プロメテウスの政治経済コラム

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自民「造反組」復党問題  その邪まな思惑 本質は構造改革急進派と漸進派の対立

2006-11-24 20:41:22 | 政治経済
もともと自民党には(民主党もそうだが)、どういう日本をめざすのかという展望や日常の党活動の実際の指針となるようなきちっとした党の「綱領」はない。対米従属と大企業中心政治という大枠のなかで、総理総裁がその時々の支配階級の要求を実現するやり方で進めるだけであるから具体的ビジョンも活動指針も必要ないということであう。したがって造反・規律違反といっても対米従属と大企業中心政治のやり方が少し違うという程度の話である。

今問題となっている「造反組」は構造改革急進派と漸進派の対立のなかで生じた。日本型開発主義国家が新自由主義国家に変貌を遂げる過程で主導的支配階級であるトヨタやキャノンのような多国籍大企業の要求を実現する速度が速いか遅いかの違いである。 小泉首相は、昨年の9・11総選挙を郵政民営化選挙と位置づけ、日米金融資本の要求にこたえるとともに、選挙に二つの狙いを込めた。一つは、小泉政権下で追求してきた構造改革の急進政策全体の加速化であり、もう一つは、その裏返しとして、構造改革を遅らせてきた抵抗勢力の撃破である(渡辺治・一橋大学教授『構造改革政治の時代』序章)。
長年の自民党利益誘導型政治のもとで育った党政務調査会、総務会などの既存の自民党意思決定機構は、小泉構造改革で従来の支持基盤である地方や都市中小零細企業、商店や自営業者などが切り捨てられるたびに何かと抵抗した。小泉は、郵政民営化反対派をあぶりだし、その全ての選挙区に対立候補(刺客)を立てることで、これら抵抗勢力の駆逐を試みるとともに、候補の決定を県連や派閥が反対派に回ったのをチャンスととらえ、既存システムを無視して中央集権化を図った。こうして、東京10区の小池百合子、静岡7区の片山さつき、岐阜1区の佐藤ゆかりなどは、全く地元に支持基盤を持たなかったが、中央の公認、資金とマスコミの宣伝によって大量の票を獲得した。小選挙区制下での党公認と資金力という小泉の勢いは、場合によっては、自民党が長年にわたって築いてきた伝統的支持基盤を上回ることを証明したのだ。

自民党の構造改革党への純化、構造改革急進派のヘゲモニーは財界主流の望むところであり、安倍政権になっても変わることはない。しかし、来年の参院選挙を考えた場合、衆院小選挙区での小泉の勢いの再現には一抹の不安がある。自民党の青木参院議員会長は、与党が過半数割れすれば「法案が通らず、安倍内閣も自民党も完全に死に体だ。衆院を解散して民意を問えということになる」と危機感を煽っている。
当面の復党対象者は、12人の現職無所属議員。「刺客」を送りこまれても勝ちぬいた、これらの議員は後援会組織などの伝統的支持基盤の強さが証明されたようなもので、自民党にとっては、参院選勝利へどうしても支援=票が欲しいというわけである。票に加えて、12人の所属議員の増加には別の邪まな狙いもある。年内に復党させれば12人分の政党助成金として二億数千万円を自民党が手にすることができるということだ。

郵政民営化反対議員は公認せず、「刺客」までたてて、民営化反対議員つぶしを“演出”しておいて、一年余りで手のひらを返すように復党させる―自民党の無節操ぶりには、「いくら党内事情とはいえ、国民をこれほどバカにしたご都合主義にはあきれ果ててしまう」(「朝日」16日付「声」欄)など、国民の批判があるのは当然である。JNNの世論調査(11、12日実施)でも復党賛成31%に対し、反対が55%と大きく上回っている(「しんぶん赤旗」2006年11月24日)。

12人のうち平沼赳夫元経済産業相は節を曲げないといっているが、他の11人はどうなるか。政党助成金への邪まな思惑から、年末近くには政治家の離合集散がつきものである。
いずれにしても私たちは自民党の構造改革党への純化、構造改革急進派のヘゲモニーというその階級的性格を忘れないことである。「造反組」がどうなろうと、自民党は、いまや私たち庶民の利益よりも多国籍大企業の利益を最優先にする政党に純化したことに変わりはない。

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