朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の朝鮮労働党代表者会などが２８日、平壌で開かれ、金正日（キム・ジョンイル）総書記の三男正恩（ジョンウン）氏が、党中央委員と党中央軍事委員会の副委員長に選出された。金総書記は党中央軍事委員長に再選された。北朝鮮の体制転換を期待する日米のマスコミは、「権力の三代世襲」と喧しい。北朝鮮は、北東アジアの安全保障との関わりで常に注目されているが、２０世紀社会主義の体制転換という観点からも非常に興味深い。旧ソ連・東欧諸国における体制転換から20年経たったが、この過程を再検証しようとする科学的な取り組みは極めて少ない。経済学者でハンガリー在住の盛田常夫さんの『ポスト社会主義の政治経済学』（日本評論社2010）は、その意欲的な試みの第一に指を屈するべきものである（佐藤経明・横浜市立大学名誉教授）。本書を読めば、北朝鮮が２０世紀社会主義を考える格好の教材であることがよく理解できる。
北朝鮮の金正日総書記の三男・正恩氏（２７）が９月２８日、平壌で開かれた第３回労働党代表者会で党中央軍事委員会副委員長と党中央委員会委員に任命され、名実ともに北朝鮮の「ナンバー２」に浮上した。党中央軍事委は、国家最高権力機関である党が軍部を統制する機関であり、金総書記が委員長を兼職している。特に、北朝鮮政権が党中央軍事委副委員長の地位を新たに設け、正恩氏に就かせたことは、党を通じて軍を掌握する後継体制の確立の手順とみえる。２７日、人民軍次帥に昇進した李英浩（イ・ヨンホ）総参謀長も、正恩氏とともに同日、党中央軍事委副委員長に選任され、「金正恩時代」の軍最高実力者として登場した。中央軍事委委員は６人中３人が留任となり、１６人が補充され１９人に増えた（東亜日報SEPTEMBER 30, 2010 ）。
【金ジョンウン氏の名前の表記については、これまで韓国の情報から、ハングル表記が漢字の「雲」でないことは確認していたが、「恩」「隠」「銀」など明確でなかった。このたび朝鮮中央通信はやっと、朝鮮通信（東京）を通じて「金正恩（キム・ジョンウン）」であることを明らかにしたという（毎日新聞 10月1日）。】
北朝鮮の憲法第1条には、「朝鮮民主主義人民共和国は人民の利益を代表する社会主義国家」と規定され、第4条には「共和国の主権は労働者、農民、軍人、勤労インテリをはじめとする勤労人民にある」と明記されている。但し序文には、「永世不滅の主体（チュチェ）思想」を創始したとされる金日成主席を、「朝鮮の創建者であり朝鮮の始祖」とし、「朝鮮人民は首領・金日成を共和国における永遠の主席として奉り、金日成の思想と業績を擁護・固守しなければならない」と明記されている（朝鮮日報日本語版2010年9月29日）。平壌を訪問した私も、この憲法の規定が徹底しており、現在の金正日総書記も金日成の思想と業績を擁護・固守する限りにおいて、首領と認められるのだなというのが実感である。もし、金正恩（キム・ジョンウン）氏が３代目を世襲しても、金日成主席の思想の継続性が問われるだろう。
チュチェ思想によれば、人間とは自主性、創造性、意識性を持った社会的存在であるが、人間の自主性、創造性、意識性が高まり、それらが社会に影響する割合が高まる方向に社会は発展する。従って、革命と建設の主人公である人民大衆は偉大な指導者＝首領の指導を受けなければならない。首領は頭であり、党は胴体であり、人民大衆は手足である。胴体と手足は頭が考えたとおりに動かねばならない。首領の権威は絶対的であり、全ての人民大衆は首領に従わねばならない。
北朝鮮の人々は、金日成主席は日本帝国主義に抗し（反日パルチザン）、朝鮮民族独立と植民地解放を成し遂げただけではなく、朝鮮戦争で祖国の社会主義を守り抜いた偉大な指導者だと思っている。
北朝鮮に限らず、２０世紀の社会主義は生まれながらにして、戦時社会主義であった。マルクスは未来社会の輪郭と資本主義の歴史的性格を明らかにしたが、実際のメカニズムと体制については何も教えていない。２０世紀の社会主義の実現にあたって、近代戦争における国家総動員体制と軍事的規律が体制構築に大きなヒントを与えたとしても、何ら不思議でない。レーニンの国家独占資本主義論が容易に戦時共産主義論に結びつく歴史的環境があったのだ。＜続く＞
北朝鮮の金正日総書記の三男・正恩氏（２７）が９月２８日、平壌で開かれた第３回労働党代表者会で党中央軍事委員会副委員長と党中央委員会委員に任命され、名実ともに北朝鮮の「ナンバー２」に浮上した。党中央軍事委は、国家最高権力機関である党が軍部を統制する機関であり、金総書記が委員長を兼職している。特に、北朝鮮政権が党中央軍事委副委員長の地位を新たに設け、正恩氏に就かせたことは、党を通じて軍を掌握する後継体制の確立の手順とみえる。２７日、人民軍次帥に昇進した李英浩（イ・ヨンホ）総参謀長も、正恩氏とともに同日、党中央軍事委副委員長に選任され、「金正恩時代」の軍最高実力者として登場した。中央軍事委委員は６人中３人が留任となり、１６人が補充され１９人に増えた（東亜日報SEPTEMBER 30, 2010 ）。
【金ジョンウン氏の名前の表記については、これまで韓国の情報から、ハングル表記が漢字の「雲」でないことは確認していたが、「恩」「隠」「銀」など明確でなかった。このたび朝鮮中央通信はやっと、朝鮮通信（東京）を通じて「金正恩（キム・ジョンウン）」であることを明らかにしたという（毎日新聞 10月1日）。】
北朝鮮の憲法第1条には、「朝鮮民主主義人民共和国は人民の利益を代表する社会主義国家」と規定され、第4条には「共和国の主権は労働者、農民、軍人、勤労インテリをはじめとする勤労人民にある」と明記されている。但し序文には、「永世不滅の主体（チュチェ）思想」を創始したとされる金日成主席を、「朝鮮の創建者であり朝鮮の始祖」とし、「朝鮮人民は首領・金日成を共和国における永遠の主席として奉り、金日成の思想と業績を擁護・固守しなければならない」と明記されている（朝鮮日報日本語版2010年9月29日）。平壌を訪問した私も、この憲法の規定が徹底しており、現在の金正日総書記も金日成の思想と業績を擁護・固守する限りにおいて、首領と認められるのだなというのが実感である。もし、金正恩（キム・ジョンウン）氏が３代目を世襲しても、金日成主席の思想の継続性が問われるだろう。
チュチェ思想によれば、人間とは自主性、創造性、意識性を持った社会的存在であるが、人間の自主性、創造性、意識性が高まり、それらが社会に影響する割合が高まる方向に社会は発展する。従って、革命と建設の主人公である人民大衆は偉大な指導者＝首領の指導を受けなければならない。首領は頭であり、党は胴体であり、人民大衆は手足である。胴体と手足は頭が考えたとおりに動かねばならない。首領の権威は絶対的であり、全ての人民大衆は首領に従わねばならない。
北朝鮮の人々は、金日成主席は日本帝国主義に抗し（反日パルチザン）、朝鮮民族独立と植民地解放を成し遂げただけではなく、朝鮮戦争で祖国の社会主義を守り抜いた偉大な指導者だと思っている。
北朝鮮に限らず、２０世紀の社会主義は生まれながらにして、戦時社会主義であった。マルクスは未来社会の輪郭と資本主義の歴史的性格を明らかにしたが、実際のメカニズムと体制については何も教えていない。２０世紀の社会主義の実現にあたって、近代戦争における国家総動員体制と軍事的規律が体制構築に大きなヒントを与えたとしても、何ら不思議でない。レーニンの国家独占資本主義論が容易に戦時共産主義論に結びつく歴史的環境があったのだ。＜続く＞
