徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第百三話 闇の翼)

2006-11-29 17:17:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 子安さまのふわふわと柔らかそうな手がリズミカルに動いて…子供たちのチョッキらしいものを編み上げていく…。
その淀みない動きを見つめていると…思わず知らず眠りの世界に引き込まれてしまう…。
身体がガクンッと傾いた勢いで…輝ははっと眼を覚ました…。

 お休み…の時間になっても吾蘭は押し黙ったままで…身動きもせず…じっと何かを見つめている…。
子安さまが宥め賺して食事を取らせ…何とかいつもどおり風呂へ入れたが…ひと言も口を利かない…。

 子安さまも北殿も…別段…それをおかしいとは思わないようで…吾蘭の好きなようにさせている…。
来人は…吾蘭のような妙な行動はとらず…絢人とじゃれあって遊んでいる…。
そろそろ…お眠…。

 不意に吾蘭が顔をあげた…。
幼児とは思えないような険しい眼をして…宙を見つめている…。
異変を感じているのか…異変が起きているのか…は定かではない…。。

 「おやおや…可愛い羽が…。 この子も…間違いなく裁定人…。 」

 吾蘭の背中にちょこんとふたつ…並んで見える小さなグレーの羽…。 
子安さまがにっこりと微笑んだ…。

 「覚醒…したのね…。 王弟の記憶が察知したようだわ…。
上手くコントロールできるといいんだけど…ね…。

 気をつけて…アラン自身にも何か…変化があるかも知れないわ…。
大人なら問題ないけれど…幼児は影響を受けやすいから…。 

クルトのプログラムは…全然…働いてないのかしら…。 」

北殿が訊くと子安さまは来人の方に眼を向けた…。

 「そうですねぇ…。 まだ…何とも…。 」

眠そうに眼を擦っている来人は特には何も感じていないようだ…。
なんと言ってもまだ…赤ちゃんですからねぇ…と子安さまは答えた。

何の話をしているのかしら…?

輝は理解に苦しんだ…。

 羽だのなんだの…わけの分からないことばかり…。
アランに羽なんかついてないわよ…。
覚醒って…何が覚醒したっていうの…?

 如何にリーディングに長けた輝でも…宗主の家族が相手となると…そう簡単には情報を読み取ることができない…。
輝の知らないところで何か大きな動きがあったに違いないが…それについては誰からも聞かされることはなかった。



 「さあ…ショーン…。 思いっきり暴れるがいい…。 」

男は…西沢に向かってそう語りかけた…。
まるで自分の飼っている犬にでも命令するかのように…。

 聞いているのかいないのか…西沢はゆっくりと彼等の方へ近付いた。
滝川には…背中の黒い翼が自由を確かめるように羽ばたいているのが分かる…。
さて…どうするか…広げるのは簡単だけど…収めるのは難しいんだから…あの羽。

 「おい…HISTORIAN…逃げた方がいいぞ…。 」

 忠告してはみたが…男たちは答えもせずに…ただ…へらへらと小馬鹿にしたような笑みを浮かべているばかりだった。

 普段の紫苑とは…まったく別人なんだってことが…判らないようだな…。
仕方がないなぁ…というように滝川は溜息を吐いた。
 
 「紫苑…手加減しろよ…。 相手は人間なんだから…。 」

 西沢はチラッと滝川を見たが…すぐに男たちの方に眼を向けた。
無言のまま…更に近付く…。 
 
 突然…男たちが奇妙な声をあげ…視界から消えた…。
笑っている彼等の足元にあったはずの地面が瞬時に陥没し…彼等を飲み込んだ。
 いや…よくよく見れば…陥没したのではなく…その部分が抉り取られ…宙に浮いていた。
落ちたのは彼等の身体だけ…。

 埋める気だ…とノエルが呟いた。
金井は言葉も無く頷いた。
お伽さまへの攻撃は西沢の頭から堪忍の二の字を消し去ったらしい。

 「ショーンとは誰だ…? 」

 表情のない顔で西沢が穴を覗き込んだ。
さすがに能力者である男たちに怪我はないようだったが…自分たちの頭の上の不気味な土の塊を驚いたように見上げていた。

 「俺はシオンだ…。 よく覚えておけ…! 」

 土の塊が雨霰と彼等を目がけて一気に降り注いだ。
本気だと悟った男たちは慌てて穴を飛び出した。

 「外れた…か…。 」

西沢の唇が冷たい笑みに歪んだ…。
 屋敷を囲む木々や…焼け残った古い納屋の陰に男たちはかろうじて身を潜めた。
彼等の西沢を見る目が変わった…。
ようやく身の危険を感じ始めたようだ…。

 「無駄だ…。 分かってるだろう…? 」

納屋はあっという間に粉微塵になった。 隠れていた者が転がり出てきた。
能力者相手に隠れるという行為は何の意味も持たない…。
それでも身を隠そうとするのは…自己防衛の本能が働くからだろうか…。

 添田の屋敷は住宅地から少し離れた丘の中腹にあるが…西沢の力を考えれば…町全体が危険地帯…付近には民家も点在する…。

 今の西沢には敵と見做したHISTORIANの姿しか見えていない…。
民家であろうとなかろうと邪魔なものは全部破壊し尽くすだろう…。
誰かが気付いて…防御しておいてくれると助かるんだが…と滝川は思った。

 ふいに背後から異様な気配が忍び寄ってくるのを感じ取った。
それはノエルも金井も同じだった。

眼の前の見慣れたHISTORIANたちとはレベルの違う…大きな気配…。

 これは…これは以前…ノエルを媒介にした者の気配だ…。
ノエルを通じて西沢と対話したHISTORIANのボス…或いは…幹部…。
別の連中が現れた…と紫苑が言っていたが…奴もこの国に来ていたのか…。

 滝川はノエルが初めてふたり組みに襲われた夜の出来事を思い出した。
かなり遠方からのコンタクトで…滝川には気配を読み取るのがやっとだった…。
それでも…あの気配を忘れてはいない…。 

 親玉の気配だけではない…。
HISTORIANと思われる何人もの気配が町のあちらこちらに漂っていた…。
おそらくは…この国に潜入していた仲間を呼び集めたに違いない…。
まるで紫苑が封印を解く瞬間を待っていたかのようだ…と滝川は思った。



 添田の住んでいる町を覆い始めた奇妙な気配に気付いて、周辺の町の能力者たちも警戒を強め、独自に動き始めていた。
いち早くそれを察した祥はすぐにすべての家門に対して協力を要請した。

 HISTORIANが本性を現したこと…不穏な気配は彼等のものであること…全体の防衛力が分散されてしまうのを防ぐため…常勤・非常勤を問わず連携組織職員は大至急支部へ集合すること…。
可能であれば…各家門の戦力の中からも協力者を向かわせて欲しい…と…。

祥の指令は各支部を通じてすべての家門に伝わり…それに応じて選り抜きの能力者たちが続々と支部に集まった。

 連携組織が未だ試験的な段階であるために、指令自体にそれほどの強制力がないにも関わらず、すんなりと協力を得られたのは、やはり総代である祥とその背景に控える執行部の面々の影響力がものを言った証だろう…。

 が…それだけではない…。
かつて…智明から熱心に説得された幾多の家門の長たちが智明への信義を貫いた結果でもある…。
祥はそのことも深く肝に銘じていた…。

智明と滝川一族の尽力で…所在が把握できる限りのフリーの能力者にも危急の事態が伝えられ…多くの能力者が協力を申し出た。

 本部では島田家の克彦が集まってきた能力者たちの陣頭指揮を執っていた。
克彦にとっても初めての経験だが…早くに島田の長老格になった男だけあってうろたえることもなく堂々と落ち着いた采配ぶり…。

 この事態にあって総代として忙しく立ち回りながらも、祥は絶えず新しい組織に査定の眼を向けていた。
これまでのところ…人事は…まずまずだな…と内心ほくそ笑んだ。



 須藤や田辺は本部へ向かい…紅村旭や花木桂は添田の町へと向かった。
西沢本家では祥に代わって怜雄が族長として動き…英武は高木家に詰めていた。
西沢との深い関わりのせいで…ノエルの家族は狙われる可能性があるからと…祥が警護するように言ってきたのだ…。
 
 勿論…御使者は総動員…仲根たち外勤組だけでなく…亮たち内勤組も戦闘能力系の者は外に出ていた。
添田の町へと向かった仲根と亮の許へ花園室長から不気味な連絡が入った。

 「お伽さまが連絡を絶たれてから…例の亀さんがまたご機嫌斜めらしいのよ。
つまり…ワクチン系…HISTORIAN系のプログラムを持つ人たちが発症する可能性が出てきたってこと…。

 亀さんの傍へ行かなけりゃ大丈夫かも知れないけれど…ひょっとしたら何か影響を受けている人たちも居るかもしれないから…注意してね…。 」

 参ったな…仲根は靴磨き用のブラシみたいな頭を掻いた。
発症者の記憶を消しながら戦わなきゃいけないってか…。

 「発症者は…取り敢えず…眠っていて貰いましょうよ…。
HISTORIANをどうにかする方が先だから…。
奴等がこんなにうじゃうじゃと我国に潜入しているとは思わなかったな…。 」

 亮がそう言うと…仲根は頷いて…そうだな…とうんざりしたように危険な空気の漂う町を見つめた。



 町の入り口辺りで一台の高級車が立ち往生していた。
周りを得体の知れない者たちが数人で取り囲み…動きが取れなくなっていた。

 高級車の行く手を妨害している者たち…それがHISTORIANでないことはすぐに分かった。
また…亀石の…仕業か…。 
玲人は即座にそう判断して…車内の人々を救出に向かった。

 玲人がひとりふたり…潜在記憶の消去をし終えたところで…運転席から祥ほどの年格好の男が外へ出てきた。

高倉…族長…? 
何で今頃…族長自らこんな最前線へ…?

 男は玲人に向かって軽く会釈をすると向かってきた数人の発症者を事も無げに片付けた。

 「族長…どうなさったんです…? 運転手もつけず…おひとりで…? 」

玲人が訊ねると…高倉族長は顔を曇らせた…。

 「つい先程…金井くんから執行部の方に知らせを貰ったんだ…。 
お伽さまと一緒に…添田くんと…うちの磯見が炎の中に消えてしまったと…。

 磯見は…私の息子…探しに来たのだよ…。
長いこと放っておいたので…せめて最後くらいは…と思って…な。 
立場も考えずに飛び出して来てしまった…。 」

 それなら…もう骨も残っていないだろう…とは…さすがに玲人も言えなかった。
族長の気持ちを思えば…何もかも塵と化したなんてことはこの場では伝えられない…。

 「最後だなんて縁起でもないですよ…。 」

そう話すのがやっとだった…。

 相庭との連絡でもその話は出たが…相庭は何も言わなかったから…本当のところ三人の行方は分からないままだ…。
ただ…お伽さまの気配が消えているのは事実で…それは玲人にも感じられた。

 気持ちは分かるが…高倉族長には執行部に戻って貰うしかない…。
玲人の一存でどうこうできる相手ではないから…宗主の名を出してでも…この場を退いて貰うしかなかった…。

 組織の重鎮を個人的な用件でこのまま先へ進ませるわけにはいかない…。
進めば何が起こるか分からない…。

この町はすでに…闇の中にあるのだから…。






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3 コメント

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違ってたらすんません! (ぴーすけ)
2006-11-29 20:35:40
この舞台の時代って
とても現代と過去を行き来しているような
イメージがぴーすけにはあるのですが…
色でいうと紺のイメージ!
たまに前にもどりつつ解読しています!!!!
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人は過去を引き摺って生きる…。 (dove-2)
2006-11-29 21:41:05
doveはそう考えるわけです。
家は伝統と歴史と慣習を…人は過去の体験を引き摺って生きています。

描きたいのは人の心の世界なので…それはその人の過去と切り離しては考えられないものだと思います。

今起きていることは…決して今だけのことではなく…過去に起こったことに起因している…。

だから…その点でいけば…ぴーすけさんの読みは正しい。
けれどもカラーはその時その時で変わるんですよ。

 忙しくて無理かもしれないけれど…よかったら太極伝の前の紫峰一族の話から読んで頂くと…主人公がどれほどのものを背負っているのか…少しだけ分かってもらえるかもしれません…。

ただし…こんなもんばかり書いているから…人妻紹介メールが届くんだ…って思われるかも知れない内容も無いわけではないんだけどね…。(^_^;)




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Unknown (ぴーすけ)
2006-11-30 12:30:19
いつも最初からまとめて読んでみよう!と
思いつつ「貧乏暇なし」でなかなか・・

でもあと一ヶ月でお正月休みになるし
そのときにTryしてみるつもりでーす☆

…人妻紹介・・ってまったく失礼しちゃうよねー
ぷんぷん
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