して大規模な救済に乗り出した。そしてギリシャのように政府債務についてソブリン信用不安の国も現れるようになった。

主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)と20カ国・地域(G20)首脳会議がカナダで連続開催された今回、テーマの切り分けやメンバーなど、両会議の役割分担についても、様々な意見が噴出し、枠組みそのものも混沌とする有り様だった。
首脳宣言は2013年までに財政赤字を半減させる「努力目標」を盛り込んだものの、具体的なアプローチは各国に委ねられ、拘束力はない。ソブリン信用不安に揺れる欧州諸国が厳しい財政再建計画を打ち出したのに対し、米国は、歳出抑制は短期的な回復の足を引っ張りかねないと主張。宣言では一致した方向性を打ち出せないまま、各国の状況に即した実施ということになった。

財政健全化と景気回復は先進資本主義国の共通の悩みである。
慢性的資本過剰、過剰生産が直ちに資本主義の没落とならないために政府・企業・個人という各経済主体における負債の累積、とりわけ政府・個人における債務が、生産の過剰あるいは需要の不足に対処する需要補強策として一般的となる。アメリカの個人の負債残高の累積が、民間住宅建設、自動車及び一般消費財における生産と雇用そして消費を大きく下支え、衰退していく生産と消費、とりわけ個人の最終需要の補強策として利用され、ローン債権の証券化が個人消費支出を加速し、今次の金融危機につながったことは記憶に新しい。
金融化、債務化は20世紀以降の資本の過剰、生産の過剰に対する対策として、今のところでは最後に出現したものであるようにも見える(大槻久志「『金融危機』を再検討し、経済の『閉塞』を点検する」『経済』2010・7 No.178).

信用不安に揺れる欧州諸国が厳しい財政健全化に関心をもつのは当然だが、緊縮政策が福祉の切り下げや公務員削減、付加価値税の引き上げなど低所得者層に痛みを押し付けるものとなるなら、需要の不足に対処する需要補強策とは逆に、国民から購買力を奪い、消費を冷え込ませ、景気をさらに悪化させる可能性もある
日本について宣言は、成長戦略と財政再建という計画を「歓迎する」とし、気を良くした菅首相は「各国にも参考にしてもらいたい」とえらそうなことを言っている。しかし、日本の政府債務の大きさは、ギリシャなどと状況が違うということで、日本を同列に扱わなかたということだ。増税しても景気回復できるという菅首相の“特異な経済理論”が支持しされたわけではない。

政府債務が、衰退していく生産と消費、とりわけ個人の最終需要の補強策としての役割を担っているとすれば、財政健全化が必要だとしても、財政赤字の原因が何にあり、健全化の負担を誰が担うのかが大問題である。財政再建を言いながら、米軍への思いやり予算や新基地建設、グアムでの米軍基地建設費と大盤振る舞いし、軍事費を膨張させ、大企業向け法人税減税の穴埋めとして消費税を増税しようとする菅・民主党は経済財政運営のイロハをまったく理解していない。
また巨額の財政赤字に陥った国までもうけの対象にする投機マネーにどう規制をかけるのかも、G20で問われた焦点であった。ギリシャ危機を発端にした世界的な金融不安の背景には、こうした投機マネーの暗躍があるからだ。しかし、今回のG20は金融規制でもみるべき前進がなかった。

先進資本主義諸国は、成長が停滞し、打開の方策に悩んでいる。先進国の成長率が低下し、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、あるいはさらにVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)などの後発資本主義国が世界経済の成長をリードし、旧先進国が追随するのは資本主義の歴史的発展の必然である。

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