徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

其の三「むかごと山芋」…(親父と歩いた日々)

2006-11-20 17:05:00 | 親父
 溜め池…というものを見たことがあるだろうか…。
水の利の悪い土地で農作物を作るために、雨水を溜めて利用する人工の池だ…。
丘陵の森の中にもいくつかそんな池が作られてあった…。 

森の最も奥まったところにある古い溜め池を見つけた親父は…家族全員と犬を連れて探検に出かけた…。

 そう…親父と歩いたのは自分だけではない…。
時々は家族全員で森へ出かけた…。
自分の新しい発見を家族に見せること…それも親父の楽しみだったのだろう…。

 酒と綺麗どころが大好きで夜遊びの常習犯…午前さまの見本みたいな男ではあったが…家族と遊ぶのも嫌いじゃなかった…。
尤も家族と遊ぶ方は…金のかからない遊びがほとんどだったが…。

 古い溜め池は深緑…生き物が居るかどうかも分からないくらい不透明…。
森の中で久々に放された犬が嬉しそうに池の周囲を走り回っている。

 周囲の木々に絡まる蔓にはむかご…これはこの森で山芋が採れるという印だ…。
見ればあちらこちらの木に蔓が伸びている…。
 掘り出せば高級食材…さぞ美味かろう…。
旬も旬…収穫時期なのだが…。

 しかし…山芋はそう簡単には掘り出せない…。
深い土の中にくねくねと埋まっている。
 森を歩くのが好きだとは言っても、町育ちの親父は自然のことをそれほど詳しく知っているわけではなく、むしろ、分かっているものだけを収穫するというずぶの素人なので…むかごには気付いていない。

 むかごがあるから…山芋が採れるぞ…と言ってはみたが…掘ってみる気はないようだった…。
少し惜しい気はしたが…掘り出す労力を考えれば…ちょっと躊躇う…。
何しろ何も道具を持っていないわけだし…。
仕方がない…諦めよう…。


 池の周囲を歩きながら…生き物の影を探した…。
このくらいの池なら…フナぐらいは居そうなものだが深く藻に覆われて魚影は見えない…。

 ボチャンッ!

 ドボンッ!

突然…立て続けに大きな水音がした。
あっと思って音のした方を見ると犬が慌てて岸へ這い上がってくるところだった…。
水の中には大きな亀…こちらはのんびりとしたものだ…。 
犬は岸に上がるとぶるぶるっと身体を震わせて水気を飛ばした…。

亀を追っかけて落ちたのかぁ…と…みんな大笑い…。
この池にも生き物が居ると分かってちょっとほっとした気分…。

 しばらくして知り合いから自然薯を貰った…。
市販の長芋の白とは違って中身がちょっと黄色で固め…。
確かに濃厚で美味しい…。
 けれど…細くて何本もの自然薯を剥いて擂り下ろすのは大変…。
すぐにぽきぽき折れてしまう…。
よほど大物でない限り…めちゃくちゃ手間がかかる食べ物だと分かった…。

慣れた人でも自然薯を掘るのは大変だと人伝に聞いた。
挑戦しなくて正解だったかな…。 でも…ほんとは…掘ってみたかった…。
むかご…見つけたのに…。

 掘るに手間…擂るに手間…。 けど…それだけじゃない…。
山芋が育つまでには…きっとこの森が大変な苦労をしているんだろうな…。
分かってるんだ…けど…ね…。

この齢になっても忘れない…未練がましい…思い出…。