プロメテウスの政治経済コラム

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ホンジュラス クーデターから1年  ラテンアメリカでせめぎあう進歩と反動

2010-06-30 20:49:38 | 政治経済
6月28日、中米ホンジュラスは、貧困層支援などセラヤ前政権の改革政策に反対する保守派勢力が引き起こした軍事クーデターから1周年を迎えた。首都テグシガルパでは27日夜、クーデターとその後の弾圧による犠牲者を追悼し、セラヤ氏の無条件帰国などを要求するたいまつ行進が行われた(「しんぶん赤旗」2010年6月29日)。ラテンアメリカでは、1999年にベネズエラでチャベス政権が成立したのを皮切りに、社会変革を望む国民の声が、つぎつぎと奔流のように革新的政権を誕生させていった。しかし、米国と反動勢力の側でも、イラク戦争が激動の時期を過ぎた2007年後半より本格的な反攻に転じた。沖縄基地の強制に見られるように、オバマ政権の覇権主義外交は彼の個性とは関係なく変わらない。世界の構造変化の象徴の一つと見られる中南米地域においても、歴史は、一路、進歩の方向になかなか進むものではない。

中米ホンジュラスで、セラヤ前政権を転覆した軍事クーデターから1周年を迎えた28日、クーデターに抗議し、憲法改定と新たな国づくりを求める市民らがデモ行進を行った。クーデター派支配下の選挙で当選し、1月に就任したロボ現大統領は、反対派の活動家やジャーナリストを弾圧。人権団体によると、この1年間で弾圧による死者は70人以上にのぼるという。 セラヤ氏の写真を抱えてデモに参加した自営業の女性ドミニカ・ウマンソルさん(60)は、セラヤ政権の時は、所得の少ない家庭には電気料金などの軽減措置がとられるなど、庶民にやさしい政治だったのに、いまはそれがなくなり、電気代は3倍にもなったと生活の苦しさを訴えた。国会に議席をもつ唯一の左派政党、民主統一党(UD)のカステジャノ議員は、「クーデターは旧支配層が変革の前進を恐れて引き起こしたものだ」と指摘した(「しんぶん赤旗」2010年6月30日)。

ラテンアメリカは、歴史的に米国の地政学上、極めて重要な地域である。1970~80年代にキューバ、チリ、パナマ、ペルー、ニカラグア、グレナダと自主的な民族主義的政権あるいは左翼政権が成立したものの、米国の干渉によりキューバを除き、すべて政権が転覆され、あるいは変節した。エルサルバドル、グアテマラの左翼ゲリラ活動も和平交渉に応じて沈静化した。そうした結果、90年代は、米国は、中東とヨーロッパの問題に主要な関心を移し、ラテンアメリカ政策は、二次的な背景に追いやられた(新藤通弘「ラテンアメリカでせめぎあう進歩と反動」『経済』2010・4 No.175)。
こうした中で、累積債務問題で、90年代、ワシントン・コンセンサスに基づく新自由主義的政策が押し付けられ、社会的・経済的矛盾が深刻化し、チャベス政権の成立、その後の革新政権の誕生となった。

米国と反動勢力が、これらの動きを黙って見ていたわけではない。2007年後半より、本格的な反攻に転じた。
米国は、ボリビアで、東部4州県の分離独立運動を扇動し、ベネズエラでは、07年11月大学内での学生の暴動を支援し、エクアドルでは、08年3月、国境地帯のコロンビア革命軍の基地をコロンビア政府軍が越境して攻撃することを幇助した。08年3月には米国の後援で、国際的に著名な反動政治家・文化人の会議を開催し、「大陸規模の反攻」について議論した。同年7月には58年ぶりに第四艦隊を復活させ、米国、カナダ、チリ、コロンビア、ペルー、メキシコなどが参加する大演習を行った。09年5月にはパナマで、4年間続いたマルティン・トリホスの対米自立政権を葬り去った。8月には、コロンビアで7つの米軍基地の新設交渉が始まった(新藤通弘 同上)。

政治面での米国と反動勢力の反攻は、09年6月28日、ホンジュラスで劇的な形で行われた。同日、ホンジュラスの保守派・寡頭制勢力・軍部が、民主的な選挙で選ばれたセラヤ大統領を自宅で拉致し、国内のパルメロラ米軍基地に一時間立ち寄った後、コスタリカに追放した。キューバ、ボリビアが推進するALBA(米州ボリバル代替同盟―2004年12月、キューバとベネズエラが米国主導の新自由主義的な地域統合構想に対抗して、各国の相互補完・連帯、社会開発面での共同を推進する協定を締結して発足。その後加盟国は、ボリビア、ニカラグア、ホンジュラス、エクアドル、ドミニカなど計9カ国にまで広がっていたが、現在、ホンジュラスは脱落)にセラヤ大統領が加盟したこと、セラヤ大統領の社会政策のもとで国民の社会運動が発展しつつあったことに対する軍事クーデターであった。ラテンアメリカ諸国は、こぞってこのクーデターを批判し、セラヤ大統領の復帰を求めたが、米国の策略のもと、「民主的、透明性をもって」大統領選挙が実施され、ロボ右派親米「大統領」が選出され、寡頭制支配体制が復活した(新藤通弘 同上)。

米国政府の政策や価値観に従わない国々を敵視するという米国の傲慢さは、100年前から変わらない。しかし、中南米でアメリカの思い通りにはさせないという勢力が着実に前進していることも事実である。ラテンアメリカでは、現在、進歩と反動の対決が渦巻いている。

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