プロメテウスの政治経済コラム

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航海長聴取を正当化する石破発言と産經記事  「改憲」派・産經の言説に惑わされてはならない

2008-03-03 19:06:50 | 政治経済

防衛省が、海上保安庁の捜査前に「あたごの」当直士官だった航海長をヘリコプターで省内に呼び、事故に関する聴取を行っていたことについて、石破防衛相は「やるべきことをやっただけ」「正しいことだった」と開き直っている。産經新聞は「航海長聴取 問題か」(2008.2.28 09:52)を書き、問題にすることこそ問題だと主張している自衛隊が憲法上「普通の軍隊」でないことにいちゃもんをつけ、憲法改悪を先取りする議論である。自衛隊が 「そこのけそこのけ」 路線を、法制度にまで進めていくことを許すわけにはいかない(丸山重威・関東学院大学教授「法の支配にも『そこのけそこのけ』 『軍法』『軍事裁判』の先取りを許すな」NPJ通信2008.2.28)。

救出が最優先されているときに、防衛省がヘリでイージス艦の航海長を省内に呼び出したことの問題点を、日本共産党の穀田恵二国対委員長がNHK「日曜討論」(3月2日)でわかりやすい例えで告発している「自動車事故があったときに警察が事情聴取する前に会社が運転手を呼び出すなどありえないことだ。“国民を守る”のでなく、みずからを守ろうとしている」と厳しく批判した。
海上保安庁がすぐに自衛艦の捜索に入ることを不思議に思う人もいるかもしれない。しかし、犯罪や重過失の事故があったとき、自衛隊が海保や警察の捜査を受けるのは、「専守防衛」 の組織である以上、当然なのだ。かろうじて保たれている 「法の支配」 のもとでの自衛隊が「そこのけそこのけ」の行動を取ることが許されてはならない(丸山 同上)。

産経は、航海長聴取のどこが問題か と、挑発している。記事では、「防衛省が、海上保安庁の捜査前にあたごの当直士官だった航海長をヘリコプターで省内に呼び、事故に関する聴取を行っていたことを一部のメディアや政治家が問題視している。だが、組織、とりわけ軍事組織が、早い段階で状況把握することは鉄則である」。これが問題になったことについて、「『航海長への聴取が問題となることは、日本が 『普通の国』 でないことに起因する。実はこちらの方が格段に深刻だ」 と述べ、「軍隊における捜査・裁判権の独立は国際的な常識」 「司法警察が事実上の国軍を取り調べる、国際的にはほぼ考えられない構図を、国民も政治家も奇異に思っていない」と批判。そして「憲法に軍事法廷など『特別裁判所』の設置禁止条項がある限り、防衛省・自衛隊は将来にわたり、こうした批判を受け続けることになる」がそれでいいのかと挑発している(「産經」 同上)。

自民党の「新憲法草案」 は、第9条の改悪とともに、第76条3項で、「軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する」 とし、「自衛軍」 に関わる問題を 「軍事裁判所」 で扱うことを提起している。「自衛軍」 が名実ともに 「軍隊」 であるためには、昔と同じように、軍隊内については 「シャバ」 とは違って、一般の法律の手が届かない場所でなければならない。そのためには、「軍法」 が作られ 「軍事裁判」 が行われるようにしなければならない。改憲草案第9条の2で自衛軍の規定を創設したこととその意味では、論理的に符合している。
産経の記事では、医療事故でも病院が事情を聞くし、新聞記者が交通事故を起こせば社の幹部が事情を聞く、などと、組織の対応の問題にすり替えているが、今回の航海長の防衛省呼び戻しは、既に組織内の問題ではなく、警察権が行使され、捜査が開始されている中での話なのだ(丸山 同上)。

石破防衛相が「やるべきことをやっただけ」「正しいことだった」というのも自衛隊に第一次警察権を与えよという主張に繋がるものだ。防衛省・自衛隊の軍事優先体質、隠蔽体質は根深い。イージス艦は、漁船発見後も回避行動をとらず直進した。艦長は「あの海域で漁船が多い状況だったことを理解していなかった」と平然と言っている。「隠蔽体質」の問題では、防衛省は当初、漁船を発見したのは衝突の「2分前」と発表。その後、「12分前」と変え、その情報も丸一日公表しなかった。また、海上保安庁にも断らずに、航海長の事情聴取を行い、その事実も伏せ、事情聴取の内容も「覚えていない」(増田好平防衛事務次官)という始末である。このような自衛隊が一般の法規制から解き放たれたらどんなことになるか。「改憲」派・産經の言説に惑わされてはならない。


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