玄関のドアを開けた途端、何となくいつもと違う雰囲気に有は一瞬戸惑った。
揃えられた靴はノエルのものではなく…明らかに女性のもの。
切れ切れに聞こえてくる声もノエルの声ではない。
そうか…とうとう…ノエルとはお別れか…。
ちょっと寂しい気もするが…仕方がない…なぁ…。
女性と顔を合わせるのも何なので…有は早々に自分の部屋に引き込んだ。
いつもなら…亮のお父さんお帰りなさい…とノエルの元気な声が聞こえるんだが…。
有はふうっと溜息をついた。
何だかつまらんな…ノエルが居らんと…。
ノエルは亮の心変わりをどう受け取っているんだろう…?
もともと…亮が恋人を見つけるまでの約束で亮の我儘に付き合っててくれただけなんだが…それでもなあ…。
亮のやつ…ノエルにちゃんと謝ったんだろうな…。
随分ひどい想いもさせたんだし…自分に恋人ができたからって…はいさようならで済むことじゃないんだから…。
楽しそうな笑い声と玄関の鍵をかける音が響いて…どうやら亮は彼女を送って行ったようだ。
誰も居なくなった居間へ出てきて、また溜息をつきながらノエルにも渡すつもりだった菓子や小物などをテーブルに置いた。
コーヒーを沸かして、新聞を広げていると、思ったより早く亮が戻ってきた。
お相手さんは…ご近所さんか…ってことは多分…悦ちゃんだな…。
「あれ…帰ってたんだ…? 」
亮が驚いたような顔で有を見た。
ああ…と有は気のない返事をした。お邪魔なようなので…部屋に居たんだ。
俺の車の音にも気付かないほどお楽しみの最中に出てきちゃ具合悪いだろう…。
「何言ってんだか…。
あ…これノエルが好きなバターサンドだ…明日持ってってやろ…。
あいつ…妙な連中に襲われたんでしばらくこっちへ来れないんだよ…。
何か起こるといけないってんで…。 」
襲われたぁ…? 有が素っ頓狂な声を上げたので亮は瞬時固まった。
それで…それでノエルは…怪我でもしたのか…?
娘のことでも心配するような有の慌てぶりに亮は苦笑した。
「大丈夫…。 元気いっぱい…なんだけど…。
紫苑が言うには…襲ったやつらが何かノエルに細工していったんだって…。
その夜にも憑依されたような状態になったんで…またそうなるといけないから…。
当分…紫苑のマンションに居るんだ。 」
無事と聞いて有はほっと胸を撫で下ろした。
「そうか…それじゃ…またここへも戻ってくるのか…。 」
ちょっぴり嬉しそうに呟いた。
そのにやけた親父顔を呆れたように見つめながら…亮は肩をすくめた。
「当たり前じゃない…ノエルはもう…うちの家族みたいなもんだし…。
あいつ…まだ実家としっくりいってないから…この家と紫苑のマンション以外に居場所がないんだぜ。 」
それでも…いつまで居てくれるかは分からないけど…亮が何となく切なそうに言った。
ずっと居て欲しい…ここを居場所にして欲しいけど…所詮…ここはノエルにとっては仮の住いでしかない…。
「亮…まだ…ノエルが好きなのか? 」
有に問われて亮は軽く頷いた。
出会ってから一年近くも女の子だと思い込んで…両方だって分かってからも諦められなかったんだ…。
そう簡単に忘れられないよ…。
「でも…もう…僕の手から解放してやんなきゃいけないんだ。
僕がいつまでも甘えてちゃ…ノエルが可哀想だもの…。
あいつ…想う人が居るんだよ…。 」
ノエルの想う人…か…。
そのことに…心当たりがないわけではなかった。
実を言えば以前から…有だけでなく…ノエルに想いを寄せられている当の本人以外はみんなうすうす気付いていた。
けれども誰にもどうしようもないことだった。
言わない方がいい…知らない方がいい…それが周りの共通した意見だった。
多少時間がかかっても…ノエルの想いが自然に消えていくのを待つ…それしかないと…誰もが思っていた。
それから数日…学校生活でもバイト先でもこれという動きは見られなかった。
西沢が直接のコンタクトを望んだせいもあるかもしれないが、おそらくは自分たちの正体が露見することを懼れてのことだろう。
警告者たちが自分たちの存在をできるだけ他人に知られないようにしておきたいと考えているならば、同じ相手に何度も接近するのは危険なことだ。
相手から逆探知されないとも限らないし、何処の誰が脇から聞き耳を立てているやも知れない。
ノエルに遠方から思念を受け取らせた男は…おそらく海外から思念を飛ばしているのだと思われる。
遠距離間での不安定な交信で思わぬ不都合が起きないように、できるだけ交信相手を特定するため、わざわざノエルに目印をつけさせたに違いない。
何れにせよ…この国にも支部のようなものを置いていると考えてよく、そこからあちこちに警告書を送ったのだろう。
無論…この国だけではなく…口振りから察するに…世界中の能力者に宛てても警告はなされているはずである。
真面目に受け取った者が何人居るかは別として…。
「…じゃあ有理…ノエルを抱っこしてみて…捕まえちゃって。 」
小さな有理は一生懸命…爪先立ちで背を伸ばしてノエルの背中に飛びつく。
いくら小柄でもノエルは大人だから…抱っこしているというよりはおんぶされてるという形になりながらも有理はノエルにしがみ付いて…捕まえた…と可笑しそうにケラケラ笑う…。
捕まったぁ…と言いながらノエルも笑う。
笑いながらノエルを抱える有理の手を捕まえて引っ張り上げ肩車してやると、有理のご機嫌は急上昇。
立って…ノエル立って…とせがむ。
怜雄お父さんよりはずっと低いけれどそれでもノエルが立ち上がると大喜び。
ノエルに遊んで貰っているつもりの有理は瞬時もじっとしては居られないので、西沢の手が素早く動いてふたりの戯れる様子を描きとめていく。
年齢のわりに子どもっぽく見えるノエルを有理は恰好の遊び相手…と感じ取ったらしく、この部屋に来てからノエルの傍を片時も離れない。
他愛のない遊びを楽しげに繰り返すふたりを描きながら…時折…仕事であることも忘れてふたりの仕草に見入っていた。
チャイムが鳴って小学生の恵が弟の有理を迎えに来た。
マンションの正面玄関のところで西沢家のお手伝いさんが待っていることは分かっていたが…西沢はまるでひとりで迎えに来たかのように恵を褒めてやった。
偉いね…恵…お迎えご苦労さま…そう言って恵の頭を撫でた。
まだ遊び足りないのを我慢して有理はノエルに手をひかれて玄関へと出てきた。
ノエルの顔をチラッチラッと見上げている。
玄関でノエルはそっと腰を屈め…また遊ぼうね…と言いながら、有理の大事な玩具用バスケットを渡してやった。
ノエルまたね…と手を振ってお姉ちゃんに付いて帰って行った。
まめ台風が去った後は、しんと静かで何となく寂しい。
子どもってそこに居るだけですごいエナジーを発してるんだな…。
ずっと小さな子どもの居ない生活をしてきたノエルはしみじみそう感じた。
西沢が今さっき描いたデッサンを見直している間、モデルの仕事も暇になったノエルは何気なく仕事場のパソコンを開いた。
ホームページのニュース欄に入ってきた見出し…謎のカルト集団襲撃される…。
カルト集団か…どこかの国で集団自殺図ってえらい数の信者が死んだって話は聞いたことがあるけど…。
ノエルはその記事を開いてみた。
E国R通信によると…古くから謎のカルト集団として存在している『HISTORIAN』の本部が何者かに襲撃され…死傷者が多数出た…。
集団の活動は…宇宙の真の成り立ちと地球の隠された歴史を研究する目的が主で…云々…。
同集団は純粋に研究集団であるため他の集団とのトラブルは無かったので襲撃された理由は皆目見当がつかないと生き残った幹部は言っている…。
へぇ~…怖いね…。 こっちが何もしてなくても気にいらねぇって攻撃してくるやつもいるんだね…きっと。
「ねえ…紫苑さん…。 地球の隠された歴史って…なんだろうね? 」
ノエルは問いかけた。 さあね…そんな記事がでてる?
興味が湧いたのか西沢はパソコンを覗きこんだ。
しばらく…じっと記事を読んでいた西沢の表情が徐々に真剣なものになった。
「…ノエル…彼等かも知れない…。 確信はないが…。
もしそうなら…これ以上関わるのは危険だな…。
未だに何が起こっているのかさっぱり分からんから…対処のしようもないし…。」
こうなると彼等が警告書をばら撒いたことで、巻き添えを喰わされる羽目に陥る者が出てこないとも限らない。
西沢は少し考えてから急いで仕事部屋を出た。
何処かへ連絡をしているようだったが…ノエルには聞き取れなかった。
お疲れさま…の声とともに亮とノエルは連れ立って書店を後にした。
マンションの前を通り過ぎ…久々に亮の家へ帰る。
蒸し暑い夏の夜…散歩する人も疎ら…それでも時折…今晩は…と声をかけ合う。
いつものようにふざけ合いながら公園に差し掛かった時、ふいに公園の方から妙な叫び声が聞こえた。
暗くてよくは分からないが…誰かが襲い掛かられているようにも見える。
通りかかった人がすぐに警察に通報した。
他人が見ているところでは亮もノエルも力を使うわけにはいかないが…一方的に襲われている人を見て放っておけないのがノエルの性格…。
亮が止める間もなく飛び出していってしまった。
近くまで行ってノエルは一瞬たじろいだ。
襲われていたのは…この前ノエルに襲い掛かった外人さん…。
襲っているのは…?
突然…当て身を食らったように蹲ってノエルがその場に崩れ落ちた。
油断と言えば油断だが…ノエルが相手の顔を確認することもできないほど素早い動きだった。
次の攻撃を防ぐために亮がノエルの周りに障壁を張った。
ノエルと異なって亮は戦闘型の能力者だ。
相手の動きが素早いのではなく、受容能力の高いノエルが相手の攻撃をもろに受け取ってしまったことを見抜いた。
生まれて初めての大失敗ってところだな…ノエル…。
ほんと危ないったらありゃしない…。
近所の交番からお巡りさんが駆けつけてきた。
人目につくのを懼れたのか…襲撃者は慌ててその場を立ち去った。
関わり合いになるのを避けるために亮はノエルを抱き上げると自分とノエルの周りに新しい障壁を張り、闇に溶け込むように気配を消した。
使えるようになったばかりの能力は長くは持たない。
急いで来た道を退き帰した。
倒れている例の外人さんがお巡りさんに助けられて事情を訊かれているのを尻目に小走りに西沢のマンションへと戻った。
次回へ
揃えられた靴はノエルのものではなく…明らかに女性のもの。
切れ切れに聞こえてくる声もノエルの声ではない。
そうか…とうとう…ノエルとはお別れか…。
ちょっと寂しい気もするが…仕方がない…なぁ…。
女性と顔を合わせるのも何なので…有は早々に自分の部屋に引き込んだ。
いつもなら…亮のお父さんお帰りなさい…とノエルの元気な声が聞こえるんだが…。
有はふうっと溜息をついた。
何だかつまらんな…ノエルが居らんと…。
ノエルは亮の心変わりをどう受け取っているんだろう…?
もともと…亮が恋人を見つけるまでの約束で亮の我儘に付き合っててくれただけなんだが…それでもなあ…。
亮のやつ…ノエルにちゃんと謝ったんだろうな…。
随分ひどい想いもさせたんだし…自分に恋人ができたからって…はいさようならで済むことじゃないんだから…。
楽しそうな笑い声と玄関の鍵をかける音が響いて…どうやら亮は彼女を送って行ったようだ。
誰も居なくなった居間へ出てきて、また溜息をつきながらノエルにも渡すつもりだった菓子や小物などをテーブルに置いた。
コーヒーを沸かして、新聞を広げていると、思ったより早く亮が戻ってきた。
お相手さんは…ご近所さんか…ってことは多分…悦ちゃんだな…。
「あれ…帰ってたんだ…? 」
亮が驚いたような顔で有を見た。
ああ…と有は気のない返事をした。お邪魔なようなので…部屋に居たんだ。
俺の車の音にも気付かないほどお楽しみの最中に出てきちゃ具合悪いだろう…。
「何言ってんだか…。
あ…これノエルが好きなバターサンドだ…明日持ってってやろ…。
あいつ…妙な連中に襲われたんでしばらくこっちへ来れないんだよ…。
何か起こるといけないってんで…。 」
襲われたぁ…? 有が素っ頓狂な声を上げたので亮は瞬時固まった。
それで…それでノエルは…怪我でもしたのか…?
娘のことでも心配するような有の慌てぶりに亮は苦笑した。
「大丈夫…。 元気いっぱい…なんだけど…。
紫苑が言うには…襲ったやつらが何かノエルに細工していったんだって…。
その夜にも憑依されたような状態になったんで…またそうなるといけないから…。
当分…紫苑のマンションに居るんだ。 」
無事と聞いて有はほっと胸を撫で下ろした。
「そうか…それじゃ…またここへも戻ってくるのか…。 」
ちょっぴり嬉しそうに呟いた。
そのにやけた親父顔を呆れたように見つめながら…亮は肩をすくめた。
「当たり前じゃない…ノエルはもう…うちの家族みたいなもんだし…。
あいつ…まだ実家としっくりいってないから…この家と紫苑のマンション以外に居場所がないんだぜ。 」
それでも…いつまで居てくれるかは分からないけど…亮が何となく切なそうに言った。
ずっと居て欲しい…ここを居場所にして欲しいけど…所詮…ここはノエルにとっては仮の住いでしかない…。
「亮…まだ…ノエルが好きなのか? 」
有に問われて亮は軽く頷いた。
出会ってから一年近くも女の子だと思い込んで…両方だって分かってからも諦められなかったんだ…。
そう簡単に忘れられないよ…。
「でも…もう…僕の手から解放してやんなきゃいけないんだ。
僕がいつまでも甘えてちゃ…ノエルが可哀想だもの…。
あいつ…想う人が居るんだよ…。 」
ノエルの想う人…か…。
そのことに…心当たりがないわけではなかった。
実を言えば以前から…有だけでなく…ノエルに想いを寄せられている当の本人以外はみんなうすうす気付いていた。
けれども誰にもどうしようもないことだった。
言わない方がいい…知らない方がいい…それが周りの共通した意見だった。
多少時間がかかっても…ノエルの想いが自然に消えていくのを待つ…それしかないと…誰もが思っていた。
それから数日…学校生活でもバイト先でもこれという動きは見られなかった。
西沢が直接のコンタクトを望んだせいもあるかもしれないが、おそらくは自分たちの正体が露見することを懼れてのことだろう。
警告者たちが自分たちの存在をできるだけ他人に知られないようにしておきたいと考えているならば、同じ相手に何度も接近するのは危険なことだ。
相手から逆探知されないとも限らないし、何処の誰が脇から聞き耳を立てているやも知れない。
ノエルに遠方から思念を受け取らせた男は…おそらく海外から思念を飛ばしているのだと思われる。
遠距離間での不安定な交信で思わぬ不都合が起きないように、できるだけ交信相手を特定するため、わざわざノエルに目印をつけさせたに違いない。
何れにせよ…この国にも支部のようなものを置いていると考えてよく、そこからあちこちに警告書を送ったのだろう。
無論…この国だけではなく…口振りから察するに…世界中の能力者に宛てても警告はなされているはずである。
真面目に受け取った者が何人居るかは別として…。
「…じゃあ有理…ノエルを抱っこしてみて…捕まえちゃって。 」
小さな有理は一生懸命…爪先立ちで背を伸ばしてノエルの背中に飛びつく。
いくら小柄でもノエルは大人だから…抱っこしているというよりはおんぶされてるという形になりながらも有理はノエルにしがみ付いて…捕まえた…と可笑しそうにケラケラ笑う…。
捕まったぁ…と言いながらノエルも笑う。
笑いながらノエルを抱える有理の手を捕まえて引っ張り上げ肩車してやると、有理のご機嫌は急上昇。
立って…ノエル立って…とせがむ。
怜雄お父さんよりはずっと低いけれどそれでもノエルが立ち上がると大喜び。
ノエルに遊んで貰っているつもりの有理は瞬時もじっとしては居られないので、西沢の手が素早く動いてふたりの戯れる様子を描きとめていく。
年齢のわりに子どもっぽく見えるノエルを有理は恰好の遊び相手…と感じ取ったらしく、この部屋に来てからノエルの傍を片時も離れない。
他愛のない遊びを楽しげに繰り返すふたりを描きながら…時折…仕事であることも忘れてふたりの仕草に見入っていた。
チャイムが鳴って小学生の恵が弟の有理を迎えに来た。
マンションの正面玄関のところで西沢家のお手伝いさんが待っていることは分かっていたが…西沢はまるでひとりで迎えに来たかのように恵を褒めてやった。
偉いね…恵…お迎えご苦労さま…そう言って恵の頭を撫でた。
まだ遊び足りないのを我慢して有理はノエルに手をひかれて玄関へと出てきた。
ノエルの顔をチラッチラッと見上げている。
玄関でノエルはそっと腰を屈め…また遊ぼうね…と言いながら、有理の大事な玩具用バスケットを渡してやった。
ノエルまたね…と手を振ってお姉ちゃんに付いて帰って行った。
まめ台風が去った後は、しんと静かで何となく寂しい。
子どもってそこに居るだけですごいエナジーを発してるんだな…。
ずっと小さな子どもの居ない生活をしてきたノエルはしみじみそう感じた。
西沢が今さっき描いたデッサンを見直している間、モデルの仕事も暇になったノエルは何気なく仕事場のパソコンを開いた。
ホームページのニュース欄に入ってきた見出し…謎のカルト集団襲撃される…。
カルト集団か…どこかの国で集団自殺図ってえらい数の信者が死んだって話は聞いたことがあるけど…。
ノエルはその記事を開いてみた。
E国R通信によると…古くから謎のカルト集団として存在している『HISTORIAN』の本部が何者かに襲撃され…死傷者が多数出た…。
集団の活動は…宇宙の真の成り立ちと地球の隠された歴史を研究する目的が主で…云々…。
同集団は純粋に研究集団であるため他の集団とのトラブルは無かったので襲撃された理由は皆目見当がつかないと生き残った幹部は言っている…。
へぇ~…怖いね…。 こっちが何もしてなくても気にいらねぇって攻撃してくるやつもいるんだね…きっと。
「ねえ…紫苑さん…。 地球の隠された歴史って…なんだろうね? 」
ノエルは問いかけた。 さあね…そんな記事がでてる?
興味が湧いたのか西沢はパソコンを覗きこんだ。
しばらく…じっと記事を読んでいた西沢の表情が徐々に真剣なものになった。
「…ノエル…彼等かも知れない…。 確信はないが…。
もしそうなら…これ以上関わるのは危険だな…。
未だに何が起こっているのかさっぱり分からんから…対処のしようもないし…。」
こうなると彼等が警告書をばら撒いたことで、巻き添えを喰わされる羽目に陥る者が出てこないとも限らない。
西沢は少し考えてから急いで仕事部屋を出た。
何処かへ連絡をしているようだったが…ノエルには聞き取れなかった。
お疲れさま…の声とともに亮とノエルは連れ立って書店を後にした。
マンションの前を通り過ぎ…久々に亮の家へ帰る。
蒸し暑い夏の夜…散歩する人も疎ら…それでも時折…今晩は…と声をかけ合う。
いつものようにふざけ合いながら公園に差し掛かった時、ふいに公園の方から妙な叫び声が聞こえた。
暗くてよくは分からないが…誰かが襲い掛かられているようにも見える。
通りかかった人がすぐに警察に通報した。
他人が見ているところでは亮もノエルも力を使うわけにはいかないが…一方的に襲われている人を見て放っておけないのがノエルの性格…。
亮が止める間もなく飛び出していってしまった。
近くまで行ってノエルは一瞬たじろいだ。
襲われていたのは…この前ノエルに襲い掛かった外人さん…。
襲っているのは…?
突然…当て身を食らったように蹲ってノエルがその場に崩れ落ちた。
油断と言えば油断だが…ノエルが相手の顔を確認することもできないほど素早い動きだった。
次の攻撃を防ぐために亮がノエルの周りに障壁を張った。
ノエルと異なって亮は戦闘型の能力者だ。
相手の動きが素早いのではなく、受容能力の高いノエルが相手の攻撃をもろに受け取ってしまったことを見抜いた。
生まれて初めての大失敗ってところだな…ノエル…。
ほんと危ないったらありゃしない…。
近所の交番からお巡りさんが駆けつけてきた。
人目につくのを懼れたのか…襲撃者は慌ててその場を立ち去った。
関わり合いになるのを避けるために亮はノエルを抱き上げると自分とノエルの周りに新しい障壁を張り、闇に溶け込むように気配を消した。
使えるようになったばかりの能力は長くは持たない。
急いで来た道を退き帰した。
倒れている例の外人さんがお巡りさんに助けられて事情を訊かれているのを尻目に小走りに西沢のマンションへと戻った。
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