プロメテウスの政治経済コラム

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離婚時の年金分割 合意により妻の受給分増といっても肝心の「安心の年金」は不安だらけ

2007-02-13 18:19:36 | 政治経済
離婚時の厚生年金の分割制度についての2006年10月から3カ月間の相談件数は、約一万五千件にのぼったという。社会保険事務所を訪問した相談者は7780人で、そのうち約8割が女性であった。
いまの年金制度では、サラリーマンの妻が専業主婦(第三号被保険者)の場合、離婚後に妻が受け取れるのは基礎年金(満額で月6万6千円)だけである。夫にはこれに加えて、払った保険料に応じた厚生年金(報酬比例部分)も支給される。厚生年金は夫の名義になっているため、妻は受け取ることができない。
新しい制度では、4月以降に離婚した場合、夫婦の合意により、婚姻期間中に保険料を支払った分の厚生年金を分割して妻も受け取ることができるというものである。夫が民間企業で40年間働いて保険料を払い、その間、妻がずっと専業主婦だったモデル世帯の場合、離婚後に受け取る年金月額は、現行制度では妻が基礎年金分の6万6千円、夫はこれに厚生年金(約10万円)を加えた16万6千円。4月以降は、厚生年金を仮に二分の一ずつ分割することで合意した場合、妻の年金が約5万円増えて、それぞれ11万6千6百円ずつになる(「しんぶん赤旗」2007年2月4日)。

問題は、その年金の将来給付は本当に大丈夫なのか。 04年に強行された年金制度見直し(実際は改悪)では、政府、自民・公明与党は「モデル世帯」(夫40年加入、妻40年専業主婦)で現役世代の手取り収入の「50%」の給付を保障するので、「100年安心の年金制度ができた」と盛ん宣伝した。この計算は多くの仮定の上に成り立っており、出生率は1・39を前提にしていた。しかし、出生率が1・26に落ち込み、はやくも「安心」の根拠が揺らぎ始めた(「しんぶん赤旗」2007年2月12日)。
選挙を控えて「安心」が「不安」では困ると、厚生労働省は6日、2055年の出生率を1・26に下方修正した新推計人口に基づく厚生年金給付水準の新たな試算を公表した。結果は出生率が1・39から1・26に下がったのに、給付水準は維持され逆に上がった。
どうしてこんな妙な結果になるのか。試算は、最も実現性が高い中位推計、楽観的な高位推計、悲観的な低位推計の3つに分けて計算された。給付水準は中位推計の場合、2026年度以降51・6%、高位推計だと、2020年度以降54・2%で、2004年の年金改革で政府・与党が約束した「現役の50%以上」の水準を確保できるというわけだ。
なんのことはない。試算の前提となる将来の経済情勢、つまり、景気の動向や年金積立金の運用利回り、賃金上昇率などを高く見込んだからである。賃金上昇率2・1%→2・5%、年金積立金の運用利回り3・2%→4・1%という具合である

年金は現役世代から集める保険料と150兆円の積立金の運用益で賄われるため、人口見通しとともに経済情勢が給付水準を大きく左右する。長期の実質利回りは特に影響が大きく、利回りの前提が0.5ポイント高まれば給付水準は2ポイント向上する(Asahi.com 2007年01月26日)。
以前の経済見通しだと給付水準は、「51・6%」が「46・9%」となり、たちまち40%台に落ち込む。経済情勢次第で、政府の給付シナリオがあっさり崩壊することを示している。
「毎日」2月8日付社説は「都合の良い前提条件を恣意的に集めたに過ぎない」「『百年安心』と銘打った年金改革の看板がまがいものだったことを露呈する皮肉な結果」と批判。「日経」8日付社説も「与党公約の実現が実は危ういことを示した」と書いた(「しんぶん赤旗」同上)。

2004年の年金改悪を「100年安心」などと大宣伝しておいて、その根拠が揺らぎ始めると、今度は「経済が成長するから大丈夫」という。今国会では、厚生年金や国民年金の業務を行う社会保険庁の「廃止・解体=民営化」法案も予定されている。いくら選挙が近いからといって政府、自公のやることは無責任過ぎはしないか。

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