プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

暴走殺傷  マツダの非正規労働者管理の手口と労働組合運動のない日本社会の悲劇

2010-06-23 22:03:47 | 政治経済
またしても、絶望した非正規労働者による悪夢のような悲劇的事件が繰り返された。事件はきのうの朝、広島県のマツダの工場で起きた。四十二歳の元期間従業員の男が乗用車を暴走させ、歩いていた社員ら11人を次々とはねた。真相解明はこれからだが、引寺(ひきじ)利明容疑者は「クビになり、恨みがあった」と動機を口にしているようだ。2年前、東京・秋葉原で元派遣社員が7人を死なせた事件の衝撃は、いまなお生々しい。やはり、6月のことだった。
日本には形だけは労働組合があるが、大企業正社員によって組織される企業別組合が主流で、本来の労働組合はほとんどないに等しい。労働組合運動のない日本社会では、支配階級の攻撃に対する反撃が個別的・局地的になりがちである。仲間と連帯して闘うすべを知らない絶望した労働者を社会変革の隊列に迎えることができない限り、今後も暴発を完全に防ぐことは不可能だろう

 広島市などのマツダ本社工場に乗用車が侵入して11人をはね、1人が死亡、10人が重軽傷を負った。殺人未遂容疑などで逮捕された同社元期間社員、引寺容疑者は、広島県警捜査本部の調べに対し、「秋葉原のような事件を起こそうと思った」と供述しているという。また、引寺容疑者は、長年にわたり派遣など非正規雇用で職場を転々とし、2年前には自己破産するなど不安定な生活が続いていたことも新たに判明。捜査本部は、無差別殺人に至った動機・経緯について、引寺容疑者のこうした生活実態にも注目しながら解明を進めているという(「毎日」 2010年6月23日 15時03分)。

 非正規労働者を違法な手口で低賃金で使い続け、あげくの果てに使い捨てる――派遣切りが全国的に問題となった2008年12月、参院決算委員会で日本共産党の仁比聡平議員が1400人の派遣社員の雇い止めを決めたマツダの“派遣切り”を告発した。仁比氏は、マツダの派遣労働者の雇用実態を、同社の労働者の証言と「派遣就労ガイドブック」をもとに具体的に告発。
「驚くべきは、まず『ランク制度』なる労務管理の実態だ」。こう述べた仁比氏は、本来なら派遣会社が決めるべき派遣労働者の労働条件を、派遣先のマツダが実質的に決めている実態を資料で指摘。派遣社員はマツダ社員の評価にもとづいて勤務をC、B、A、Sなど四段階にランク付けされ、これに応じて、時給や派遣契約期間、正社員登用まで決まる仕組みが作られていた。労働条件の根幹を派遣先の企業が自分で雇用もしないで自社社員のように決めているのだ。さらに、仁比氏は、派遣労働の受け入れ期間を最長3年と定めている労働者派遣法の規定を逃れるため、マツダが派遣社員の「雇用形態換え」を恒常的に行っている実態を告発した。同社は、3カ月を超えて派遣を受け入れない期間(クーリング期間)があれば、継続した派遣とみなさないという厚労省指針を悪用し、派遣社員を順次3カ月と1日だけ直接雇用の期間社員(サポート社員)身分を挟み込むことで、派遣労働者として恒常的に使う手口をとっていたのだ(「しんぶん赤旗」2008年12月16日)。

 マツダの工場では2008年秋に、期間従業員など2200人の非正規社員が働いていたが、リーマン・ショック後の業績悪化で90人に激減。最近の持ち直しで、再び200人以上に増やした。派遣社員や期間社員が、生産の“調整弁”のように使われる。身分が不安定なうえに、賃金や福利厚生など、正社員との格差が当然となっている(「東京」2010年6月23日)。
同じ職場で働く仲間がこのような運命にあるのに、正社員の企業別組合は、見て見ぬ振りである
派遣労働者や期間工が待遇改善を求めて立ち上がるためには、彼ら自身の労働組合が必要である。個人加盟の職種別ユニオン、企業横断的地域ユニオンは、まだ端緒についたばかりであり、影響力は小さい

 日本の労働組合が企業別労働組合として、企業主義に取り込まれたのには、歴史的経過がある。
日本でも戦後、職種別賃金と企業横断的ユニオンというユニオニズムにとっては当たり前の道が開かれる機会がなかったわけではない。しかし、アメリカ直接占領のもとで、2・1ゼネストの中止命令、公務員のスト権剥奪、三鷹・松川事件などのフレームアップ、吹き荒れるレッドパージなどによって、階級的労働組合の芽が徹底的に摘み取られてしまった。

 日本的企業社会のもとで、労働者は自己の保身のためには、企業に忠誠を誓い、企業の繁栄を願うことを強制された。彼らにとって、非正規労働者は経営者と同じく、国際競争力の確保のためになくてはならない存在である。支配階級が好き勝手をやっても、連帯の手を差し伸べない
日本の資本主義は、アメリカと日本の財界という二重の支配を受け、労働者・国民に対する搾取と収奪は格別に強い。にもかかわらず、企業に取り込まれた労働組合は分断されたまま、立ち上がろうとしない。このような労働組合だから、消費税増税が法人税減税の財源とされるいう、とんでもない案が支配階級から平気でだされるのである。

こうして、日本社会では、仲間と連帯して闘うすべを知らない絶望した労働者が局地的に暴発する可能性を常に秘めているのだ

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (派遣社員)
2010-08-04 20:06:28
いつも参考にしております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。