プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

葛飾ビラ配布 不当判決 公安の暴走に追随する最高裁  許容する社会の危うさ

2009-12-01 21:25:00 | 政治経済
東京・葛飾でのビラ配布弾圧事件の上告審で、最高裁第2小法廷は11月30日、マンション各戸へのビラ配布を「犯罪」とした東京高裁判決を追認する判決を言い渡した。
「チラシ・パンフレット等広告の投函(とうかん)は固く禁じます」。こんな張り紙のあるマンションの共用部分に入り、政治的なビラを配ることが、これほど罰せられなければならないのだろうか。そうした行為が摘発され、起訴された裁判で、またも最高裁が有罪の結論を出した(「朝日」2009年12月1日)。

 近年の言論弾圧の流れは、2001年「9・11」後、アメリカが対テロ戦争を開始し、日本がこれに追従して、自衛隊の海外派兵が現実化する頃から始まった。丁度その頃から、新自由主義「構造改革」が本格化し、弱肉強食の争いの渦中で目先の私利、小利を追い求める自分本位の姿勢が目立つ社会風潮のなかで、社会病理的凶悪犯罪が頻発するようになった。そして、人びとの「不安感」に乗じて、「公安警察」が民事に介入し、いわゆる左翼の弾圧に乗り出したのだった
狭い私的空間の安全という目先の私利、小利に拘るあまり、多少の「迷惑」「不快感」すら許容できない社会は、支配階級の言論弾圧に打って付けである。公安警察は暴走し、検察、裁判所がそれに追随する。現代日本社会は完全に病んでいる。

 2003年3月にイラク戦争が開始されるが、その頃から個人に対する弾圧事件が相次ぐ。
2003年4月に大分・豊後高田市で共産党の大石市議が選挙告示まえに後援会ニュース等を配布したことが公選法違反に問われた。候補者の通常の政治活動を共産党市議ということで差別的に起訴した。そして、この4月から警視庁公安部は、社会保険庁職員の堀越さんの尾行を開始する。その後の5月に有事法制が成立し、7月にはイラク特措法が成立する。そして陸上自衛隊がイラク・サマーワに派兵された翌年(2004年)2月に立川で反戦ビラ入れをした3人が逮捕起訴された。その翌月の3月にかねての狙いを定めたように政党機関紙等をまいたということで、堀越さんが国家公務員法違反で逮捕起訴される。同じ3月には、都立板橋高校の卒業式前に、元教員の藤田さんが「君が代」に批判的な内容の記事を配って、起立しないことを呼びかけた行為に対して威力業務妨害罪で逮捕・起訴された。その年の6月には自民党は改憲案の論点整理をして、改憲に向けて着々と動いていた。この年の12月、僧侶の荒川庸生さんが共産党の「葛飾区議団だより」、区民アンケートなどをマンションのドアポストに配布して「住居侵入罪」で逮捕され、23日間も拘禁された。その翌年には世田谷で宇治橋さんが共産党の機関紙を配布したとして住居侵入罪で逮捕され、国家公務員であることが判明すると、検察は堀越さんと同じ公務員法で起訴した。

 こう見てくると、政府の自衛隊派兵、9条改憲の動きに、具体的弾圧は明らかに連動しているそして一連の「微罪」逮捕、拘留、起訴、有罪判決を通して見えてくることは、支配階級の意を体して些細なトラブルを「事件」にでっち上げ、強制捜査をおこない、違法な情報収集を繰り返す公安警察の暴走、この暴走に乗っかって自己の存在意義をアピールしようとする公安検察、捜査機関の求めるがままに逮捕令状、家宅捜索令状を出し、被疑者・被告人を長期拘留することに加担し、支配階級の政治目的のために判決する裁判所の姿である
裁判所は、とくに上級裁判所は、もはや「人権の最後の砦」ではなく、「治安の元締」と化している(裁判員制度は、そのような司法の退廃を国民参加で覆い隠そうとするものなのだ)。

 さらに見逃せないのは、競争に疲れ、不安に生きる私たちの側が公安警察の民事介入を容易に許してしまっているということである。ビラを配ったところで、警察に通報する住民がいるのだ。ビラ配りによって「迷惑」「不快感」を抱いたとしても、住民にいかなる「被害」が発生したというのか。私的空間の「秩序」をあまりにも絶対化した小市民的態度ではないだろうか
民主主義社会は、ある意味では「迷惑」や「不快感」を許容する社会である。社会には、習慣や価値観を異にする多くの人びとが住み、生活している。マンションのなかの住人もそうだろう。消費者金融やピンクチラシを大嫌いと思うかどうかはその人の判断である。共産党のビラの受け取りを拒否するか、一応目を通そうと思うかもその人の判断である。嫌なら受け取っても捨てればいい話である。私的空間の「秩序」が他人の政治活動・表現活動の自由を奪ったのでは民主社会は成り立たない。

 荒川さんが配布したマンションの管理組合は、住民の総意で政治活動用のビラ配布の禁止を決めた事実はないし、荒川さんの件で被害届も出ていない。そもそも、憲法の表現の自由で保障されているビラ配布を禁止することを管理組合が決定できる、という考え方が間違っているのだ。公安警察・検察の言論弾圧と、それを追認する司法にわれわれの側から乗せられるようなことはゆめゆめあってはならない。

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