プロメテウスの政治経済コラム

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日本経団連「税制改正に関する提言」  税制に国民の声がなぜ反映しないか

2007-09-20 18:53:53 | 政治経済
「税制抜本改革は国の将来を方向付ける最も重要な改革の一つである」。経団連が発表した提言は税制「改革」をこう位置付けている。国のあり方にかかわるという意味では、支配階級にとっても国民にとっても同じである。問題はどの階級の利害に合致した税制改革である財界が考える国の将来というのは、大もうけを続ける大企業の持続的な繁栄を保証する企業減税であり、それだけでは国家財政が破綻するから、もっとも徴税が簡単な消費税の増税の「提言」である。庶民からの収奪によって、自己の繁栄を築こうとする剥き出しの階級的要求である。
企業減税の要求は、例えば次のような租税法の専門的言葉で語られる。制度をある程度理解していないと、一般の人々には具体的なイメージがわかない。
「欧州をはじめ、諸外国では、企業を経済成長のエンジンとして位置付けつつ、所得課税から消費課税へという大胆な税制改革議論が進んでいる。・・・英独仏並みの30%を目途に法人実効税率を引き下げるべきである
「過去の法人税制改革における課税ベースの拡大や、国際的な潮流の変化等によって、わが国の法人所得計算上、さまざまなゆがみが生じており、税制抜本改革においては、企業の経営実態に即した所得計算のあり方について、全般にわたるたな卸し作業を進めるべきである。例えば、各種引当金に関しては、過去の課税ベース拡大により、わが国では貸倒引当金など、ごく限定された引当金しか容認されていない。しかし、将来の損失へ計画的な引当てを行っていくことは、企業経営の健全性維持のみならず安定した税収確保の観点からも有効と考えられる
「わが国が、今後とも持続的な発展を遂げていく鍵は連続的なイノベーションの創出にある。平成20年度改正においては、企業の研究開発投資を促進するよう、研究開発促進税制における控除限度額(現行:法人税額の20%)および控除率の拡充限度超過額の繰越期間の延長を図るべきである。平成20年3月に期限を迎える試験研究費の増加額に対する上乗せ措置は、研究開発投資を一層増大させるインセンティブとなっており、適用期限を延長すべきである。また、ITの活用による企業の生産性向上が急務であり、情報基盤強化税制の維持、拡充、さらには人材投資促進税制の改善も重要である」

自民党の長期政権時代以来、政府・与党の中に2つの税制調査会が並存し補完しあいながら、それぞれの役割を果たしてきた。1つは内閣総理大臣の諮問機関としての政府税制調査会、もう1つは自民党の税制調査会である。両「税調」の関係は、まず政府税調が大枠の方針を決め、最も大切な税率などの数字は、自民党税調が決定していた。自民党が利害誘導型政治で都市中間層や農村の声をある程度聞いていた時代には、与党税調に国民の声を反映させることができた。政府税調の事務局である財務省(地方税については総務省)が自民党の意向を調整し、両税調にそれぞれの役割を果たさせていた。しかし、小泉「構造改革」によって財界の声がすべてを支配する「官邸主導」が一気に進んだ。
政府税調の委員には法人代表だけではなく、いわゆる学識経験者やごく少数の国民代表の特別委員も入っているが、基本的に財務省や総務省の専門スタッフをリードして国民主権の税制を構想できるような力量をもった委員は一人もいない。その時代の支配的イデオロギーが支配階級のものであるといわれるように、その時代の税制は支配階級に雇われた専門スタッフと財務省や総務省の専門スタッフ(官僚)の合作によって作られる。年度末が近づく2月ごろ、次年度の税制改正大綱が国家に上程されたときには、勝負あったであり、できることは賛成か反対かだけである。
われわれの拠り所は、先の参議院選挙の結果によって、与党の自民・公明両党だけでは財界が求める税制「改革」が進まない事態になっていることである。野党が団結して「反対」といえば、会期末の成立が不可能となる。国民主権にたった「国民の側からの体系的な税制改正提言」が必要である。企業の利害に左右されない良心的専門スタッフの結集とその集団作業が俟たれる。

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