陳以平氏医案 脾腎欠損 水湿挟瘀案(糖尿病性腎不全 ネフローゼ症候群症例)
(腎病的弁証と弁病治療より)
患者:?某 64歳 女性
初診年月日:2000年6月19日
病歴:
10年余、糖尿病を患い、3年来蛋白尿が出現、昨年腎機能の低下が出現、半年来、浮腫が加重し、尿量が減少してきた。
初診時所見:
脈沈弦細、舌淡白、Cre375μmol/L(4.23mg/dl)、BUN20mmol/L(120mg/dl)、アルブミン2.38g/dl、尿蛋白定量6.86g
(コメント:糖尿病性腎症であり、腎不全、ネフローゼ症候群を呈しています)
治法:
温腎健脾 利湿泄濁法
方薬:
黄耆60g 山薬15g 益母草30g 車前子30g 黄精20g 防己12g 蒼朮 白朮各12g 党参 丹参各30g 枸杞子20g 葫芦瓢(清書により平~涼と性が異なる。瓢箪の果実 利水消腫に作用する)30g 山茱萸30g 桂枝6g 炮附子12g
経過
14剤服用後、浮腫は著明に消退した。上方を継続服用する他に、牛蒡子粉10gを日に2回に分けて服用し、活血通脈胶囊(カプセル)を服用させた。1ヵ月後、Creは233μmol/L(2.63mg/dL)と減少し、BUNは15mmol/L(90mg/dL)に減少した。血清アルブミンは3.2g/dlに上昇し、尿蛋白定量値は0.928gと著減した。外来で継続的に観察しているが病情は安定している。
評析
陳氏は、糖尿病性腎症の治療は、中医の弁証論治を基礎にして、西洋薬を配伍して、血糖を下げ、脂質を下げ、降圧治療を行うと主張する。活血化瘀を終始治療に用い、黄耆の効果を重要視し、山薬、牛蒡子、蒼朮、白朮の蛋白尿の消除効能も重視する。糖尿病性腎病時には血流改善という意味で、活血化瘀及び温陽養陰剤を使用し、効果は優れたものになっている。
ドクター康仁の印象
中医治療によりネフローゼ症候群は改善したといえるでしょう。当面の血液透析はCre、BUNの改善によって避けられるでしょう。Cre2.63まで改善しましたが、BUNは90と依然として高いのは、中国人の豚肉を中心とする高蛋白食生活の影響と思います。陳氏の医案は、まずまず記載が正直であることが特徴です。
さて、
糖尿病性腎症に限らず、ネフローゼ症候群では黄耆は大量使用しますが、陳氏の牛蒡子は評析にあるような効果があるのでしょうか?牛蒡子のみが寒薬で、瀉薬ですので私にはやや疑問です。おそらくは上気道感染症の予防(中医学的には風熱感受の予防)目的でしょう。黄耆60gもさることながら、山茱萸30gも大量です。蛋白尿の減少に黄耆と山茱萸が貢献していると思います。
活血通脈胶囊(カプセル)は氏の医案にはよく出現しますが、組成は明らかではありません。
ところで、
昔は病院の工場で中成薬を、各病院が自由に生産することが可能でしたが、中成薬の法改正により現在では不可能になりました。政府が認可した中成薬の中の成分にも、農薬の残留や、重金属の汚染などの問題が出てきています。西洋の化学物質をこっそりと混ぜる裏技もあるようですので、ネット通販の際には注意が必要です。近代中国の人口の増加速度に対応して、生薬の増産を目論めば、天然産物では間に合わず、農薬による人工栽培に頼らざるを得ないのが現状でしょう。急速な工業化による大気、水質、土壌汚染も深刻な事態になりつつあります。
2013年7月11日(木) 記