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多発性嚢胞腎の漢方治療 医案3 腎病漢方治療179報

2013-07-23 00:15:00 | ブログ

?玉清氏医案 脾腎陽虚 痰飲停留案

(中国当代名医医案医話選 より)

患者:王某 55歳 女性 工場労働者

初診年月日19891219

主訴:進行性腰痛(近半年)

病歴

19894月、腰痛が悪化し、少腹痛、口干苦、発熱(37.538℃)にて、某病院にて入院治療を受ける。入院期間中、三回超音波検査を受け、右腎嚢腫、右腎積水、抗生物質治療1月余を受け、効果が見られず、退院して中薬と敷膏に改めて、症状が寛解し、腰痛は軽減した。10月に再度発熱し、某病院に入院し、超音波検査、レントゲン検査で、右腎はすでに萎縮して機能しておらず、左腎積水(水腎症 hydronephrosis)と確定診断され、右腎は手術で摘出すると説明があったが、患者は当時全身状態が良くなく、同意せず退院となった。その後、多数の医師の治療を受けたが症状は加重するので、1219日に?氏を受診した。

コメント

水腎症(すいじんしょう、hydronephrosis)とは、尿路狭窄などの尿路通過障害のため、腎盂(じんう)、腎杯(じんぱい)が拡張した状態を言います。先天性水腎症では発生異常、後天性水腎症では尿路結石症、腫瘍、炎症などを原因とします。

両側の尿路通過障害が進み、閉塞すれば腎後性腎不全になります。治療法は、外科的に、一時的に経皮的腎瘻(じんろう)を造設することもありますが、通過障害の原因を取り除くことが第一です。

Jpeg

写真:左上の腎臓が水腎症に冒されている腎で、右上は水腎症を経て、既に萎縮しつつある腎です。両側の尿管が拡張していますので、両側の尿管と膀胱の結合部分に何らかの尿管の狭窄機序があったものと推定されます。下部中央が膀胱です。

Humpath. Com Human pathologyより

http://www.humpath.com/spip.php?article3391

多発性嚢胞腎とは全く別な疾患です。嚢胞性腎疾患にも分類されません。

初診時所見

患者形体消痩、面色は黒ずんで艶が無く、精神倦怠、舌質淡胖、苔薄白、脈濡数。腎区に殴打痛あり、触診で腫塊を触れない。尿検査:蛋白(+)WBC1~3;超音波検査:右腎萎縮、左腎水腎症、皮質変薄(腎盂の拡大が進んで腎皮質が圧迫され萎縮し薄くなっている)

診断:腰痛(水腎症)、脾腎陽虚、水泛して痰となる。

治療:温補脾腎 化気行水

処方

桂枝25g 茯苓25g 白朮15g 丹参25g 桃仁15g 肉桂7g 香附子15g 白芍25g 続断15g 桑寄生15g 黄蓍25g 6剤 日に1剤、水煎服用。

1225日二診

服薬後、体が前より軽くなった感じがして、腰痛が減軽した。尿検査は正常に回復した。方薬を変えず、継続服用10剤。

15日三診

患者は目下、着涼(体が冷えて)、咽喉の乾燥痛を覚え、腰痛はやや強くなった。舌淡舌辺舌尖紅、脈弦滑。

処方:双花(金銀花)25g 連翹15g 桔梗15g 牛蒡子15g 麦門冬15g 茯苓25g 白朮10g 生甘草15g

111日四診

患者の咽喉燥痛感消失、まだ軽微な腰痛あり。超音波検査:右腎萎縮、左腎の水腎症は以前に比較して顕著に減少(改善)。更に温補脾腎、化気行水兼活血を行う。

処方:桂枝15g 白朮15g 茯苓25g 生甘草15g 丹参25g 桃仁15g 紅花15g 香附子25g 続断15g 当帰15g

26日五診

自覚症状は基本的に消失、超音波検査にて左腎は正常。過労を避け、腎気丸に改め治療効果を固めるように話す。半年後、超音波検査で左腎正常、右腎萎縮。

評析

本案の患者は多発性嚢胞腎と水腎症であり、脾腎陽虚により気血水湿痰濁が停滞するに到ったものである。故に、苓桂朮甘湯加桑寄生、続断にて温補脾腎、淡滲利湿、通陽化気し、また其の積飲が深伏するに因り、桃仁、丹参等の活血の品にて行水の助けとし、香附子で行気し、散水の補助とし、諸薬が協調して効果を得た。

治療過程中、患者は風熱を外感し、清熱解毒袪風の品と同時に、温陽化気行水を忘れず、以って其の標を治癒せしめた。

ドクター康仁の印象

評析の疑問点は、既に萎縮してしまった右腎についてです。多発性嚢胞腎であれば、医案のように萎縮することは珍しく、左腎にも嚢胞性病変が出現するのが殆どであり(超音波検査で左腎には嚢胞が存在しないことは確認されています)、偏腎性のものは極めて稀ですので、多発性嚢胞腎という単語を持ち出すこと自体が不可解です。

比較的急速な尿管の通過障害に伴う左腎の水腎症については、通過障害と感染が改善したので、自覚症状を軽減されたという点で評価はできます。しかし、これとて、薄くなった腎皮質が2ヶ月足らずで正常に復するかどうか、大いに疑問はあります。(感染症に対する抗生物質などの記載は例によって記載されていません。最初に入院した病院での抗生物質治療は妥当なものでしょう。)

本案は多発性嚢胞腎の医案として収載されていますが、左腎の水腎症の中医案です。

2013723日(火) 記