目の前で起こったことをすぐには理解できずに…西沢たちは呆気に取られた。
それぞれの組織の中で、そして家門の中で、トップクラスの彼等をして途方に暮れるほどの難題を…ノエルがあっさりと片付けた…。
「頭…固過ぎんだよ…。 紫苑さんも金井さんも…。 」
言葉もない男たちを見ながら…如何にも可笑しそうにノエルは笑った。
「添田さんが潜在記憶を消したはずだ…と頭から思い込んでいるから…話が妙な方向へ進んじゃうんだ…。
確かに一度は消したかもしれないけど…そんなもんすぐに復活する…。
磯見の中にはまだ潜在記憶が残っていて…磯見はその記憶の中で暴れてたんだよ。
奴等はそれを具現化して利用したのさ…。
磯見にとっては夢を見ているようなものだから…ちょっと誘導すれば…奴等の思いのままに動いてくれる。
お伽さまが言ったでしょ…。 夢を操る力に似ているって…。
紫苑さんたら…これはDNAの仕業で潜在記憶は完全に消えることはない…ってちゃんと自分で説明しておきながら…わざわざ話を難しい方へ持ってっちゃうんだもん…。 」
そう言われて西沢は…仰るとおりで…と頭を掻いた。
いや…確かに…と金井も苦笑した…。
「やれやれ…ノエルに一本取られたぜ…。 なるほど…思い込みか…。
頭が固いのは…おじさんになった証拠かな…。 」
おまえと一緒にするなよ…と西沢は滝川を睨んだ…。
いや…それも一理ある…って…人間三十路を越えるとなぁ…。
とうに越えている金井が、如何にも納得したように頷きながら憤慨する西沢の顔を見た。
三十路…そいつぁ聞きたくねぇ~。
ノエルは腹を抱えて笑い転げた。
磯見が完全に眼を覚ました。
勿論…自分のしたことは何ひとつ覚えてはいない…。
それがせめてもの救いだ…と添田は思った。
「申しわけないことです…。 私がもっと気をつけていればこんなことには…。
まさか…消したばかりの潜在記憶が…これほど簡単に復活しているなんて考えもしなかったもので…。 」
添田は自分の不注意が西沢たちの誤った判断を招いた…とでも思ったのか…ひどく責任を感じているようだった。
確認不足による初歩的なミス…そう恥じているようでもあった…。
「ノエル…紫苑たちが間違っていた…というわけではないのですよ…。
あなたは思いつきでよく考えもせずに動く傾向があるけれど…それは大変危険なことなのです…。
時には今回のように行き詰まりを解くこともできるでしょうが…失敗した時の代償はその分大きい…。
たまたま成功したからいいようなものの…あなたは行動する前に皆に相談するべきでしたね…。 」
穏やかに微笑みながらも…お伽さまはそうノエルに釘を差した。
あ~ぁ…叱られちゃった…ノエルはペロッと舌を出した。
辺りが静けさを取り戻しても…宗主の瞑想は終わらなかった。
迫り来る新たな危険を察知していた…。
「相庭さん…あんたは…どう見るね…? 」
玲人と連絡を取っていた相庭に有が訊ねた…。
「ぎりぎりのところに来ているんだ…。 暴走は避けられまいね…。 」
まあ…普通の人たちに被害が及ばなければ何とでもなることだが…と相庭は答えた…。
「御使者もエージェントもこの地域一帯を巡回している…。
最悪の場合でも…できるだけ被害を最低限に止めるように尽力する…。
すでに祥さんも何らかの手を打っているはずだ…。
祥さんたちにとっては初仕事だから…多少…手間取るかもしれないが…ね。 」
それも…多分…フォローできるだろう…と有は言った。
祥さんのことだから…こちらもそれほど心配はしていないんだよ…。
智明の知らせを受けて…裁定人の宗主は裁断を下した…。
もし…実際に魔物が目覚めるようなことになれば…重罪人として直ちに奴等をこの国から追放する…。
従わぬ場合は如何なる結果を招こうと文句は言わせぬ…そう宣言した…。
裁定人の裁断…奇しくも新しい組織が産声を上げたこの時に…裁きの一族もまた…その長きに亘る沈黙を破ることになる…。
瞑想したままの宗主を見つめながら…有は何かしら運命的なものを感じていた…。
海外で起こった事件も…磯見が利用されていたことを思えば納得がいく…。
磯見はスタッフだから簡単に撮影現場の情報を入手できる…。
その場所に磯見自身が細工をすれば…三宅の時と同じ効果が得られるわけで…如何にも世界各国で事件が起きているように見せかけることができる…。
けれど…何故…?
奴等は何故…そうまでしてこの国を狙うのか…?
この国にいったい何があるというのだろう…?
磯見のことが解決しても…西沢の中の疑問は膨れ上がるばかり…。
それはまあ…それとして…添田も磯見もこれで奴等から解放されるだろう…。
疑問もそのうちには…解けるだろうし…。
お伽さまの希望で…添田がお伽さまを本家に送り届けることになったので…西沢たちは一足先に添田の屋敷を出ることにした。
それではまた…とお伽さまは…あの優しい笑顔で皆を送り出した…。
添田も磯見も改めて何度も礼を言った…。
西沢たちが添田の屋敷を後にして…ほんの数秒…辺りに轟音が響き渡った…。
振り返った西沢たちの眼に映ったのは…黒々と渦巻く煙と紅蓮の炎に包まれた屋敷の姿だった…。
なんてことを…。
急ぎ…屋敷の方へ戻ったものの…何かの爆発物による出火らしく…すでにありとあらゆるところから火を噴いていて…如何な彼等と言えど…最早…屋敷の中へは立ち入ることができなかった…。
お伽さまぁ!
悲鳴にも似た声でノエルが叫んだ。
なす術もなく…立ち竦むばかり…。 金井が頭を抱えた…。
お伽さま…添田…磯見…。
西沢は身動ぎもせず…炎を見つめている…。
まるで…感情など消し飛んでしまったかのように…。
お伽さま…を…あのお優しいお伽さまを…なぜ…?
西沢の中で何かが砕け散る音が聞こえた…。
少なくとも滝川には…はっきりと…。
封印の鎖が…解かれた…。
今…西沢の背中で…自由を得た漆黒の翼が羽ばたきだす…。
それは…天使のもの…ではない…。
遠い昔から…主流の血のみに受け継がれてきた冥府の翼…。
宗主の一族が裁定人と呼ばれる所以…。
もう…だめだ…。
こうなったら…誰にも止められない…。
万事休す…。
相庭の献身も滝川の努力もすべてが水泡に帰した。
とにかく…どうにかして無関係な人を巻き込まないようにしなきゃ…。
ノエルも金井も…広げられた翼を見ることは出来ない…。
しかし…西沢の周囲に漂うこれまでにない冷気に思わずぞっとした。
透明…静寂…それ以外に感じられるものは何もない…。
不意に西沢が動き出した。
引き寄せられるように赤々と燃える屋敷の方へと近付いていく…。
「だめ…紫苑さん! 危ないよ! 」
西沢を止めようとノエルは前に立ちはだかった…が…西沢の凍りつくような冷たい表情を眼にして思わず退いた。
西沢はまっすぐ屋敷へ向かう…。
炎の中に飛び込まんばかりに進んで…両手を広げた…。
ほんの一瞬…気が揺らいだ…ように感じられた。
炎に包まれていた添田の屋敷は微塵に吹っ飛び跡形もなくなった…。
そう…消えてしまった…灰塵と化して…。
ノエルも金井も眼の前で起きた信じ難い現象に言葉を失くした。
まだ形あるものが瞬時に消えた…。
炎の痕跡さえ残さずに…。
この世界に目覚めたばかりのノエルはともかく…この世界に育った金井でさえも未だかつて眼にしたことのない凄まじい力…。
しかも…どうやら西沢の状態は普通ではないように見受けられる…。
じっと何かを探り…まるで獲物を狙ってでもいるかのようだ…。
「紫苑は…完全に切れている…。
ノエル…金井…何があっても絶対に手を出しちゃいけないぞ…。
さっきだって十分危なかったんだよ…ノエル…。
今の紫苑にはそれが善意かどうかなんて判別できないんだ…。
向かってくるものはみんな敵…消滅させてしまうから…。 」
西沢を止めに入る可能性のあるふたりに…滝川は注意を促した…。
そんな馬鹿な…とノエルは思った…。
紫苑さんが…僕を判別できないなんて…。
切なげな眼で西沢を見上げた…。
西沢はまだ屋敷跡に眼を向けている…。
感情のない仮面のような顔…。
金井が小さく声を上げた…。
滝川もノエルも思わず身構えた…。
ぼんやりと…人影が見える…。 それも…ひとりやふたりではない…。
だんだんに姿がはっきりしてくると…それらが雑多な人種の集まりであることが分かった…。
さも愉快そうに笑い声を上げ…西沢の方を見つめている…。
「ショーン…。 とうとう…罠にかかったな…。
美しい魔物…おまえを手に入れるために…どれほどの年月を費やしたことか…。」
独特の訛りのある言葉で…あの料理店の男が語りかけた…。
「核爆弾より…はるかに安全で複雑な装置も大掛かりな設備も必要としない…。
破壊力も抜群…まさに最強の生物兵器…。
化学兵器よりもはるかに経費がかからないのもメリット…。 」
HISTORIAN…御一行か…。
愚か者め…そう簡単に紫苑を動かせると思うなよ…。
滝川は腹の中で…そう呟いた…。
男の話を聞いているのかいないのか…西沢はまったく表情を変えない…。
冷たい仮面のままで…じっと男の方を見ている…。
封印を解かれた魔物の胸の内は…誰にも掴めない…。
次回へ
それぞれの組織の中で、そして家門の中で、トップクラスの彼等をして途方に暮れるほどの難題を…ノエルがあっさりと片付けた…。
「頭…固過ぎんだよ…。 紫苑さんも金井さんも…。 」
言葉もない男たちを見ながら…如何にも可笑しそうにノエルは笑った。
「添田さんが潜在記憶を消したはずだ…と頭から思い込んでいるから…話が妙な方向へ進んじゃうんだ…。
確かに一度は消したかもしれないけど…そんなもんすぐに復活する…。
磯見の中にはまだ潜在記憶が残っていて…磯見はその記憶の中で暴れてたんだよ。
奴等はそれを具現化して利用したのさ…。
磯見にとっては夢を見ているようなものだから…ちょっと誘導すれば…奴等の思いのままに動いてくれる。
お伽さまが言ったでしょ…。 夢を操る力に似ているって…。
紫苑さんたら…これはDNAの仕業で潜在記憶は完全に消えることはない…ってちゃんと自分で説明しておきながら…わざわざ話を難しい方へ持ってっちゃうんだもん…。 」
そう言われて西沢は…仰るとおりで…と頭を掻いた。
いや…確かに…と金井も苦笑した…。
「やれやれ…ノエルに一本取られたぜ…。 なるほど…思い込みか…。
頭が固いのは…おじさんになった証拠かな…。 」
おまえと一緒にするなよ…と西沢は滝川を睨んだ…。
いや…それも一理ある…って…人間三十路を越えるとなぁ…。
とうに越えている金井が、如何にも納得したように頷きながら憤慨する西沢の顔を見た。
三十路…そいつぁ聞きたくねぇ~。
ノエルは腹を抱えて笑い転げた。
磯見が完全に眼を覚ました。
勿論…自分のしたことは何ひとつ覚えてはいない…。
それがせめてもの救いだ…と添田は思った。
「申しわけないことです…。 私がもっと気をつけていればこんなことには…。
まさか…消したばかりの潜在記憶が…これほど簡単に復活しているなんて考えもしなかったもので…。 」
添田は自分の不注意が西沢たちの誤った判断を招いた…とでも思ったのか…ひどく責任を感じているようだった。
確認不足による初歩的なミス…そう恥じているようでもあった…。
「ノエル…紫苑たちが間違っていた…というわけではないのですよ…。
あなたは思いつきでよく考えもせずに動く傾向があるけれど…それは大変危険なことなのです…。
時には今回のように行き詰まりを解くこともできるでしょうが…失敗した時の代償はその分大きい…。
たまたま成功したからいいようなものの…あなたは行動する前に皆に相談するべきでしたね…。 」
穏やかに微笑みながらも…お伽さまはそうノエルに釘を差した。
あ~ぁ…叱られちゃった…ノエルはペロッと舌を出した。
辺りが静けさを取り戻しても…宗主の瞑想は終わらなかった。
迫り来る新たな危険を察知していた…。
「相庭さん…あんたは…どう見るね…? 」
玲人と連絡を取っていた相庭に有が訊ねた…。
「ぎりぎりのところに来ているんだ…。 暴走は避けられまいね…。 」
まあ…普通の人たちに被害が及ばなければ何とでもなることだが…と相庭は答えた…。
「御使者もエージェントもこの地域一帯を巡回している…。
最悪の場合でも…できるだけ被害を最低限に止めるように尽力する…。
すでに祥さんも何らかの手を打っているはずだ…。
祥さんたちにとっては初仕事だから…多少…手間取るかもしれないが…ね。 」
それも…多分…フォローできるだろう…と有は言った。
祥さんのことだから…こちらもそれほど心配はしていないんだよ…。
智明の知らせを受けて…裁定人の宗主は裁断を下した…。
もし…実際に魔物が目覚めるようなことになれば…重罪人として直ちに奴等をこの国から追放する…。
従わぬ場合は如何なる結果を招こうと文句は言わせぬ…そう宣言した…。
裁定人の裁断…奇しくも新しい組織が産声を上げたこの時に…裁きの一族もまた…その長きに亘る沈黙を破ることになる…。
瞑想したままの宗主を見つめながら…有は何かしら運命的なものを感じていた…。
海外で起こった事件も…磯見が利用されていたことを思えば納得がいく…。
磯見はスタッフだから簡単に撮影現場の情報を入手できる…。
その場所に磯見自身が細工をすれば…三宅の時と同じ効果が得られるわけで…如何にも世界各国で事件が起きているように見せかけることができる…。
けれど…何故…?
奴等は何故…そうまでしてこの国を狙うのか…?
この国にいったい何があるというのだろう…?
磯見のことが解決しても…西沢の中の疑問は膨れ上がるばかり…。
それはまあ…それとして…添田も磯見もこれで奴等から解放されるだろう…。
疑問もそのうちには…解けるだろうし…。
お伽さまの希望で…添田がお伽さまを本家に送り届けることになったので…西沢たちは一足先に添田の屋敷を出ることにした。
それではまた…とお伽さまは…あの優しい笑顔で皆を送り出した…。
添田も磯見も改めて何度も礼を言った…。
西沢たちが添田の屋敷を後にして…ほんの数秒…辺りに轟音が響き渡った…。
振り返った西沢たちの眼に映ったのは…黒々と渦巻く煙と紅蓮の炎に包まれた屋敷の姿だった…。
なんてことを…。
急ぎ…屋敷の方へ戻ったものの…何かの爆発物による出火らしく…すでにありとあらゆるところから火を噴いていて…如何な彼等と言えど…最早…屋敷の中へは立ち入ることができなかった…。
お伽さまぁ!
悲鳴にも似た声でノエルが叫んだ。
なす術もなく…立ち竦むばかり…。 金井が頭を抱えた…。
お伽さま…添田…磯見…。
西沢は身動ぎもせず…炎を見つめている…。
まるで…感情など消し飛んでしまったかのように…。
お伽さま…を…あのお優しいお伽さまを…なぜ…?
西沢の中で何かが砕け散る音が聞こえた…。
少なくとも滝川には…はっきりと…。
封印の鎖が…解かれた…。
今…西沢の背中で…自由を得た漆黒の翼が羽ばたきだす…。
それは…天使のもの…ではない…。
遠い昔から…主流の血のみに受け継がれてきた冥府の翼…。
宗主の一族が裁定人と呼ばれる所以…。
もう…だめだ…。
こうなったら…誰にも止められない…。
万事休す…。
相庭の献身も滝川の努力もすべてが水泡に帰した。
とにかく…どうにかして無関係な人を巻き込まないようにしなきゃ…。
ノエルも金井も…広げられた翼を見ることは出来ない…。
しかし…西沢の周囲に漂うこれまでにない冷気に思わずぞっとした。
透明…静寂…それ以外に感じられるものは何もない…。
不意に西沢が動き出した。
引き寄せられるように赤々と燃える屋敷の方へと近付いていく…。
「だめ…紫苑さん! 危ないよ! 」
西沢を止めようとノエルは前に立ちはだかった…が…西沢の凍りつくような冷たい表情を眼にして思わず退いた。
西沢はまっすぐ屋敷へ向かう…。
炎の中に飛び込まんばかりに進んで…両手を広げた…。
ほんの一瞬…気が揺らいだ…ように感じられた。
炎に包まれていた添田の屋敷は微塵に吹っ飛び跡形もなくなった…。
そう…消えてしまった…灰塵と化して…。
ノエルも金井も眼の前で起きた信じ難い現象に言葉を失くした。
まだ形あるものが瞬時に消えた…。
炎の痕跡さえ残さずに…。
この世界に目覚めたばかりのノエルはともかく…この世界に育った金井でさえも未だかつて眼にしたことのない凄まじい力…。
しかも…どうやら西沢の状態は普通ではないように見受けられる…。
じっと何かを探り…まるで獲物を狙ってでもいるかのようだ…。
「紫苑は…完全に切れている…。
ノエル…金井…何があっても絶対に手を出しちゃいけないぞ…。
さっきだって十分危なかったんだよ…ノエル…。
今の紫苑にはそれが善意かどうかなんて判別できないんだ…。
向かってくるものはみんな敵…消滅させてしまうから…。 」
西沢を止めに入る可能性のあるふたりに…滝川は注意を促した…。
そんな馬鹿な…とノエルは思った…。
紫苑さんが…僕を判別できないなんて…。
切なげな眼で西沢を見上げた…。
西沢はまだ屋敷跡に眼を向けている…。
感情のない仮面のような顔…。
金井が小さく声を上げた…。
滝川もノエルも思わず身構えた…。
ぼんやりと…人影が見える…。 それも…ひとりやふたりではない…。
だんだんに姿がはっきりしてくると…それらが雑多な人種の集まりであることが分かった…。
さも愉快そうに笑い声を上げ…西沢の方を見つめている…。
「ショーン…。 とうとう…罠にかかったな…。
美しい魔物…おまえを手に入れるために…どれほどの年月を費やしたことか…。」
独特の訛りのある言葉で…あの料理店の男が語りかけた…。
「核爆弾より…はるかに安全で複雑な装置も大掛かりな設備も必要としない…。
破壊力も抜群…まさに最強の生物兵器…。
化学兵器よりもはるかに経費がかからないのもメリット…。 」
HISTORIAN…御一行か…。
愚か者め…そう簡単に紫苑を動かせると思うなよ…。
滝川は腹の中で…そう呟いた…。
男の話を聞いているのかいないのか…西沢はまったく表情を変えない…。
冷たい仮面のままで…じっと男の方を見ている…。
封印を解かれた魔物の胸の内は…誰にも掴めない…。
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