家の裏手に広がる丘陵地帯の森の中を親父がゆっくり歩いて行く…。
ゴム長の靴を履いて…。
その後を黙ってついて行く自分が居る…。
思い返してみれば…親父と自分は…取り立てて仲の良い親子ではなかった。
ぶつかることもしばしば…意見の合うことなど滅多にない。
それでもよく連れ立って森を歩いた…。
並んで歩くわけではなく…話をするわけでもない…。
ただ…森の中を…黙々と歩く…。
親父がそこで何を想い…何を見ていたのかは分からないが…背中を見れば…頗る上機嫌なのが手に取るように分かる…。
森の細い道を行く…上ったり…下ったり…時には藪を掻き分けて…。
何処へ行こうという目的があるわけでもなく…何を見ようというわけでもなく…。
腰に下げた手ぬぐいがぶらぶらと揺れる…。
鳥の声…樹木と土の湿った香り…見失いそうな細流の音…。
背中が見えるほどの距離…それが親父と自分の距離…。
不意に小さな鳥が舞い降りた…。
親父の背中と自分との間の…ちょうど中くらいのところに…。
瑠璃色の鳥…見たことのない羽の色…。
青い…などと…ひと言では表現できないその…鮮やかな色…。
何度もここへは来ているけれど…初めて…森の宝石を見た…。
親父に声をかけようとした時…鳥は…ぱさっと飛び立った。
あっという間に藪の向こうへと消えていった…。
何故か急いで…親父の後を追い…今見た鳥の話をした。
瑠璃色の鳥が居たよ…とひと言だけ…。
親父は嬉しそうな顔をして辺りを見回しながら…俺も前に見たよ…と答えた…。
それ以上…話すこともなく…また…黙々と歩いた…。
背中の見える距離を保ちながら…。
親父と自分にとって…これが快適な距離なのだろう…。
瑠璃色の鳥を見たというような…ほんの一瞬の体験を…時に共有しながらも…。
オオルリ…コルリ…のように黒いところがなかったから…あれはルリビタキだったのだろうと…今になって思う…。
遠い記憶の中のことだから…それも…当てにはできないなぁ…。
いつも間にか…森も林もなくなって…ただ人が居るだけだ…。
気軽に自然の中を散策することもなくなってしまった…。
今は…自分の住む町の川沿いを…水鳥を眺めながら…ひとり歩く…。
あの背中を見ることは…もう二度とは…ないのだけれど…。
ゴム長の靴を履いて…。
その後を黙ってついて行く自分が居る…。
思い返してみれば…親父と自分は…取り立てて仲の良い親子ではなかった。
ぶつかることもしばしば…意見の合うことなど滅多にない。
それでもよく連れ立って森を歩いた…。
並んで歩くわけではなく…話をするわけでもない…。
ただ…森の中を…黙々と歩く…。
親父がそこで何を想い…何を見ていたのかは分からないが…背中を見れば…頗る上機嫌なのが手に取るように分かる…。
森の細い道を行く…上ったり…下ったり…時には藪を掻き分けて…。
何処へ行こうという目的があるわけでもなく…何を見ようというわけでもなく…。
腰に下げた手ぬぐいがぶらぶらと揺れる…。
鳥の声…樹木と土の湿った香り…見失いそうな細流の音…。
背中が見えるほどの距離…それが親父と自分の距離…。
不意に小さな鳥が舞い降りた…。
親父の背中と自分との間の…ちょうど中くらいのところに…。
瑠璃色の鳥…見たことのない羽の色…。
青い…などと…ひと言では表現できないその…鮮やかな色…。
何度もここへは来ているけれど…初めて…森の宝石を見た…。
親父に声をかけようとした時…鳥は…ぱさっと飛び立った。
あっという間に藪の向こうへと消えていった…。
何故か急いで…親父の後を追い…今見た鳥の話をした。
瑠璃色の鳥が居たよ…とひと言だけ…。
親父は嬉しそうな顔をして辺りを見回しながら…俺も前に見たよ…と答えた…。
それ以上…話すこともなく…また…黙々と歩いた…。
背中の見える距離を保ちながら…。
親父と自分にとって…これが快適な距離なのだろう…。
瑠璃色の鳥を見たというような…ほんの一瞬の体験を…時に共有しながらも…。
オオルリ…コルリ…のように黒いところがなかったから…あれはルリビタキだったのだろうと…今になって思う…。
遠い記憶の中のことだから…それも…当てにはできないなぁ…。
いつも間にか…森も林もなくなって…ただ人が居るだけだ…。
気軽に自然の中を散策することもなくなってしまった…。
今は…自分の住む町の川沿いを…水鳥を眺めながら…ひとり歩く…。
あの背中を見ることは…もう二度とは…ないのだけれど…。