プロメテウスの政治経済コラム

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薬害肝炎  明らかな薬害隠し 相も変らぬ企業に対するパターナリズム

2007-10-26 18:23:47 | 政治経済
薬害C型肝炎訴訟のなかで、名古屋地裁判決が画期的とされている。先の三つの地裁判決(大阪、福岡、東京)が国と製薬会社の責任が生じた時期を1980年代になってからだとしたのにたいし、製造承認された76年までさかのぼって投与された製剤の種類や時期を問わず国・企業の法的責任を認めたことである。また大阪、福岡の両地裁が請求を棄却した「クリスマシン」「PPSB―ニチヤク」についても国と製薬会社にたいして「安易に投与されないよう説明する義務」「感染の危険性など明確に表示する義務」を怠ったと賠償を命じた(「しんぶん赤旗」9月25日)。
最近問題になっているのは、製薬会社が汚染血液製剤による肝炎被害症例を厚生労働省に報告した資料を同省が隠し、被害者に告知していなかったことである。厚生労働省は22日、C型肝炎訴訟の原告・弁護団の求めに応じる形で、被害者を特定できる薬害肝炎リストを保有していたことを公表した。訴訟の原告らは、「明らかな薬害隠し。告知されなかったため適切な治療ができず、亡くなった人さえいる。国はきちんと調査・告知して患者に謝罪すべきだ」と強い怒りの声をあげている。今回、厚生労働省が公表した薬害C型肝炎の資料は、同省が汚染血液製剤による薬害発生という個人情報を早くから把握しながら、患者に告知せず、救済できたかもしれない患者を事実上、放置してきたことを裏付けるものであり、同省の責任は重大である(「しんぶん赤旗」10月23日)。

日本共産党の小池晃参院議員の調査によると、肝炎ウイルスに汚染された血液製剤「フィブリノゲン」を投与されてC型肝炎に感染させられた問題で、1987年4月、当時の厚生省の安全課長、監視指導課長、生物製剤課長らと加害企業の旧ミドリ十字(現田辺三菱製薬)の間で、被害実態を積極的に公表しないことを合意していた。―「会社からは積極的に話さないこと」「報道関係者、医療機関従事者、患者などは、とくに注意をはらってほしい」―。小池議員は「20年前から国と製薬企業は、二人三脚で薬害の発生を国民の目から隠ぺいすることで話し合っていたわけで重大だ。25日の私の質問で、厚生労働省は、リストの原本になった資料を廃棄処分していたことが新たに分かった。薬害被害隠しの癒着の根っこは深く、ひきつづき追及していく」と話している(「しんぶん赤旗」10月26日)。

国家と企業の間の温情主義(パターナリズム)的関係を分析したのは、20世紀型(ソビエト型)社会主義システムの行き詰まりを早くから指摘していたハンガリーの経済学者・コルナイ・ヤーノシュであった(例えば盛田常夫編訳『「不足」の経済学』岩波現代選書1984)。コルナイ・ヤーノシュによれば、国は企業をわが子のように扱う。そして、国家とミクロ組織(企業・公共体・家計)との関係においてどの程度の温情主義がみられるかは、すべてのシステムの特性を示す重要な特徴である。日本は社会主義経済ではないから、(ソビエト型)社会主義より、温情主義の度合いが低いことはたしかである。しかし、日本型開発主義システムのもとで、監督官庁は、自分の担当企業・業界をわが子のようにかわいがってきた資本主義システムだから、企業の自立=独立採算が当然であるが、企業の資本蓄積がうまく進むよう、財政システムから情報提供・管理まで、至れり尽くせりの援助をする。その意味で日本の官僚は決して「全体の奉仕者」ではない。

汚染された血液製剤フィブリノゲンの製造元、旧ミドリ十字は毎年、数百万円から一千万円を超える政治献金を自民党の政治資金団体にしていた。さらに、厚生省(当時)の薬務局長だった松下廉蔵氏が78年に同社の副社長に就任するなど、官僚の天下り先にもなっていた。この構図は、薬害エイズ事件でも同じだ。このときも重大な資料が「厚生省の書庫」から出てきたとされている。この構図に、例えば民主的な労働組合がメスを入れられるような仕組みができない限り、薬害が繰り返され、被害者の救済はトコトン追及されるまでなおざりにされるであろう。

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