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多発性嚢胞腎の漢方治療 医案1 腎病漢方治療177報

2013-07-20 00:15:00 | ブログ

顔正華氏医案 腎虚瘀滞、水湿内停案

多発性嚢胞腎とは?(医案に入る前に)

嚢胞性腎疾患で腎不全まで進行して問題になるのは、検診の腹部エコーなどで発見される単純性腎嚢胞ではなく、多発性嚢胞腎です。家族性の発生があり、常染色体優性遺伝をとるものが大半です。遺伝形式により成人型と小児型に大まかに分けられます。多発性嚢胞腎が原因で人工透析に導入された患者さんのお腹を触れば、ほぼ腹腔を満たすほどに腫大した腎臓を触診することが出来ます。正常な腎臓は成人で1個が150g程度ですが、20倍~30倍の大きさになっています。

成人型多発性嚢胞腎(Polycystic Kidney Disease: 以下PCKD)は、末期腎不全患者の510%を占めると報告があります。病理学的には、尿細管の変性から引き続き原尿の塩分や水分が尿細管から再吸収されず尿細管内腔に塩分や水分がたまってきて、どんどん膨らむことにより嚢胞が多数発生し、数、サイズが増加して、周りの間質に線維化が起こり、両腎でほぼ100万個ある正常な糸球体と尿細管組織がだんだん減少して腎臓の働きがなくなってきます。また、腎血流不全が生じて、糸球体ろ過値(GFR)も低下し、高血圧も生じてきます。

多発性嚢胞腎の遺伝子は、染色体の16番目(PKD1遺伝子)あるいは4番目(PKD2遺伝子)にみられ、85%の家系では16番目に異常があります。つまり、PKD1遺伝子、PKD2遺伝子が正常ならば、成熟した完全な尿細管ができるが、これらがうまく作動しないと、成熟した形にはなれないので、嚢胞腎の原因となるといわれています。
日本では多発性嚢胞腎が原因で透析に導入される患者数は年間大体700人程度です。中国の医療統計は知りませんが人口比から推定すれば年間10000人程度の末期腎不全患者が発生しているということになるでしょう。

医案に進みましょう。

患者:路某 38歳 男性 職工

診察年月日1992316

病歴

持病が多発性嚢胞腎で左腎が重症であった。半年前レントゲン検査で左腎に嚢胞のうちの1個が5.6cmx6cmと大きくなり、中には液体の貯留があることが判明した。平日腰部(腎区)から後背部分が沈張(下垂感を伴う張った感じ)があり不快で、平臥すると症状が加重した。

1月初旬に顔氏を受診、薬剤投与後沈張は大減したが、2月中旬になると沈張が再度加重し、某大学医院にて嚢胞の穿刺により液体を抜いて、術後沈張は減軽した。近日、また沈張感が加重、患者は再度の穿刺を望まず、顔氏を再診した。腎区に軽度の殴打痛があり、体はやや胖、食欲正常、ほかに自覚症状なし。舌暗紅、苔薄白膩、脈滑。

弁証:証は腎虚瘀滞、水湿内停に属する

治法:化瘀利水消腫、補腎強腰

薬用

丹参30g赤芍10g 当帰6g 牛膝15g 益母草20g 茯苓20g 澤瀉10g 車前子15g(包煎) 桑寄生30g 川続断15g 杜仲10g 7剤 毎日1剤水煎服用 生ものや冷たいものを食べないようにして、激しい運動を避ける。

二診

薬剤服用後、腎区の沈張は大減した。前日油断して風寒を感受して、悪寒、発熱(38℃)、頭痛、鼻水、肢体発沈(四肢が重い感じが出現)、微咳。目下、熱は退き、食欲はあり、二便正常、舌紅苔黄微膩、脈浮滑。証は感冒発熱、兼腎虚瘀滞、水湿内停。発表清熱、化瘀利水強腰をもって治療する。

薬用:荊芥10g防風10g 金銀花10g 連翹10g 桔梗6g 杏仁10g(打ち砕いて使用) 炒枳殻10g 牛膝15g 益母草20g 車前子15g(包煎)丹参30g 川続断15g

三診

7剤服用後、悪寒発熱、頭痛、微咳は消失、腎区の沈張も著しく減軽した。再度、初診の原方を処方。基本方として常服するように伝え治療効果を固め、激しい運動を避け、病情の加重を防止した。

評析

患者の持病の嚢胞腎は、慢性化すれば腎を障害するのは必定であり、瘀にいたる;腎虚により水湿になり易く、ついに嚢胞内に水が溜まる、溜まった水が充満し、腰背の経脈を牽引するので、腰には沈張が生じ、不快で、上は背に及び、平臥すると加重する。治療は化瘀、利水、強腰の三方面から着手し効果を収めた。初診方中では、丹参 赤芍 当帰の活血化瘀を重要視し、益母草、牛膝で化瘀利水、茯苓、澤瀉、車前子で利水消腫、桑寄生 川続断 杜仲にて補腎強腰とした。

―後略―

顔正華臨床経験精選より)

ドクター康仁の印象

多発性嚢胞腎(PCKD)の経過中に、一部の嚢胞が大きくなって本案のような経過を示すこともあります。また、嚢胞に感染を併発することや、出血(肉眼的血尿)などの症状が出現します。

PCKDの長期的な治療法という意味合いを、氏の処方が持ちえるかどうかが問題でしょう。新たな嚢胞の発生数と嚢胞のサイズの増加速度を減少させ、腎不全への進行を防ぎえるかということです。

そこで、大きくなった嚢胞は果たして小さくなったのか?水液の貯留が止まったのか?腎エコーで確認して欲しかったですね。

1992年の1月の初診時の処方の記載がなく、初診を3月にしました。この辺りが中国医案の微妙なところです。

僅か2週間の経過を述べただけでは、その後の再発についても観察していない訳ですから、評価は「自覚症状の改善に有効であったと」いうことでしょう。

皆さんはどう評価されますか?

2013720日(土) 記