プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

朝鮮労働党代表者会   北朝鮮は20世紀社会主義を考える格好の教材(その2)

2010-10-03 21:35:02 | 政治経済
2つの世界大戦を契機に、20世紀初頭のヨーロッパの外縁で始まった社会主義の実験は、20世紀の半ばに中欧から東欧全体に広がった。アジアでは1945年ホーチミン主席がベトナム民主共和国の樹立を宣言、48年には金日成主席が朝鮮民主主義人民共和国の成立を宣言、49年には毛沢東主席が中華人民共和国の成立を宣言した。1959年バチスタ政権を打倒したカストロらのキューバ革命軍は、おりからの冷戦による米ソ対立の影響を受け、アメリカに支援された反革命軍を撃退した1961年に社会主義宣言を行った。
19世紀の社会主義理念は20世紀を通して、社会を動かした。貧困からの脱却、ジェンダー、富の不平等の廃止、階級の廃止、戦争を含むすべての非人間的行動の止揚―レーニンの“平和とパン”、反帝国主義戦争、民族独立と植民地解放の社会主義の理念と運動は世界を動かした。多くの政治経済的に未熟な諸国の近代化は、社会主義の運動なしには達成されなかった。しかし、その社会主義もまた、20世紀の人類の残酷さ、未熟さから逃れることはできなかったのだ。

20世紀に存在した社会主義社会とはいったい何だったのか。ソ連、東欧は一応体制転換を遂げたが、中国、ベトナムは未だその途上にあり、キューバはいろいろ改革を試みているが本質的には変っていない。そして、20世紀社会主義の戯画的状況を映し出しているのが北朝鮮である。20世紀社会主義の本質的な限界を教えてくれるという意味で、北朝鮮は20世紀社会主義を考える格好の教材なのだ。

20世紀社会主義は生まれながらにして戦時社会主義体制であった。社会主義は戦時体制―国家的動員体制と軍事的規律をその特徴とする―として始まった。第一に、国有化による「国家独占」体制の確立である。そこに存在する経済管理手法は、戦争経済から学んだ「軍事的物資動員・配給制度」である。10人以上の労働者を雇用する私企業は国有化され、国家計画委員会が経済の管制高地として、生産計画と生産指令を発する体制が構築された。国家機関による市場の支配と企業経営の直接管理は、戦時社会主義に特有なものである。
垂直的な指令・管理体制が商品貨幣関係にとって代わられるとどうなるか。社会の仕組みを知り尽くしたと自負する前衛党と卓越した指導者がおっても、消費者(中間財を消費する企業も含む)の欲求に対する指令・管理体制の硬直性は、やがてあちこちでの「不足」問題をひきおこした。ソ連が開発した物財バランス法は、まさに紙と鉛筆で方眼紙に物財の需給を調整する原始的手法である。これでは、配分すべき物財が増えてくるとお手上げである。高性能のコンピューターが発達した現在でも、人類は国民経済を計画化する理論も技術もわがものとしていない。

国家機関と企業の双方が財の供給と需要を計画的に調整できず、不足現象が普遍的になると、垂直的で権威主義的な経済管理体制に、独特な利権構造が生まれる。財を配分できることそれ自体が大きな力であるが、容易に入手できないものを獲得できることはさらに大きな特権であり、権力である。企業や消費者からよせられる直接間接の不満や陳情の波のなかで政府高官、企業幹部の癒着の構造が生まれ、配分を仲介する党幹部は、特権配分の元締めになる。時と場合によっては、この垂直的な関係のなかに個人的あるいは血縁的なコネクションが広げられる。政治経済の一元的支配の究極の到達点が容易に個人独裁と結びつき、家族支配システムを生む。個人崇拝や血縁的独裁は、社会主義の理念とは無縁だといくら主張しても、物財の配分という戦時的な配分システムの内実は、「労働者独裁」の建前のもとで、「政治による経済活動の恣意的管理」であり、個人崇拝や血縁的独裁は、「戦時社会主義」システムから容易に生まれる一派生形態となる。

さまざまな改革試行は存在したが、20世紀社会主義の経済システムは、その崩壊にいたるまで軍事的配給制度を超えることができなかった(中国、ベトナムはそのシステムの限界に気付いたが共産党独裁を続けている)。配分をベースとする社会は、自律的発展の契機を有しない。個人が創意工夫を凝らして生産やサービスに励む必要のない社会のもとで、国民経済総体としての活力、社会的分業・創造力の水準は退化の道を辿らざるを得なかった。「軍事的配分」という粗野な手法を超えられずに、国民の能力や活力を活かすことができず、逆にそれを抑圧するほかなかったために、社会総体が退歩の道を辿り、自己崩壊へと進んだのだった。これが20世紀社会主義の崩壊を理解する論理である(盛田常夫『ポスト社会主義の政治経済学』日本評論社2010)。<続く>

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。