徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

お兄ちゃんの怪談話

2006-11-12 22:47:47 | ひとりごと
 多分…あれは…小学校に上がったばかりのことではないかと思う…。
急いで夕飯を終えた後、ウキウキしながら裏木戸を抜けて、細い道を挟んだ裏手にあるYくんの家へ向かった。 

 あたりはもう真っ暗…昔のことで外灯なんかついてない…。
家々の灯だけが足元を照らしていた…。

 こんなに暗くなってから子供が人さまの家にお邪魔するのは本当はいけないことだけど…今夜は特別…。
隣近所の子供たちがぞろぞろ集まってきた…。
家が向かいや並びだから道行くたびに増えていく…。 

 昼間…お兄ちゃんと約束したから…。
Yくんには大きいお兄ちゃんが居て…昼間は忙しいからだめだけど…今夜…怖い話を聞かせてくれるって…。
だから…夜になったらおいで…って…。

 ほんとう…? 遊びに行ってもいいの…?
そう…みんなでお兄ちゃんの話を聞きにきたのだ…。

 ごめんくださぁい…。
お邪魔します…。    

 お兄ちゃんは忙しくてまだお話どころじゃなかったので…Yくんと自分たちはお祖父ちゃんと一緒にテレビを見ながら待っていた…。
東京オリンピックの時にテレビが普及したせいか…この辺りの家は白黒テレビを持っていた。  

 お祖父ちゃんが見ていた番組も怪談話…。
その頃…日本の昔の怪談話を映画化してよくテレビで流していた。
 うちでもオトンがテレビ好き芝居好きなので…よくこの手の番組を見ていた。
内容は忘れてしまったが…按摩さんが出てくる話で…独特の按摩笛の音が今でも耳に残っている…。 

 映画が終わる頃…お兄ちゃんはみんなのところへやってきて…いくつか怖い話を聞かせてくれた…。
みんな真剣な顔をしてお兄ちゃんの話を聞いていた。 

 どんな話だったかははっきりとは思い出せない…。
鍋島の猫騒動や…番町皿屋敷…そんな類の話ではなかったかと思う…。

 怖い…とは思わなかったけれど…お兄ちゃんは話が上手だった…。
特にテレビで怪談を見た後なので雰囲気抜群…。
知らず知らずに話に惹き込まれた…。 

 そんな様子を…お祖父ちゃんやお父さんがにこにこと笑いながら見ていたのが…子供心にすごく印象に残った…。 

話が終わると…お兄ちゃんは…また今度聞かせてやるよ…と言ってくれた。

 みんなお礼を言って…お邪魔しました…とYくんの家を後にした。
またね…明日ね…。
そんなことを口々に言いながら自分の家に入って行った。 

お兄ちゃんは…今度またお話を聞かせてくれると言っていた…。
それがとっても楽しみだった…。

ずっと楽しみにしていたけど…その日は来なかった…。 

道路を作るために…その辺り一帯の家は立ち退きになってしまったのだ…。
自分の家も引っ越さなくてはならなくなり…Yくんの家も引っ越して行った…。

仲良しだったみんなとは…それ以来…会っていない…。
何処に居るのかも分からない…。

どうしているかな…。
みんな元気で居るのだろうか…。 

今でも覚えているだろうか…。

あの夜の…怪談話…お兄ちゃんの話を…。