徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

ブリキの湯たんぽ

2006-11-30 11:00:00 | ひとりごと
 並木の紅葉が一枚…また一枚…と散って…遊歩道の上に錦の模様を描いている。
風が吹くとかさこそと音を立て…いっそう寒さをつのらせる…。

 北の方ではもう雪が降っているんだね…。
雪の少ないこの地方では…まだ…晩秋の景色のまま…。
それでも…もう間もなく…霜が降りはじめるだろう…。

今は思い出だけになってしまったが…かつては毎年この季節になると火鉢に練炭を入れ…火を起こした。

 練炭とか炭とか言うと…若い人たちは焼肉屋か鰻屋…焼き鳥屋など調理用の燃料を思い浮かべるだろうね…。
それと…TVや映画などでたまに使われている七輪は…案外知っているかもね…。
魚を焼くシーンなんかによく使われているから…。

 炭は昭和の中期まではほとんどの家庭で使われている暖房用の燃料でもあったんだ…。
この頃にはまだ…電気やガスを調理や暖房に使えない地域もあった。
風呂や竃(かまど)は薪を焚いて使っていたんだよ…。
 ガスで焚くのはもっと後…電気に至ってはずうっと後の話…。
だから…だいたいどの家にも小さな煙突があった…。

 人の出入りのあるところでは薪ストーブが土間に設置されてあったりしてね…。
さすがに町中では囲炉裏は見なかったけれど…田舎の方では使われていた…。

 暖房器具も風呂や竃と同じで…だんだんとガスストーブ…石油ストーブ…と呼ばれるものが普及されてきた…。
電気ストーブに辿り着くまでにはしばらくかかったけどね…。

 いずれにしても…部屋全体を効率よく温めるってわけにはいかなかったなぁ… 
大学病院や大きい施設には当時でもセントラルヒーティングなるものがあったけれど…。

 冬の夜はしもやけができるほど冷えるので…腹巻をして…蒲団に入る。
毎晩…母親が夜間で何杯も湯を沸かし…ブリキの湯たんぽに熱湯を詰める。
布袋に入れて手ぬぐいを巻いて蒲団の足元に入れてくれる。

 これがほかほかと気持ち良い…。
朝までぐっすり眠れる…。

 最近は温度調節のできる電気毛布だの何だの機械的なものがいっぱいあるけれど…湯たんぽは…熱過ぎず…くど過ぎず…それに勝る心地よさだと思うよ。
機会があったらお試しあれ…。

 持ち運び便利な行火(あんか)…小型ケースに炭火を入れたものだけれど…を使う人も居たな…。
化学変化を応用するホカロンなんてない時代だから…炭は大活躍だったわけさ…。

 子供が生まれた時に…夜泣きはしなかったんだけれど…全然眠らないんだ…。
夜中でも真ん丸く目を開けている…。
おかしいなぁ…と思って親と同じ蒲団に入れたら…赤ん坊は寒さで眠れなかったらしく…親の添い寝で問題解決…。

 触ってみると今風のマットレス付きのベビー寝具は軽いけど温かくない。
綿の蒲団に変えたら全然温かさが違うんだ…。
洋風寝具の時は何か温める道具が必要だと分かった…。

 当時…手伝いに来てくれたシッターさんが問題解決に…と手に入れてきてくれたのは湯たんぽ…。
驚いたことにプラスチック製…。
最近はプラスチック製がほとんどで…ブリキはなかなか手に入らないんだって…。
熱の伝わり方がなんだかなぁ…だったけど贅沢は言えない…。

 なるほど…湯たんぽがあると親が添い寝しなくてもちゃんと眠る…。
昔の人の知恵って…すごいもんだねぇ…。








 

続・現世太極伝(第百三話 闇の翼)

2006-11-29 17:17:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 子安さまのふわふわと柔らかそうな手がリズミカルに動いて…子供たちのチョッキらしいものを編み上げていく…。
その淀みない動きを見つめていると…思わず知らず眠りの世界に引き込まれてしまう…。
身体がガクンッと傾いた勢いで…輝ははっと眼を覚ました…。

 お休み…の時間になっても吾蘭は押し黙ったままで…身動きもせず…じっと何かを見つめている…。
子安さまが宥め賺して食事を取らせ…何とかいつもどおり風呂へ入れたが…ひと言も口を利かない…。

 子安さまも北殿も…別段…それをおかしいとは思わないようで…吾蘭の好きなようにさせている…。
来人は…吾蘭のような妙な行動はとらず…絢人とじゃれあって遊んでいる…。
そろそろ…お眠…。

 不意に吾蘭が顔をあげた…。
幼児とは思えないような険しい眼をして…宙を見つめている…。
異変を感じているのか…異変が起きているのか…は定かではない…。。

 「おやおや…可愛い羽が…。 この子も…間違いなく裁定人…。 」

 吾蘭の背中にちょこんとふたつ…並んで見える小さなグレーの羽…。 
子安さまがにっこりと微笑んだ…。

 「覚醒…したのね…。 王弟の記憶が察知したようだわ…。
上手くコントロールできるといいんだけど…ね…。

 気をつけて…アラン自身にも何か…変化があるかも知れないわ…。
大人なら問題ないけれど…幼児は影響を受けやすいから…。 

クルトのプログラムは…全然…働いてないのかしら…。 」

北殿が訊くと子安さまは来人の方に眼を向けた…。

 「そうですねぇ…。 まだ…何とも…。 」

眠そうに眼を擦っている来人は特には何も感じていないようだ…。
なんと言ってもまだ…赤ちゃんですからねぇ…と子安さまは答えた。

何の話をしているのかしら…?

輝は理解に苦しんだ…。

 羽だのなんだの…わけの分からないことばかり…。
アランに羽なんかついてないわよ…。
覚醒って…何が覚醒したっていうの…?

 如何にリーディングに長けた輝でも…宗主の家族が相手となると…そう簡単には情報を読み取ることができない…。
輝の知らないところで何か大きな動きがあったに違いないが…それについては誰からも聞かされることはなかった。



 「さあ…ショーン…。 思いっきり暴れるがいい…。 」

男は…西沢に向かってそう語りかけた…。
まるで自分の飼っている犬にでも命令するかのように…。

 聞いているのかいないのか…西沢はゆっくりと彼等の方へ近付いた。
滝川には…背中の黒い翼が自由を確かめるように羽ばたいているのが分かる…。
さて…どうするか…広げるのは簡単だけど…収めるのは難しいんだから…あの羽。

 「おい…HISTORIAN…逃げた方がいいぞ…。 」

 忠告してはみたが…男たちは答えもせずに…ただ…へらへらと小馬鹿にしたような笑みを浮かべているばかりだった。

 普段の紫苑とは…まったく別人なんだってことが…判らないようだな…。
仕方がないなぁ…というように滝川は溜息を吐いた。
 
 「紫苑…手加減しろよ…。 相手は人間なんだから…。 」

 西沢はチラッと滝川を見たが…すぐに男たちの方に眼を向けた。
無言のまま…更に近付く…。 
 
 突然…男たちが奇妙な声をあげ…視界から消えた…。
笑っている彼等の足元にあったはずの地面が瞬時に陥没し…彼等を飲み込んだ。
 いや…よくよく見れば…陥没したのではなく…その部分が抉り取られ…宙に浮いていた。
落ちたのは彼等の身体だけ…。

 埋める気だ…とノエルが呟いた。
金井は言葉も無く頷いた。
お伽さまへの攻撃は西沢の頭から堪忍の二の字を消し去ったらしい。

 「ショーンとは誰だ…? 」

 表情のない顔で西沢が穴を覗き込んだ。
さすがに能力者である男たちに怪我はないようだったが…自分たちの頭の上の不気味な土の塊を驚いたように見上げていた。

 「俺はシオンだ…。 よく覚えておけ…! 」

 土の塊が雨霰と彼等を目がけて一気に降り注いだ。
本気だと悟った男たちは慌てて穴を飛び出した。

 「外れた…か…。 」

西沢の唇が冷たい笑みに歪んだ…。
 屋敷を囲む木々や…焼け残った古い納屋の陰に男たちはかろうじて身を潜めた。
彼等の西沢を見る目が変わった…。
ようやく身の危険を感じ始めたようだ…。

 「無駄だ…。 分かってるだろう…? 」

納屋はあっという間に粉微塵になった。 隠れていた者が転がり出てきた。
能力者相手に隠れるという行為は何の意味も持たない…。
それでも身を隠そうとするのは…自己防衛の本能が働くからだろうか…。

 添田の屋敷は住宅地から少し離れた丘の中腹にあるが…西沢の力を考えれば…町全体が危険地帯…付近には民家も点在する…。

 今の西沢には敵と見做したHISTORIANの姿しか見えていない…。
民家であろうとなかろうと邪魔なものは全部破壊し尽くすだろう…。
誰かが気付いて…防御しておいてくれると助かるんだが…と滝川は思った。

 ふいに背後から異様な気配が忍び寄ってくるのを感じ取った。
それはノエルも金井も同じだった。

眼の前の見慣れたHISTORIANたちとはレベルの違う…大きな気配…。

 これは…これは以前…ノエルを媒介にした者の気配だ…。
ノエルを通じて西沢と対話したHISTORIANのボス…或いは…幹部…。
別の連中が現れた…と紫苑が言っていたが…奴もこの国に来ていたのか…。

 滝川はノエルが初めてふたり組みに襲われた夜の出来事を思い出した。
かなり遠方からのコンタクトで…滝川には気配を読み取るのがやっとだった…。
それでも…あの気配を忘れてはいない…。 

 親玉の気配だけではない…。
HISTORIANと思われる何人もの気配が町のあちらこちらに漂っていた…。
おそらくは…この国に潜入していた仲間を呼び集めたに違いない…。
まるで紫苑が封印を解く瞬間を待っていたかのようだ…と滝川は思った。



 添田の住んでいる町を覆い始めた奇妙な気配に気付いて、周辺の町の能力者たちも警戒を強め、独自に動き始めていた。
いち早くそれを察した祥はすぐにすべての家門に対して協力を要請した。

 HISTORIANが本性を現したこと…不穏な気配は彼等のものであること…全体の防衛力が分散されてしまうのを防ぐため…常勤・非常勤を問わず連携組織職員は大至急支部へ集合すること…。
可能であれば…各家門の戦力の中からも協力者を向かわせて欲しい…と…。

祥の指令は各支部を通じてすべての家門に伝わり…それに応じて選り抜きの能力者たちが続々と支部に集まった。

 連携組織が未だ試験的な段階であるために、指令自体にそれほどの強制力がないにも関わらず、すんなりと協力を得られたのは、やはり総代である祥とその背景に控える執行部の面々の影響力がものを言った証だろう…。

 が…それだけではない…。
かつて…智明から熱心に説得された幾多の家門の長たちが智明への信義を貫いた結果でもある…。
祥はそのことも深く肝に銘じていた…。

智明と滝川一族の尽力で…所在が把握できる限りのフリーの能力者にも危急の事態が伝えられ…多くの能力者が協力を申し出た。

 本部では島田家の克彦が集まってきた能力者たちの陣頭指揮を執っていた。
克彦にとっても初めての経験だが…早くに島田の長老格になった男だけあってうろたえることもなく堂々と落ち着いた采配ぶり…。

 この事態にあって総代として忙しく立ち回りながらも、祥は絶えず新しい組織に査定の眼を向けていた。
これまでのところ…人事は…まずまずだな…と内心ほくそ笑んだ。



 須藤や田辺は本部へ向かい…紅村旭や花木桂は添田の町へと向かった。
西沢本家では祥に代わって怜雄が族長として動き…英武は高木家に詰めていた。
西沢との深い関わりのせいで…ノエルの家族は狙われる可能性があるからと…祥が警護するように言ってきたのだ…。
 
 勿論…御使者は総動員…仲根たち外勤組だけでなく…亮たち内勤組も戦闘能力系の者は外に出ていた。
添田の町へと向かった仲根と亮の許へ花園室長から不気味な連絡が入った。

 「お伽さまが連絡を絶たれてから…例の亀さんがまたご機嫌斜めらしいのよ。
つまり…ワクチン系…HISTORIAN系のプログラムを持つ人たちが発症する可能性が出てきたってこと…。

 亀さんの傍へ行かなけりゃ大丈夫かも知れないけれど…ひょっとしたら何か影響を受けている人たちも居るかもしれないから…注意してね…。 」

 参ったな…仲根は靴磨き用のブラシみたいな頭を掻いた。
発症者の記憶を消しながら戦わなきゃいけないってか…。

 「発症者は…取り敢えず…眠っていて貰いましょうよ…。
HISTORIANをどうにかする方が先だから…。
奴等がこんなにうじゃうじゃと我国に潜入しているとは思わなかったな…。 」

 亮がそう言うと…仲根は頷いて…そうだな…とうんざりしたように危険な空気の漂う町を見つめた。



 町の入り口辺りで一台の高級車が立ち往生していた。
周りを得体の知れない者たちが数人で取り囲み…動きが取れなくなっていた。

 高級車の行く手を妨害している者たち…それがHISTORIANでないことはすぐに分かった。
また…亀石の…仕業か…。 
玲人は即座にそう判断して…車内の人々を救出に向かった。

 玲人がひとりふたり…潜在記憶の消去をし終えたところで…運転席から祥ほどの年格好の男が外へ出てきた。

高倉…族長…? 
何で今頃…族長自らこんな最前線へ…?

 男は玲人に向かって軽く会釈をすると向かってきた数人の発症者を事も無げに片付けた。

 「族長…どうなさったんです…? 運転手もつけず…おひとりで…? 」

玲人が訊ねると…高倉族長は顔を曇らせた…。

 「つい先程…金井くんから執行部の方に知らせを貰ったんだ…。 
お伽さまと一緒に…添田くんと…うちの磯見が炎の中に消えてしまったと…。

 磯見は…私の息子…探しに来たのだよ…。
長いこと放っておいたので…せめて最後くらいは…と思って…な。 
立場も考えずに飛び出して来てしまった…。 」

 それなら…もう骨も残っていないだろう…とは…さすがに玲人も言えなかった。
族長の気持ちを思えば…何もかも塵と化したなんてことはこの場では伝えられない…。

 「最後だなんて縁起でもないですよ…。 」

そう話すのがやっとだった…。

 相庭との連絡でもその話は出たが…相庭は何も言わなかったから…本当のところ三人の行方は分からないままだ…。
ただ…お伽さまの気配が消えているのは事実で…それは玲人にも感じられた。

 気持ちは分かるが…高倉族長には執行部に戻って貰うしかない…。
玲人の一存でどうこうできる相手ではないから…宗主の名を出してでも…この場を退いて貰うしかなかった…。

 組織の重鎮を個人的な用件でこのまま先へ進ませるわけにはいかない…。
進めば何が起こるか分からない…。

この町はすでに…闇の中にあるのだから…。






次回へ

親父と鳥とパチンコと…。

2006-11-28 23:00:10 | 親父
 何年か前…子供が牛栓…牛乳瓶の紙製のふたを集めていたことがあった。
何にするのかと思っていたら…メンコの代わりにしていたらしい。

 そう言えば…自分の小学校の時にも牛栓を使う子が居たな…。
勿論…牛栓は牛栓同士で戦ってたんだろうが…よくは覚えていない。

 自分たちは絵の描いてあるメンコを使っていたから…牛栓は使ったことがない。
親父の代にはメンコをショウヤと呼んでいたらしく…メンコとは言わなかった。

 だから…自分たちもショウヤという名で覚えている。
隣近所の遊び仲間もショウヤと呼んでいたから…時代だけじゃなくて地域的なこともあるのかもしれないなぁ…。

 自分たちのは長方形の紙板だったが…円形のもあったらしい…。
牛栓組みは円形の面子を使う子たちだったのかも…。

 どういう字を当てるのか分からないが…軍関係や武将などの図柄が多いとすれば…将矢だろうか…?
自分らの頃には野球関係やヒーローものだったような気がする…。

 覚えている方がおいでならぜひ教えて頂きたい…。
メンコは面子だ…。

 親父はショウヤの紙板にカーブをつけたり…重ね貼りで補強したりしてショウヤの威力を高める方法を伝授してくれた。
けれども…生憎…流行ったのは弟たちの代で…自分の学年ではあまりやらなかった。
消しゴムはじきみたいなことが流行っていたから…。

 おはじきやお手玉…かっちん玉(ビー玉)…そんな遊びもあったけれど…それは同じ昭和でも親父たちの時代の遊びで…自分らはプラスチックの水鉄砲とか…銀玉鉄砲とかで遊んだ…。

 玩具はブリキのものが多かったな…。
車とかロボットとか…。
幼児には木の積み木…。

 親父はコマ回しも上手かった…。
ちゃんと紐で巻くタイプのコマで長い時間回していることができた…。
子供心に親父にゃ負けたくねぇ…とは思ったけど…大概負けた…。

 考えてみれば…量産しているとは言っても当時のものは職人さんたちがちゃんとした精巧な型を手作りしてから…作られたものだったんだよね…。
玩具ひとつでも今なら逸品と言われるものがあったかも知れないんだ。

 手作りと言えば…あの頃…親父がちょっと太めの枝の股を使ってパチンコを作ってくれた。
ゴムを張って小石を弾にする…。
 親父たちの子供の頃はこれですずめなどの野鳥を撃ったらしい。
撃ったらしい…ではなくて…わざわざ作ってくれたのも…どうやらまた…これで撃つつもりだったようだ…。

えっ…可哀想…?

 そうだね…今の時代の考え方からすると可哀想だけれど…親父たちの時代には野鳥を撃って捕まえることも魚を釣ることと同じで…遊びではあるけれど…食べるための狩りでもあったんだ…。

時代によって行為に対する世間の価値観は変わるから…それのついての良し悪しは言わないよ…。

 自分の子供の頃はまだ山の方では網で野鳥を引っ掛けて捕まえ…売り物や食料にすることも行われていた…。

 最近になって…野鳥保護や動物愛護の考え方が出てきたために禁止になったけれど…それはこの国に…そうしたことを考えるだけの物質的な余裕がでてきたってことなんだろうね…。
 他にいくらでも食べられるものがあるのに…美味しいものが溢れているのに…わざわざ可愛い鳥を捕まえて殺さなくてもいいじゃない…可哀想だから…ってことなんだろう…。

 親父のパチンコは時代とともに的を変えた…。
自分ら兄弟は鳥を撃つようなことはしなかったから…。
それでも十分楽しく遊べたよ…。 ゴムがゆるゆるになるまでは…。

 親父がパチンコを作ってくれたように…自分もよく木を削ってナイフなどを作っていた…。
それを見ていたわけでもないのに…子供も小学生の時にはパチンコをつくり…やがて…割り箸で弓矢を作り…竹の箸を尖らせて飛ばした。

 お蔭で我が家の襖は穴だらけ…。
子供の作った弓が強力で…襖紙を越えてベニヤを貫くんですな…これが…。
人や生き物には絶対向けるなよ…と言いながら襖を見ては嘆く…。

襖…高いんだぞ…。

誰に似たのかねぇ…。
やっぱり親父の血かねぇ…この過激さは…。

えっ…自分…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

そうかもねぇ…。




お駄賃…稼ぎます…!

2006-11-27 20:03:00 | ひとりごと
 小学生時代…春・夏・冬の長い休みに入るたびに叔母の家に遊びに行っていたのは前にもお話ししたね…。
そう…とんでもないラーメンのところだよ…。
田んぼや畑で真っ黒になって遊びまくっていた…って話…。 

ほんと…よく遊んだなぁ…。 

 だけど…実は…田舎へ行くのは遊びだけが目的…ではなかったんだ…。
お小遣い稼ぎ…も兼ねてた。

えっ…強請りに行ったのか…って? 

 そんな失礼なことはしないよ…。 
人にお金をたかるのは良くないことだろ…。

バイト…バイトだよ…。

 小学生で…? そう…小学生で…ね。
まあ…バイトっていうとちょっと語弊があるかもなぁ…。
差し障りのない言い方をすれば…お手伝いしてお駄賃稼ぐの…。

 叔母の家のすぐ近くに…伯父の家もあって…そこへも必ず遊びに行っていた。
伯父の家は自営なので工場を併設している。
 伯父も伯母も自分たちを可愛がってくれて…遊びに行くと必ず歓迎してくれた。
伯母の作ってくれた牡丹餅は今でも記憶に残ってるくらい…ほんと美味しかったよ。 

 伯父は茶目っ気のある人で…直接お小遣いを渡す代わりに仕事をくれるわけ…。
犬の散歩であったり…工場の子供でもできる簡単な仕事であったり…。

 伯父たちにしてみれば内心は…子供が仕事場をうろちょろするのは邪魔だったんだろうけれど…怒りもせずに働かせてくれた…。 

 布の端っこにはみ出した残り糸を綺麗に切ったりする仕上げのところ…。
機械にかけられた布がゆっくりと巻かれていくのを検品しながら残り糸を切る。
ひとりでやることもあるし…齢の近い従妹と組みになってやることもある…。

 責任重大…失敗なんかできない…。 見落としもだめ…。
なんてたって…扱っているのは本物の売り物なんだから真剣だ…。

勉強はそんなに頑張らないけど…金がかかってるとなると違うもんだねぇ…はは。

 懸命に集中して…だいたい30分から1時間くらいすると…伯父がストップをかける…。
そろそろ止めさせんと失敗されちゃかなわん…というのが本音かもしれない…。

 はい…工賃…と小銭を渡してくれる…。 
キャラメルとかアイスクリームが買えるくらいのものだが…それでも自分で稼いだ金なわけ…。
ちょっと嬉しい…。 

 お手伝いだからお駄賃貰えない時もあるけれど…それはそれで構わない…。
糸を切るのが楽しいし…工場にある物を見るのが面白いから…。
お駄賃はおまけみたいなものだ…。 

 大人の仕事を見て…子供も仕事を覚える…働くことを覚える…。
お手伝いってのは本来は子供が生きていくための勉強だと思うんだよ…。
お駄賃貰わなくても伯父からは…十分…良いものを貰ったと思っている…。

 う~ん…でも当時は…ちょっと期待はしてたかなぁ…。 
毎度毎度…伯父さん…仕事ないかって…訊いていたような気がするから…。

お駄賃貰えなくてもね…。
後でちゃんと…御馳走してくれたんだよ…ふふふ…。  



山菜採りの怪談…?

2006-11-26 16:30:00 | ひとりごと
 それはまだ自分が小学生の頃のことである…。
伯父が古い小屋だか家だか…別荘みたいなものを手に入れたことがあった。

 小屋の周辺には山菜がたくさん生えるらしく…伯父は親切にも山菜採りに行かないか…と親戚衆に声をかけてくれた。 

 親戚衆は我が家も含めてみんな楽しいことが大好き…。
時間を合わせて…赤ちゃんたちを含む二十名弱の団体さま…で現地へ出かけた。

 春とは言っても蕨の季節だから…初夏に差し掛かっていたのではないかと思う。
小屋の記憶はまったくないが…それこそあちらにもこちらにも蕨(わらび)や薇(ぜんまい)などが生えていて…驚喜した覚えがある…。

 その頃はまだ町中に住んでいたので…田舎と言えば叔母の家の周辺…田んぼや畑しか知らなかった…。
自分で山菜を採ってみたことで…もっと違う自然に富んだところがあるのだ…ということを子供ながらに改めて知ったような気がした…。 

 山菜はどれもよく育っていて…抱えるほど採れるのだか…辺りの土地はところどころ並んで陥没していて…何でこんなに小さな穴がいっぱいあるんだろう…と不思議に思っていた…。 
ちょっと小高くなったところの側面にも穴がぼこぼこ空いている。
 どれも50センチくらいから1メートルくらいそれほど深くはなくどちらかと言うと随分前に掘って…今は少し埋まったところへ山菜が生えた…という感じ…。

 それは参加した大人たちもみんな思っていたことらしかったが…その時は誰も何も言わなかった…。 


 蕨や薇を山ほど収穫して…みんなホクホク笑顔で我が家へ戻って行った。
自分たちも大喜びで帰宅した…。 

 重曹を入れて湯がいて生姜醤油で食べるというのが実家の蕨の食べ方…。
薇はあくを抜いて醤油で炊く。

 天ぷらならあくを抜かなくても美味しく食べられる…。
蕎麦の具にしてあるのは…よく見かけるよね…。

今なら季節が来ればスーパーで売ってるが…当時は町に住んでいると稀にしか手に入らない食材…有り難く頂いた…。

蕨や薇は煮物の他に…おこわ…炒め物…味噌汁…サラダ…卵とじなど…結構いろんな料理に使える。

 本当は湯がかなくても重曹を入れた熱湯に浸しておけばあくは抜ける。
冷めた後は水にさらしておいて何度か水を替えればよい…。 

 あくを抜いて凍らせておいたり…干したり…塩漬けにしたりして保存もでき…野菜のように使えて便利だが…その頃はそんなことは知らず…悪くならないうちにさっさと食べてしまった。 

 塩漬けは田舎の人から教わった。 かなり匂いがきついので好き嫌いはあると思うが…塩を抜いて炒め物にすると美味しい…。
その土地に暮らす人の生活知恵というのはすごいなぁ…といつも思う…。


おっと…横道に逸れた…いかんいかん…。

 そんなこんなで太った蕨や薇を家族で平らげ大満足…。
珍しいことを体験させてくれた伯父に感謝感謝…。

 それからしばらくして…山菜採りのことなどすっかり忘れた頃のこと…。
叔母の家でか…自分の家でか…はたまた電話中の話を耳にしたのかは忘れたが…母が苦笑しながら親戚と話をしているのを…偶然…聞いてしまった…。

 あの…ぼこぼこ空いていた穴の正体…。
あれはどうやら…古い墓穴らしい…。
墓地を移転するので掘り返した跡ではないか…と…。 

 「あの辺りは…多分…土葬だわね…。 」

そう母が言った…。

 穴…土葬…古い墓…太った山菜…養分…。
養分…つまり…それは…。 

・・・・・・・・・・・・。 

たっぷり…食っちゃったし…。 





ふっかふかの綿の蒲団と蒸かし芋

2006-11-25 15:40:00 | ひとりごと
 ふっかふかの蒲団…この季節の憧れだよねぇ…。
所帯を持った時から使っている羊毛蒲団に文句があるわけじゃないけれど…やっぱり綿の蒲団が好きだなぁ…。 

えっ…? そんな古いの…まだ使ってるのかって…?

 そうなんだよ…新しくしたいんだけど…どうも勿体ない気持ちの方が先に立っちゃってねぇ…。
貧乏性なんだね…。

 結婚当時に流行っていて…長持ちするから…今風だから…と口車に乗せられて買ったんだけど…確かに中身は長持ちしている…。
布部分が全部破れちゃっても羊毛だけは無事なんでマット用のシーツを皮の代わりにして使ってる…。

 修理できないかって…あちらこちらの蒲団屋さんに聞いてみたんだけど…こうした動物性の綿は決めの細かい特別な布を使わなきゃいけないので布代の方が高くついて…新しく買うよりお金がかかるんだって…。
だから…修理はやらない…らしい…。

 羊毛は長持ちしても布の耐久力までは考えてなかった…。
失敗しましたね…まったくのところ…。


 子供の頃…家族の蒲団は全部…母が自分で作っていた。
小学校の低学年頃までは…自分がそれを手伝ってはいたんだが…もう古い話で綿の張り方までは思い出せない…。

 何年か使った綿蒲団は干しても膨れなくなってくる。
所謂…煎餅蒲団状態だね…。

 綿がぺちゃんこになると蒲団屋さんに綿の打ち直しに出す…。 
打ち直した綿はあら不思議…三倍くらいにボワンと膨れ上がり…ふかふか状態になって戻ってくる…。 

 古い着物を解いて反物にして蒲団の皮を縫う…。
そう…着物は蒲団にも再利用できるんだ…。

 蒲団には綿と真綿を使う。 綿だけのものもあるけど母の作り方はそうだった。
真綿っていうのは絹の綿のことね…。 蚕のくず繭を使って作ったものだよ…。

 布の上にまず真綿を敷いて…その上に綿を敷く…更にその上に真綿を敷く…つまり…サンドウィッチにするわけ…。 

 後は蒲団針で布の口の開いている三方…或いは四方を縫って閉じて…蒲団の四隅と蒲団の上から何箇所か表裏を縫い付けて綿止めして出来上がり…。

 母がそうして蒲団を縫うのを学校から帰ると手伝いながら見ていた。
まだ…綿を敷いてそのままになっている状態の時に母が他ごとをしていると…塩をまぶして蒸かしたさつま芋のおやつを齧りながら…綿の上に転がった。

綿まるけになるよ…と母が言っても…打ち直した綿のふかふかの魅力にはかなわない…。 

蒸かしたさつま芋の塩味の利いた甘さと自分を包み込む綿の柔らかさと温かさ…。
さつま芋は苦手だが…それを思い出すと食べてみようかな…とふと思う。

 最近は何でも使い捨てにしてきたことが見直されて…リサイクル活動も盛んになった…。
買った方が安く済むって状況が…勿体ないという気持ちを失くさせちゃったんだけど…そういう時代でも…物の有り難みっていうものを心のどこかで感じてる人はまだたくさん居るはずなんだ。 

 だから使う側だけでなく作る側も…もっともっと積極的に再利用に取り組んでくれるといいなぁ…。
買った方が安いですよ…じゃなくて…修理した方が得ですよ…って…そう胸を張って言ってくれる会社があったら…大ファンになっちゃうよ…。


 自分で蒲団を作るなんてことはできないけど…子供たちの蒲団は綿を打ち直して貰っている…。
自分と連れ合いの羊毛蒲団もそんなふうにできると…助かるんだけどなぁ…

勿体ないから…。



えっ…フラミンゴ…?

2006-11-24 20:02:00 | オカン
 動物の鳴き声にはそれぞれ特徴があるけれど…その動物の声を聞く人間の耳にもいろいろ特徴があるようだ…。 
鶏の鳴き声や犬の鳴き声なども日本と他の国では違った捉え方をするらしい。

犬はワンワンと鳴くんだよ…みたいに親から子へとインプットされた情報が多分に影響しているのだろうけれど…ね。 

 自然の中での鳥や動物との出会いも素敵だが…動物園もなかなかに面白い…。
大人になってからもよく動物園に出かけた。

 生き物だからこちらが予期していない動きを見せたり…鳴き声を聞かせてくれたりすることもある…。
そう言えば…象にいきなり水かけられたこともあったなぁ…。

普段見られないものが見られたり…聞けたりするのは…ほんと楽しいね…。

 まだ実家に居た頃…時々…オカンと連れ立って出かけ…柵の前でオオカミたちをボケ~ッと眺めていることもあった。 
傍から見れば…奇妙な親子と思われるかもしれないが…ふたりともオオカミが好きなのである…。
さすがに…所帯を持ってからは行かなくなったけれど…。 

 その日も…たまたま実家に遊びに来ていた自分らと弟一家…オカンとで久々に動物園へ行こうか…という話になった。
子供たちも動物園なら楽しめるだろうし…遊園地で遊べるし…。 

よっしゃ…そんなら…ということで…即…出発と相成った。

 園内に入ると子供たちは物珍しげにあっちこっちを覘いて回る。
まだ作られてそれほど経っていない新しいコーナーの入り口から入ったせいか…長年見慣れた旧式の動物園の雰囲気とはどこか異なって…テーマパークにでも来ているような感じ…。 

 う~ん…動物の匂いとか鳴き声とかは変わっていないんだけどね。
見た目が綺麗になったせいかなぁ…。

 それはまあそれとして…。
子供たちの後から大人たちがゆっくりついていく…。
この動物園にはよく来たねぇ…なんぞと思い出話をしながら…。 

何のコーナーだったか覚えていないが…いつの間にかフラミンゴの飼われている柵のところへ来ていた。

 「へぇ…フラミンゴってこんなふうに鳴くんだねぇ…。 初めて聞いたわ…。 」

不意にオカンが感じ入ったように言った。 

フラミンゴ…? 

弟夫婦と自分は顔を見合わせた…。

フラミンゴ…鳴いとるか…?

 そう言ってフラミンゴの居る方へ眼をやると…奥まったところに集まって皆さん気持ちよさそ~に…お休みになっていらっしゃる…。
勿論…どなたもお口をお開きにはなっていらっしゃらない…。 

鳴いとらんよなぁ…?

 「だって…ほら鳴いとるが…。 」

はぁ…? 何処に…?

弟夫婦も自分もフラミンゴを見ながら耳を澄ませた…。
フラミンゴたちは微動だにしない…。
うるさいから…あっちへ行ってくれ…ってご様子…。 

その時…。

ゲロゲロ…ゲロゲロ…。 ゲロゲロ…。  

 「ほらね…フラミンゴ…。 」

オカン…大真面目な顔してこちらを見る。

・・・・・・・・・・・・。

フラミンゴの鳴き声…ねぇ…。 

・・・・・・・・・・・・。

そうだと…いいんだけどね…オカン…。



其の四「野鴨」…(親父と歩いた日々)

2006-11-23 17:20:00 | 親父
 それは今年の春…連れ合いを駅まで送って帰宅した朝のこと…。
ふと空を見上げると整然とV型並んでに飛んでいく鴨の群れ…。
幾つもの編隊を組んで…次々と旅立って行く…。 

渡りの季節だ…。

その統制の取れた見事な編隊飛行に我を忘れ…しばし…見とれていた。

 鴨たちは毎年秋にうちの近くの川にやってくる。
冬の間…川のあちらこちらで可愛い姿を見せてくれる。

 ここでは観察の対象だけれど…猟場では獲物…。
鴨の世界はいつも危険と隣り合わせ…。

 実家の裏手の丘陵地の森は…当時…冬場には猟場となる危険な場所でもあった。
車道を挟んでルリビタキの居る森は農地があるので安全…反対側の森の奥は猟場…そんな状態だった。

 それでも親父と自分は…時々反対側の森にも入った。
家からでも銃声の聞こえることはしばしばあったが…それは森のずっと奥…。
そんなふうに考えていた。 

 森の入り口から少し奥まった辺り…開けたところに鏡のように綺麗な池…亀の溜め池より何倍も大きくて…とても溜め池とは思えないような池があった。

 まるで絵葉書の写真ようだ…と感じた。
家の近くにこんな素敵な場所があるとは…ね。

 自分は初めてその池を見たのだが…親父は以前にも来たことがあるらしい…。
どうやら…自分を連れてきたのは新しい発見のお披露目だったようだ…。

 岸辺の葉の落ちた木々を映し出す…その絵に描いたような池には何羽もの鴨が居た…。
その頃の自分は…野生の鴨をこれほど間近に見たことがなかったので…目の前の光景にいたく感動…。

鴨って本当に渡って来るんだ…。 動物園の家鴨とはやっぱり違うなぁ…。
年甲斐もなくそんなことを思っていた。

 さすがに野鴨たちは敏感で…人間が近付く気配を感じたのか…水面に飛沫を上げて一斉にバサバサッと飛び立った…。
野生の鴨の何と秀麗なこと…。 

胸の空くような爽快な気分を味わった…。

 鴨が行ってしまうと…親父は歩き出し…反対側の森の亀の池へと向かった。
亀の池のすぐ下にはもうひとつ小さな溜め池がある…。

おやおや…そこに二羽だけ鴨が来ている…。 
番…かな…。
さっきの鴨かどうかは分からないが…自分たちが近付くのを察して…またすぐに飛び立った。

ご免ね…。
せっかく逃げて来てたんだろうにね…。
お邪魔さま…。 

 遠くで銃声がする…。
猟期が来ているから…。
 そろそろ…気をつけないと…。
森へ入るのはいいけれど…こちらが撃たれないようにしなきゃなぁ…。

 民家の近くの森が猟場というのも不思議なものだが…それは土地を開拓したばかりで…まだ町が猟を禁止していなかったからだ…。

 今では猟をする森の方が消えた…。
鴨にとっては安全だけれど…同時に憩う場所を失ったことになる…。
どちらが…彼等にとって良かったのだろう…。

 自分が今…眺めている川には…鴨の敵はほとんど居ない…。 
せいぜい…雛を食う蛇が居るだけ…ここに巣があるわけではないようだし…。
のんびりと流れに身を任せて一日を過ごしている…。

確かに…ここには彼等に銃を向ける者は居ない…。
こんな汚れた川でも追われないだけ…まし…なのだろうか…な…。



万緑叢中紅一点…石榴(ざくろ)

2006-11-22 17:10:00 | ひとりごと
 万緑叢中紅一点   
 動人春色不須多 

 この詩を始めて読んだのは高校の漢詩の授業で…だったか…定かではないが、この詩の前半…万緑叢中紅一点…の部分にいたく感動したのを覚えている…。

 石榴の詩…王安石の作と言われているが…よくは分からないらしい…。
以来…石榴の木に花の咲く姿を見るたびに…なるほどそうだなあ…と感じる…。

 えっ…詩の言わんとするところに…感動したのかって…? 
 いやいや…詩自体は極めて格言的なことを言ってるんであって…感動したのはその表現の方…。
内容の如何ではなく…緑の葉の中に浮かぶ少し黄味を帯びた赤の花の姿に…である。 

 学生時代、校舎の横に植えられてあった石榴が、毎年花をつけるのを楽しみに見ていた…。
朱と赤の中間をいく絶妙な色具合…何色と表現すべきだろうか…言葉に迷う…。
石榴色…と言っていいものなのかどうか…。

 きりっとしていて媚びないところが石榴の良さ…。
そうかと言って相手をドンと突き放すわけでもなく…その姿態の其処此処に何とも言えない色気が見え隠れ…。 

 ことに…雨の日は魅力的…煙るような雨の中にポッと浮かぶ艶やかな姿はまさに絶品…。
詩人や俳人はこんな情景をすらすらっと文字にするんだろうけれど…そういう能力がなくて残念だ…。 

 皺の少ない脳の中からテキストの文字がきれいさっぱり消し飛んでも…そういうことだけは覚えているから不思議だ…。
要らないことだけ吸収するようにできてるんだね…きっと…。 

 嫌いだって言う人もいる…。 傷口みたいで…。
う~ん…確かに石榴の実はぱっくり裂けるからなぁ…。
 何しろ…人間の肉の代わりに改心した鬼子母神が食べた実らしいからね…。
御釈迦さまに頂いたとかで…。 


 石榴と言えば…ガーネットのような実が素敵…。
紅色の滴を透明なガラスで被ったような愛らしい実が黄味がかった赤の丸い皮の内側にぎっしりと詰まっている…。

 指で剥がすとぽろっと種を含んだ実が取れる…。
惜しむらくは…剥がした後の内皮の白さがすぐに茶色く変色してしまうこと…。

 見た目も綺麗なら味も良い。 
ただし…慣れないと舌に残る渋みが気になるかもしれないな…。
特に幼い子供には…好き嫌いがあるかもね…。 

粒が小さいから面倒だという人も居るかも知れないが…そういう人は最初に外しておいて一挙にいこう! 

 最近…スーパーで売っている濃いピンク色の石榴は輸入物…中まで濃いピンク…まるでルビーだね…。
試しに食してみたが…自分の知っている石榴とは似て異なるもの…。
まるで石榴ジュースみたい…。

 うちには石榴の木はなかったので…もっぱら頂き物だったのだが…子供の頃に味わった石榴は小ぶりながら…赤…朱…黄…のグラデーション…中は赤…。
輸入物よりちょっと濃い目の味かな…。

 何しろ…石榴の実と言えば…当時は庭なんぞに植えてある木に生るもので…お店で買うようなものじゃなかったから…なぁ…。 

 何でも手に入るいい時代と言えばそうだけれど…できれば石榴も昔ながらのものがいいな…。
 生まれた国はイランらしいのでもともとのご先祖は一緒なんだろうけど…長い時の間にそれぞれの気候風土に合わせて変化していったんだろうね…。

見たことないけど…ピンクの石榴の花は…ピンクなんだろうか…?

 何だか紅一点のイメージとはかけ離れていくようだね…。
まあ…この詩も中国のものだから…日本的な感覚でいけば…って話だけど…。
それは置いといて…ちょっとだけ我儘言わせて貰おう…。

この国に根付いた石榴の赤がずっと護られていきますように…。 



続・現世太極伝(第百二話 魔物覚醒)

2006-11-21 23:55:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 目の前で起こったことをすぐには理解できずに…西沢たちは呆気に取られた。
それぞれの組織の中で、そして家門の中で、トップクラスの彼等をして途方に暮れるほどの難題を…ノエルがあっさりと片付けた…。

 「頭…固過ぎんだよ…。 紫苑さんも金井さんも…。 」

言葉もない男たちを見ながら…如何にも可笑しそうにノエルは笑った。

 「添田さんが潜在記憶を消したはずだ…と頭から思い込んでいるから…話が妙な方向へ進んじゃうんだ…。
確かに一度は消したかもしれないけど…そんなもんすぐに復活する…。
磯見の中にはまだ潜在記憶が残っていて…磯見はその記憶の中で暴れてたんだよ。

 奴等はそれを具現化して利用したのさ…。
磯見にとっては夢を見ているようなものだから…ちょっと誘導すれば…奴等の思いのままに動いてくれる。

 お伽さまが言ったでしょ…。 夢を操る力に似ているって…。
紫苑さんたら…これはDNAの仕業で潜在記憶は完全に消えることはない…ってちゃんと自分で説明しておきながら…わざわざ話を難しい方へ持ってっちゃうんだもん…。 」

そう言われて西沢は…仰るとおりで…と頭を掻いた。
いや…確かに…と金井も苦笑した…。

 「やれやれ…ノエルに一本取られたぜ…。 なるほど…思い込みか…。
頭が固いのは…おじさんになった証拠かな…。 」

おまえと一緒にするなよ…と西沢は滝川を睨んだ…。

 いや…それも一理ある…って…人間三十路を越えるとなぁ…。
とうに越えている金井が、如何にも納得したように頷きながら憤慨する西沢の顔を見た。
三十路…そいつぁ聞きたくねぇ~。

ノエルは腹を抱えて笑い転げた。

 磯見が完全に眼を覚ました。
勿論…自分のしたことは何ひとつ覚えてはいない…。
それがせめてもの救いだ…と添田は思った。

 「申しわけないことです…。 私がもっと気をつけていればこんなことには…。
まさか…消したばかりの潜在記憶が…これほど簡単に復活しているなんて考えもしなかったもので…。 」

 添田は自分の不注意が西沢たちの誤った判断を招いた…とでも思ったのか…ひどく責任を感じているようだった。
確認不足による初歩的なミス…そう恥じているようでもあった…。

 「ノエル…紫苑たちが間違っていた…というわけではないのですよ…。
あなたは思いつきでよく考えもせずに動く傾向があるけれど…それは大変危険なことなのです…。
 時には今回のように行き詰まりを解くこともできるでしょうが…失敗した時の代償はその分大きい…。
たまたま成功したからいいようなものの…あなたは行動する前に皆に相談するべきでしたね…。 」

 穏やかに微笑みながらも…お伽さまはそうノエルに釘を差した。
あ~ぁ…叱られちゃった…ノエルはペロッと舌を出した。



 辺りが静けさを取り戻しても…宗主の瞑想は終わらなかった。
迫り来る新たな危険を察知していた…。

 「相庭さん…あんたは…どう見るね…? 」

玲人と連絡を取っていた相庭に有が訊ねた…。

 「ぎりぎりのところに来ているんだ…。 暴走は避けられまいね…。 」

まあ…普通の人たちに被害が及ばなければ何とでもなることだが…と相庭は答えた…。

 「御使者もエージェントもこの地域一帯を巡回している…。
最悪の場合でも…できるだけ被害を最低限に止めるように尽力する…。

 すでに祥さんも何らかの手を打っているはずだ…。
祥さんたちにとっては初仕事だから…多少…手間取るかもしれないが…ね。 」

 それも…多分…フォローできるだろう…と有は言った。
祥さんのことだから…こちらもそれほど心配はしていないんだよ…。

 智明の知らせを受けて…裁定人の宗主は裁断を下した…。
もし…実際に魔物が目覚めるようなことになれば…重罪人として直ちに奴等をこの国から追放する…。
従わぬ場合は如何なる結果を招こうと文句は言わせぬ…そう宣言した…。 

 裁定人の裁断…奇しくも新しい組織が産声を上げたこの時に…裁きの一族もまた…その長きに亘る沈黙を破ることになる…。
瞑想したままの宗主を見つめながら…有は何かしら運命的なものを感じていた…。



 海外で起こった事件も…磯見が利用されていたことを思えば納得がいく…。
磯見はスタッフだから簡単に撮影現場の情報を入手できる…。
 その場所に磯見自身が細工をすれば…三宅の時と同じ効果が得られるわけで…如何にも世界各国で事件が起きているように見せかけることができる…。

 けれど…何故…?
奴等は何故…そうまでしてこの国を狙うのか…?
この国にいったい何があるというのだろう…?

 磯見のことが解決しても…西沢の中の疑問は膨れ上がるばかり…。
それはまあ…それとして…添田も磯見もこれで奴等から解放されるだろう…。
疑問もそのうちには…解けるだろうし…。

 お伽さまの希望で…添田がお伽さまを本家に送り届けることになったので…西沢たちは一足先に添田の屋敷を出ることにした。
 それではまた…とお伽さまは…あの優しい笑顔で皆を送り出した…。
添田も磯見も改めて何度も礼を言った…。

 西沢たちが添田の屋敷を後にして…ほんの数秒…辺りに轟音が響き渡った…。
振り返った西沢たちの眼に映ったのは…黒々と渦巻く煙と紅蓮の炎に包まれた屋敷の姿だった…。

なんてことを…。

 急ぎ…屋敷の方へ戻ったものの…何かの爆発物による出火らしく…すでにありとあらゆるところから火を噴いていて…如何な彼等と言えど…最早…屋敷の中へは立ち入ることができなかった…。

お伽さまぁ!

 悲鳴にも似た声でノエルが叫んだ。
なす術もなく…立ち竦むばかり…。 金井が頭を抱えた…。

お伽さま…添田…磯見…。

西沢は身動ぎもせず…炎を見つめている…。
まるで…感情など消し飛んでしまったかのように…。

お伽さま…を…あのお優しいお伽さまを…なぜ…?

 西沢の中で何かが砕け散る音が聞こえた…。
少なくとも滝川には…はっきりと…。

封印の鎖が…解かれた…。 

 今…西沢の背中で…自由を得た漆黒の翼が羽ばたきだす…。
それは…天使のもの…ではない…。
 遠い昔から…主流の血のみに受け継がれてきた冥府の翼…。
宗主の一族が裁定人と呼ばれる所以…。

もう…だめだ…。
こうなったら…誰にも止められない…。
万事休す…。 

相庭の献身も滝川の努力もすべてが水泡に帰した。

とにかく…どうにかして無関係な人を巻き込まないようにしなきゃ…。

 ノエルも金井も…広げられた翼を見ることは出来ない…。
しかし…西沢の周囲に漂うこれまでにない冷気に思わずぞっとした。
透明…静寂…それ以外に感じられるものは何もない…。

 不意に西沢が動き出した。
引き寄せられるように赤々と燃える屋敷の方へと近付いていく…。

 「だめ…紫苑さん! 危ないよ! 」

西沢を止めようとノエルは前に立ちはだかった…が…西沢の凍りつくような冷たい表情を眼にして思わず退いた。

西沢はまっすぐ屋敷へ向かう…。
炎の中に飛び込まんばかりに進んで…両手を広げた…。

ほんの一瞬…気が揺らいだ…ように感じられた。

 炎に包まれていた添田の屋敷は微塵に吹っ飛び跡形もなくなった…。
そう…消えてしまった…灰塵と化して…。

ノエルも金井も眼の前で起きた信じ難い現象に言葉を失くした。
まだ形あるものが瞬時に消えた…。
炎の痕跡さえ残さずに…。

 この世界に目覚めたばかりのノエルはともかく…この世界に育った金井でさえも未だかつて眼にしたことのない凄まじい力…。

 しかも…どうやら西沢の状態は普通ではないように見受けられる…。
じっと何かを探り…まるで獲物を狙ってでもいるかのようだ…。

 「紫苑は…完全に切れている…。 
ノエル…金井…何があっても絶対に手を出しちゃいけないぞ…。
さっきだって十分危なかったんだよ…ノエル…。

 今の紫苑にはそれが善意かどうかなんて判別できないんだ…。
向かってくるものはみんな敵…消滅させてしまうから…。 」

西沢を止めに入る可能性のあるふたりに…滝川は注意を促した…。

 そんな馬鹿な…とノエルは思った…。
紫苑さんが…僕を判別できないなんて…。
切なげな眼で西沢を見上げた…。

 西沢はまだ屋敷跡に眼を向けている…。
感情のない仮面のような顔…。

 金井が小さく声を上げた…。
滝川もノエルも思わず身構えた…。

 ぼんやりと…人影が見える…。 それも…ひとりやふたりではない…。
だんだんに姿がはっきりしてくると…それらが雑多な人種の集まりであることが分かった…。

さも愉快そうに笑い声を上げ…西沢の方を見つめている…。

 「ショーン…。 とうとう…罠にかかったな…。
美しい魔物…おまえを手に入れるために…どれほどの年月を費やしたことか…。」

独特の訛りのある言葉で…あの料理店の男が語りかけた…。

 「核爆弾より…はるかに安全で複雑な装置も大掛かりな設備も必要としない…。
破壊力も抜群…まさに最強の生物兵器…。
化学兵器よりもはるかに経費がかからないのもメリット…。 」
 
 HISTORIAN…御一行か…。
愚か者め…そう簡単に紫苑を動かせると思うなよ…。
滝川は腹の中で…そう呟いた…。

男の話を聞いているのかいないのか…西沢はまったく表情を変えない…。
冷たい仮面のままで…じっと男の方を見ている…。

封印を解かれた魔物の胸の内は…誰にも掴めない…。






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