徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

白蛇さま

2006-11-04 21:18:00 | 生き物
 昔の人は自然現象を大切にしていた。
太陽…風…雷…雨…そういった自然現象はみんな神格化されていたんだ。
天候だけじゃない…。  

 動物も同じ…。
お稲荷さん…という白狐の神さまが居るけど…イナゴでさえ神さまだった。

知ってる…? 蝗神さん…。  

 この神さまが通ると蝗の害に遭って稲が育たない…そんな話が確か…中国にあったような記憶がある。

 自分の幼い頃は…年寄も若い人もそして子供も…よく手を合わせた。
頂きます…ご馳走さまだけじゃないよ…。

 道端の小さな塚やお地蔵さんにも…見落としそうな小さなお社にも…。
通りすがりにちょっと手を合わせて拝む…。  

 何か良いことがあったお礼じゃない…。
お願い事でもない…。
 あっ…勿論…そういう場合もないわけじゃないけど…特別に何があるというわけでもなく拝んでいた…。  

 思うに…今そこに生きていること…自分たちが見えない力に護られていること…そういったことに無為に日々感謝していたのではないかな…。
ごく当たり前に…自然に…。

 ほら…受験の神さまにお願いしますって…畏まって手を合わせるでしょ…。
或いは…病気が治りますように…とか…想いが届きますようにとか…。
そんなふうに構えてではなくて…ね。  

 自分のお祖母ちゃんたちの世代までは…そうだったね…。
今はお年寄たちも…それほど…形無きものに手を合わせなくなってしまったな…。
お寺や神社…お仏壇…そういった形のはっきりしているものは別としてね…。

 昔住んでいた町の公設市場のある商店街には…通りの中辺りに大人の腕で抱えきれそうなほど…本当に見落としそうな社みたいなものがあって…その前には小さな引き戸つきの蝋燭立てが設えてあった。  

 お祖母ちゃんについて公設へ行く時は…大抵…そこで拝んでいた。
おそらく…小学校へ上がったかそれ以前くらいのことだったと思う…。

 自分はそのお社の中に何が入っているのか…いつも知りたかった…。
通るたびに覗いてみたいと思っていた…。
けれど…お社はほとんど扉が閉ざされてあって…中を見ることはできなかった。

何なんだろうな…?
お祖母ちゃんが拝んでいるもの…。
観音さまか…仏さまか…神さまのお札か…。 

 そんな幼い頃のことだから…神も仏もごっちゃごちゃ…。
とにかく大人が拝んでいるものの正体が見てみたいという好奇心だけだった…。

 そんなある日…やはり公設へ行く途中のこと…。
自分ではひとりきりの買い物だったような気もするのだが…そんな小さい時に遠い公設までひとりで行くことはなかったので…誰かと一緒だったのかも知れない…。

なんと…お社の扉が開いていた…。 

 誰かが閉め忘れたのか…それとも珍しく御開帳の日だったのか…。
何れにせよ…この扉が開いているのを見たのはこれが初めてだった…。

 恐る恐る覗き込むと…中には小さな白い蛇の置物があった…。
女の人の握りこぶしほどの小さな蛇は…赤い目…赤い口でトグロを巻いていた。
金で縁取りをしてあったような記憶もあるが…すべては夢の中のようにしか思い出せない…。 

白い蛇…。
そんなものが本当に居るんだろうか…?

 怖いとか…薄気味悪いとか…そんな気持ちじゃなくて…不思議な感覚だった…。
どこかに居るなら…見てみたい…。
そう思った…。 

 その記憶は消えなかった…。
お社の形やその周りの風景なんかはまったく記憶に残っていないのに…。

 その年だったか…次の年だったか…たくさん雨が降った日…小学校の鯉の池の前で蛇が死んでいた。
一本の紐のようにうねうねと伸びて…動かなかった。 

真っ白い蛇…。

白い蛇…本当に居たんだ…。

驚きと不思議…。  

それは…二度起きた…。
卒業の年…また蛇は死んでいた…。

白い蛇…。

 後から思えば…それは別段不思議なことでもない自然現象だったのだが…あのお社の記憶と重なって…今に至っている。

白い蛇を祀った神社が日本のあちらこちらに存在すると知ったのは…それから随分後のことだった…。

おぼろげな…記憶中の…はっきりとした白いとぐろ…。
今も鮮明に残っている…。