徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

雷魚でギョッ!

2006-11-03 17:24:24 | 生き物
 この町の川には両側に歩道が作られてあって、地域の人たちが気軽に散歩やジョギングを楽しめるようになっている。 
側面をコンクリートで固められては居るが川の中はまあまあ自然に近い状態だ。

 ごく稀に…重機が降りて川底を浚ったりすることもあるが…人間のすることなど何処吹く風…川はすぐにもとの姿に戻ってしまう。  

 流されてきた土や泥の溜まったところに州ができて…川の中の水草だけでなく葦や蒲の穂…ススキなどが生い茂り…他にも陸から落ちた種で雑多な植物が生育している…。
 向日葵…コスモス…ポピー…大きいものでは槿の木なども…自然生え。
台風などの大水で川底に沈んでしまっても…水が引くと復活してくる。

自然の生命力は凄い…。 

 ここは鳥たちの楽園でもある。 
カルガモやコガモの休息の場となり…川鵜…コサギやダイサギ…アオサギ…ゴイサギの餌場…時折…カワセミの漁場ともなる…。

 町中なのに蛇や蛙…亀が生息できるのもこの川の力だと思う…。
やっぱり水は生命の源なんだね…。  

勿論…魚もいろいろ…。  

 周りの人にはおかしな人に見られるかも知れないが…自分はこの散歩道を真っ直ぐ歩けない。
大人の肩ほどもある高さの金属の柵から川を覗き込んでは歩く…。
だって…面白いものがいっぱいあるから…。  

 すぐに目に付くのは尺ものの鯉…これはうじゃうじゃ居る。
生活用水の滲みこんだ川でよくここまで生きられると思うほどでかい…。
時々…大きな水音をたててはねる…。

 ぼらの稚魚も上ってくるし…でかい鯰も居る。
普段は浅い川だから…川に降りて観察すればもっといろいろな魚が居るのだろうが…この柵を越えたら怒られそうだ…。  


 それは去年の夏のこと…。
暑い中を川底を眺めながら歩いていると…葦原の影から斑の魚が現れた。
茶色の身体に黒の紋…ニシキヘビのような斑具合…。

雷魚だ…。  

エサを捕りに出てきたのかしばらくその辺りを泳ぎ回っていた。

へぇぇ…雷魚も居たんだ…。  

 鯰が何匹か居るのは知っていた。 けれど雷魚に気付いたのはそれが初めて…。
その日から気をつけて見ていると…二箇所から三箇所で異なった色目の雷魚を発見した。

雷魚と言えば…。  

 子供の頃…家から20分ほど歩いたところに大きな公園があって…時々家族で遊びに出かけた。
オトンの子供の頃にはすでにあったという古い公園で…今でも桜の季節や菖蒲の季節には人で賑わうところだ…。

 そこには大きなボート池の他に大小幾つかの池や蓮沼がある。
それを覗くのも楽しみだった。  

 その日は天気がよく…絶好の公園散策日和…。
いつものように池巡りをしていると…蓮沼の中のぽっかりと突き出た石の上に何か居る。

 渇いてへろっとしたそれは蛇のような顔をしているのに身体が短い。
それに魚みたいな形をしている。

雷魚だ…とオトンが言った。 
獰猛な魚だ…。

雷魚…? 
何で石の上に居るの? 
あんなとこに居ったら…死んどるだろ…? 

自分も弟たちもまだ幼かったから…雷魚なんてものを見たは初めてだった。
えらく不気味なやつだと思った。  

 誰かが釣り落としたんかもしれん…。
あれは結構しぶとい魚だからな…。

 オトンは古砂利を拾うと雷魚目掛けて投げた。
小石が池に落ちる音…雷魚はびくともしない…。 

やっぱり死んどるんか…?

そう思った途端…オトンの投げた小石が雷魚を直撃…雷魚堪らず大ジャンプ! 

あぁっ飛んだ!  

おわ~すげぇ!  

 それはもう…見事な助走抜きのハイ・ジャンプ…大人の身長より高く…高く…。
水面に達するまでの滞空時間の長いこと…。
大きな水飛沫を立てて雷魚は池へ飛び込むと凄い勢いで水底に消えた。

やっぱり…生きとったな…。
オトンはそう言って笑った。  

 雷魚は特殊な呼吸機能を持っているので2~3日なら水の外でも生きられる。
人間が外国から持ち込んだ生命力の強い魚で悪食で獰猛だ。
国内の弱い魚は下手をするとこいつに絶滅させられてしまう…。
 白身で食べ易いらしいが寄生虫がいっぱい居て…生では絶対食べられない魚。
中華料理なんかに使われるという…。

昼寝してただけかぁ~…とその時自分は思った。 

気持ちよく寝てたのにオトンに起こされたわけだ…。
お気の毒さま…。  

けど…あいつ…どうやって石の上にあがったんだろうな…? 

そう考えてから数十年…こうしてまた雷魚を見ている…わけだが…。

その謎は未だに解けない…。