プロメテウスの政治経済コラム

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全国学力テスト 結果公表  100億円近いかねをかけて何を狙っているのか

2007-10-25 17:48:57 | 政治経済
「これほど大がかりなテストをした成果が、この程度のことなのか。」「朝日」社説(10月25日付)は、(全国学力テストは)「これならもう要らない」という。調査結果では、「・基礎的な知識に比べて、活用する力が低い。 ・全体として都道府県別の差は少ないが、沖縄など一部に低いところがある。 ・就学援助を受けている子どもの多い学校の成績が低い傾向がある。」同時に実施した生活習慣調査を重ね合わせると、こんな傾向もみられた。「・読書好きの子は、点数がよい。 ・家で宿題をする方が点数が高い。」現場の教師なら、なにも全国一斉テストをしなくてもわかっていたことであり、一部の子どもを対象とした抽出調査で十分である(「朝日」10月25日)。

文科省が43年ぶりに全員参加型の調査を復活させた狙いはなにか。今回の学力テストと1960年代に行われた学力テストには決定的な違いがある。1960年代の全国一斉学力テストの最大の狙いは、学校間競争をおこなって、学校の中で「ぐるみ」の受験競争体制をつくることであった。高度経済成長に対応した、一定水準をもった大量の正規労働者を育成するための大衆教育の必要からであった。しかし今回の学力テストは、学校間においても学校内においても、格差と選別=振り分けのためのテストであった同じ「全国一斉学力テスト」と言っても、階層間格差をつけるための競争とぐるみの競争では、その目的がずいぶん異なる。今回は文科省は、自制したようだが、結果の発表による学校の格付け評価は必然の流れである。新自由主義的教育改革の方向性は、「平等主義的」学校を差別的に再編し、エリート校への重点的な予算配分と「落ちこぼれ」校への大胆な予算の削減である。こうした格差教育により、日本が国際競争力において欧米に伍していくための先端科学技術やエリート育成に効率的に投資する狙いである。中国やアジアの安い労働力が使えるもとでは、もはや大衆教育は必要ない(渡辺治「反構造改革のうねりと『教育再生』―安倍内閣がもくろむ家族・教育改革の矛盾」『クレスコ』2007年10月号)。

 経済グローバル化による産業の空洞化、企業のリストラ、倒産に加え、小泉・安倍「構造改革」はこれまでの日本型雇用を壊し、非正規労働者を大量に生み出し、農産物輸入の自由化、三位一体改革、社会保障の構造改革などによって困難に陥った労働者や地場産業のセーフティネットを破壊した。こうして生じた日本社会の衰退や貧困の増大などの問題が集約的に現れているのが、若者、子ども、家族、そして教育の領域である。いつの時代も、社会問題が表面化して集中的にあらわれるのが子どもと教育、そして家族である。若者たちの非正規、ワーキングプア化は結婚できない若者の増大や少子化を加速し、失業や倒産を機にした家族の解体は、離婚や子殺し、児童虐待を増加させている。一方、貧困や家族の崩壊によって起こる子どもたちの困難が学校や子どもの「荒れ」のかたちであらわれている。こうした学校の荒れは、階層を越えた教育への関心や不安を生み出している。家庭教育やしつけの強調、規律・規範教育が受けいれられる背景ともなっている(渡辺治 同上)。

今後も構造改革を推進せざるをえない支配階級にとって、社会の分裂・破綻は頭の痛いところである。文科省の報告書は、朝食や家族とのコミュニケーションなど家庭生活の面が正答率に相関関係があるという結果を強調している。例えば「朝食を毎日食べる子は点数がよい」という具合である。しかしサービス残業や過労死を生むような働き方を強制し、リストラを進める企業を応援して、地域や家族の紐帯を破壊をしてきたのが、小泉・安倍「構造改革」である。文科省の報告書は、子どもの荒れを家庭教育のしめなおしや道徳教育の強化で解決しょうとする方向に誘導する恐れが強い。しかし、いくら教育現場の中でしつけや道徳を叩き込もうとしても、構造改革そのものが原因である家族問題は解決しない。「規範意識」の名のもとに、子どもたちに対する管理を強めることは、教育現場に一層の困難をもたらすだろう。今回の費用は準備段階も含めると100億円近くにのぼった。
来年度の準備も始まっているというが、もうやめた方がいい。同じ予算なら、教員を増やすことなどに有効に使うべきだ(「朝日」同上)。

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